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第5話ー⑤ 未来へ

 数日後――


 再び恵里菜の登校日だった。


「キリヤ。今日もついて来なさい」


 朝食を終えた恵里菜は、そう言って紅茶を口にはこぶ。


「それは構わないけど、僕はまた学校探索?」

「好きなことすればいいわ。学校探索でも、学園長とお茶をするでもね」

「わかった。じゃあ適当に時間を潰しておくよ」

「ええ。でも時間は厳守よ? 今度過ぎたら、処刑よ処刑。いいわね?」


 そう言って恵里菜はキリヤを睨む。


「肝に銘じます」


 キリヤは苦笑いでそう言った。


 それからキリヤは恵里菜と共に夜明学園へと向かった。そして学園に着くと、恵里菜は校舎のほうへ歩いて行ったのだった。


「じゃあ僕はどうしようか」


 そしてキリヤは、1人で校内を散策することにした。


「暁先生が創った学校か……どんな想いでここを創ったんだろう。そもそもいつから学校を創ろうなんて考えていたんだろうな……」


 しばらく歩くと、『資料館』と書かれている建物を見つけるキリヤ。


「資料館って……何の資料があるんだろう」


 それからキリヤはその建物に脚を踏み入れた。そしてそこには学園創設までの足取りと称し、その成り立ちが写真で掲載されていた。


「――あの隔離事件のあとのことなんだね」


 写真に書かれていた日付と当時の暁の姿を見たキリヤはそう呟いた。


 それからキリヤは順番に写真を見て行き、最後の額縁にS級クラスの時にとった集合写真が飾られているのを見つけるキリヤ。


「額縁に飾るくらい大事に思ってくれていたんだね、先生」


 懐かしい写真を見て、キリヤはそう呟き、優しく微笑んだ。


 それからキリヤは資料館を一周した後、校内を周り、探索を終えた。そして校門の前で恵里菜が終わって出てくるのを待っていると、恵里菜と恵里菜の横で歩く少女の姿をキリヤは目にした。


「お疲れさま、恵里菜。えっとその子は……」

「この子は――」

「あ、お迎えがいたんですね! それではまた明日。恵里菜さん、今日は本当にありがとうございました。助かりました!!」


 そう言って少女は微笑み、門の外へと出て行った。


「……何かあったの?」

「別に。あの子が困っていたから助けてあげただけよ」

「へえ」


 恵里菜の言葉を聞き、目を丸くするキリヤ。


「何驚いているのよ!! ……キリヤが言ったんでしょ。何もしないのは『予定調和』と同じだって。だから私、変えたかった……変わりたかったの!!」

「そうなんだ」


 そう言って微笑むキリヤ。


「ああ、もう! 行くわよ!! 今日は慣れないことをして疲れたわ!!」

「じゃあ帰りにその話を聞こうかな」

「うっさい!!」


 それからきキリヤは恵里菜と共に姫川家へと帰宅したのだった。


 ――翌日。


 恵里菜は今日も学校へ行くと言って、家を出た。


 そして家にいる他の使用人たちはそんな恵里菜を見て驚いていた。恵里菜さんになにがあったの――? と言って。


 少しでも恵里菜を変えたのなら、あの時の言葉が言ってよかった言葉だったのかもしれない――


 そう思いながら、楽しそう朝食を摂る恵里菜を見つめるキリヤだった。


 そしてそれから数日間、恵里菜は毎日学校へ通っていた。


 恵里菜は今までの人生でやってこなかったことを少しずつ始めているようで、だんだんと人生の楽しさを知り始めているようだった。




 しかし数日後。朝食を終えた恵里菜は部屋に籠ったまま出てこなかった。


「恵里菜? 今日は学校に行かないの?」

「行かない。今日は行きたくない」


 昨日までは楽しそうに学校へ行っていた恵里菜だったが、急に態度が変わった姿を見て、キリヤは違和感を抱く。


 昨夜までの様子を考えると、学校で何かあったと考え難い。じゃあもしそうだとしたら――


「恵里菜、何を見たの?」


 キリヤがそう言うと、恵里菜は部屋から出てきた。


「恵里菜――?」

「……出かけるわよ」

「う、うん」


 それからキリヤは恵里菜と共に外出する。そしてキリヤたちが到着した場所は、キリヤが恵里菜と初めて出会った公園だった。


「何を見たの、恵里菜?」


 キリヤがそう尋ねると、恵里菜は暗い表情でキリヤを見つめる。


「今日の放課後、あの学園は爆発する」


 恵里菜は淡々とそう告げた。


「……え?」


 突然のことに驚き、硬直するキリヤ。


 今なんて言ったの? 学園が爆発するって――?


「だから今日は行かない。キリヤもここにいなさい」

「そんな……」


 ようやく恵里菜は変わり始めたのに、そんなのあんまりだ。なんで――


「原因はわかっているの?」

「さあ。でも誰かの能力に仕業ってことだけはわかっている。その能力者も能力も不明、そんな危険なところにはいけないわ」


 恵里菜は眉間に皺を寄せてそう言った。


「でも、恵里菜はこのままでいいの? せっかくできた恵里菜の友達も、その爆発に巻き込まれるんじゃないの?」

「――ええ。あの子はその時に死ぬわ。今回の爆破事件でほとんどの生徒たちが巻き込まれて死ぬことになっているの」


 その言葉にキリヤは衝撃を受け、拳をぎゅっと握った。


「わかっていて、それでも恵里菜は行動しないの……?」

「そうよ」


 淡々と恵里菜はそう言った。


「恵里菜は『予定調和』を変えたかったんじゃなかったの?」


 キリヤが語気を強めてそう言うと、


「確かに、変えたかった――でも命を懸けてまで変えるリスクを取りたくはないわ。だったらわたしは予定調和のままでいい……」


 そう言って俯く恵里菜。


 なんでだよ……本当にそれでもいいって思っているなら、そんな顔しないだろ。どうして自分に嘘を吐くんだよ――


「……恵里菜が行かないのなら、僕が行く。恵里菜の友達もクラスメイトもみんな助けるんだ!」


 そう言ってキリヤは恵里菜に背を向けた。そして、


「待ちなさい!!」


 恵里菜はそう言ってキリヤの腕を掴む。


「恵里菜?」


 キリヤはそう言って振り返った。


「待ちなさい。ダメよ、キリヤも行ったらダメ。きっと助からない。みんなもキリヤも……だからここにいなさい!!」


 恵里菜はキリヤをまっすぐに見てそう言った。


「僕は救えるかもしれない命があるのに、諦めるのは嫌だ!!」


 そう言ってキリヤは恵里菜の手を振り解こうとした時、ふと前に出会った女性の言葉を思い出した。



『君がいつかまたここへ来たとき、そこにいる少女の手は離さないことね。もしも君の願いを遂げたいというのなら……』



 あの時の言葉の意味をキリヤはようやく知った。


 この手を振り解けば、きっと未来は変わらない。だったら、僕は――


 それからキリヤは掴まれていた恵里菜の手にそっと自身の手を重ねる。


「恵里菜。君の力が必要だ。僕だけじゃ、救えないかもしれない――でも、きっと恵里菜がいれば、恵里菜の見た未来は変えられるかもしれない。今までもそうだったでしょ?」


 恵里菜の行動が変わり、恵里菜の人生が変わり始めていたことをキリヤは知っていた。


 それはきっと、恵里菜自身も気づいているはず――


「でも今回は勝手が違う……」


 恵里菜は俯きながら、そう呟く。


「信じて、自分の未来を。そして僕のこともね」


 そう言ってキリヤは恵里菜に微笑んだ。そして恵里菜は顔を上げて、キリヤの顔を見つめる。


「……何かあったら、責任取りなさいよね」

「もちろん!」

「ふん」


 恵里菜はそう言って、頬を赤く染めながらそっぽを向いた。


「ふふふ。じゃあ、行こう!」

「ええ」


 それからキリヤは恵里菜と共に夜明学園へと向かったのだった。



 ***



 夜明学園にて――


 授業時間中、静かな校舎内を一人の少年がうろついていた。


「あそこと、あそこと……あとはあそこもなかなか面白いことになりそうだ」


 そんなことを呟きながら、少年はにやつく。


「はあ。でも最近、恵里菜が変わり始めて、ちょっと想定外なんだよね。このままじゃ僕の華麗な計画が台無しだ。だから恵里菜。僕が君を絶望に突き落としてあげるよ。そうしたら、僕の計画も……ふふふ」


 そしてその少年は、計画の開始時間を待つのだった――。


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