第5話ー② 未来へ
――学校前。
車は門の前で停車し、キリヤと恵里菜は車を降りた。
「あ、今日は来たんだね! 恵里菜、おはよう!」
そう言いながら駆け寄る少年。
「あっちに行きなさい。あなたと話す時間は無駄だわ」
恵里菜はそう言って、校内へとズカズカと歩みを進めた。
「相変わらず、ひどいなあ。あははは!」
恵里菜からの暴言をへらへらと笑いながら受け流す少年に、すごいメンタルだな――とキリヤはそう思いながら、静かに見つめるのだった。
「ってかさ、さっきから後ろについて歩くこの人は誰?」
少年はそう言ってキリヤに目を向ける。
「あなたが知らなくてもいいことでしょ。学校から許可は得ているし、不法侵入ではないわ」
「へえ。恵里菜がそこまでして近くにいたい奴ってことね……」
そう言いながら、少年はキリヤをジロジロと見つめる。
なんだろう、この視線。僕に対する嫉妬じゃなくて、もっと違うものを感じる――少年と目が合ったキリヤはふとそんなことを思う。
「うっざいわね! 早くいなくなりなさい! 目障りよ!!」
恵里菜がそう言うと、少年はさっさと走って行ってしまった。
さっきの視線はなんだったんだろうと思いながら、走り去る少年を見つめるキリヤ。そして、
「いつまで馬鹿みたいな顔をしているの? あなたはとりあえず授業には出られないんだから、学校探索でもしてなさい。終わったらまた連絡するわ」
そう言って恵里菜は校舎の方へ歩いて行ってしまった。
「学校探索って……大丈夫なのかな」
キリヤはため息交じりそう呟く。
「でもただ座って待っているだけじゃ、未来は変えられないよね。恵里菜が退屈しない方法をどうにかして見つけないと……」
それからキリヤは校内の探索を始めたのだった。
恵里菜と別れたキリヤは、学校内にいる大人に話を聞いて回っていた。そしてその話を整理して、ようやくこの学校の存在を理解したのだった。
恵里菜の通うこの学校は『夜明学園』と言い、『白雪姫症候群』の子供と無能力者の子供が混在している学び舎ということ。
そしてこの時代では『白雪姫症候群』のクラス分けがされていないことを知った。
「……僕のいた時代では、能力でクラス分けをされていたはずなのに。この50年で一体何があったんだろう」
そんな疑念を抱きながら、キリヤは校内を歩いていた。すると、正面からスーツを着た藍色のショートヘアの女性が歩いて来る。
キリヤはその女性に会釈をすると、女性はキリヤの前で立ち止まった。
もしかして不法侵入者と思われているのかな――
そんなことを思い、息を飲むキリヤ。
「あなた……名前は?」
「え……? 僕は、桑島キリヤですが……」
キリヤがそう言うと、女性は驚いた顔をする。
「やっぱり……」
「やっぱり?」
キリヤはそう言って首をかしげた。
「ちょっと付き合ってもらえるかしら?」
「あ、はい!」
いきなり何なんだろう。……それに。この人は、僕を知っている? なんでかな――
そしてキリヤは黙ってその女性の後ろをついて歩いた。
「そうだ。自己紹介が遅れてごめんなさい。私は最上水蓮。この学園の学園長をしているの」
「は、はあ」
『最上水蓮』? 聞き覚えのない名前だな――
そんなことを思いながら、その女性を見るキリヤ。
「まさかこんなところで会えるなんてね。きっと、あの人が聞いたら喜ぶわ」
そう言ってキリヤに微笑む水蓮。
「あの人……?」
「ええ。これからあなたが会いに行く人。ずっとあなたを探していたの。眠りにつくあの日まで、ずっとね」
「は、はあ」
最上さんのいうあの人も僕のことを知っているようだけど、いったい誰のことなんだろうか――
それからキリヤは学園から出て、水蓮と共にタクシーへ乗り込んだ。そして到着した場所は元の世界にある研究所によく似た建物の施設だった。
「ここは?」
「かつては『白雪姫症候群』の研究をしていた施設の一つね。今はほとんど使われていない場所で、能力が原因で眠っている子供たちをここで管理しているのよ」
「そうなんですか」
じゃあこれから会う人は、ここに眠っている人? それだと子供ってことになるけど、僕に関わりがあるとは思えないな――
そんなことを思いながら、顎に手を当てて考え込むキリヤ。
「ええ。でも、キリヤ君が会うのは子供じゃないわよ。まあ子供みたいな人かもしれないわね」
そう言って笑う水蓮。
「?」
その言葉の意味を理解できなかったキリヤは首をかしげていた。
「じゃあ行きましょう」
そしてキリヤたちは建物の中へと進む。
キリヤは歩みを進めながら、その建物の中をまじまじと見ていた。
研究所にそっくりだな――そんなことをふと思う。
そして、
「ここよ」
水蓮にそう言われ、その部屋のネームプレートに書かれた名前を見たキリヤは、目を疑った。
「嘘、ですよね……この、『三谷暁』って」
「嘘じゃないわ。さあ中へ」
それからキリヤは水蓮と共に部屋の中へと入っていった。