第4話ー④ その始まりを知って
「――そしてその力を持ちこんだ子供の一人が……桐谷篤志だ」
「え!? 桐谷さんが!?」
「ああ」
「そんな……」
そう言って俯くキリヤ。
「篤志は一緒にこの時代にきた友人に裏切られ、行き場を失い……そしてこの神社にたどり着いたようだ」
「桐谷さんに、そんなことが」
仲間内でもそんなことがあったんだ。でも、なんで裏切りを――?
そんなことを思い、キリヤは考え込む。
「そして、篤志のほかに現代へ来たという2人の子供。それが『姫川恵里菜』と『神楽坂隼人』だ」
聞き覚えのない名前に、キリヤは首をかしげた。
「ああ、すまないね。『姫川恵里菜』は今、『魔女様』と呼ばれている」
「それって……」
キリヤは『エヴィル・クイーン』の子供たちが口にしていた『魔女様』というワードを思い出した。
「心当たりがあるみたいだね。それと『神楽坂隼人』は総理大臣の安藤征夫の面をかぶっている」
「総理の……? それって、どういうことですか?」
「もうあの総理は、本物の安藤征夫ではないということさ。おそらくもうだいぶ前に、彼らの手によって……」
神主は険しい顔でそう言った。
「え……どうしてそこまで!?」
「さあ。なぜ彼女たちがそこまでするのかはわからないけれど、でも今の政府は魔女たちの毒に侵されてしまっているんだ」
「この国が今、そんなことになっていたなんて……」
そう言って俯くキリヤ。
そしてキリヤは自分の無知さに悔しくなり、唇を噛んだのだった。
「少し脱線をしてしまったが、まあつまりは君たちの言う『白雪姫症候群』という力は、もともと私達一族の力だったってことだよ」
「そうですか……」
いろんな情報を一度に伝えられたキリヤは少し混乱していた。まさか『白雪姫症候群』に関わる内容が、ここまで大きな話だとは知らなかったからだった。
とりあえず一度、頭の中を整理しよう――
キリヤはそう思いながら今までの話を整理して、少しずつ内容を把握していく。
まずは、『白雪姫症候群』はどこかから急に芽生えたものではなく、ちゃんと元があったということ。
そしてこの力の元となる力は、未来の子供たち――『姫川恵里菜』たちによって現代に送られ、そしてまた新たな未来が構築されて行き、自分の今いる世界ができていったということ。
もしかしたら突然変異の世界もあるだろうけど、今はもうこのループがスタンダードになっているんだろうな――
そして大体のことを把握したキリヤは、あることを思いつく。
神主さんたちの一族が大元の能力を持っているということなら、神主さんなら能力消失の方法を何か知っているかもしれない――と。
それからキリヤは頷くと神主の顔をまっすぐに見て、
「あの。この力を消す方法はわかりますか? どうしても助けたい人がいるんです」
神主にそう告げる。しかし、
「……すまないね。確かに元は私達一族の力だったけど、君たちの中にあるその力は、もう違う力なんだよ。だから私にはどうにもできないんだ」
そう言って申し訳なさそうな顔をする神主。
「そうですか……」
肩を落としながらそう言うキリヤ。
わかっていたら、もう何かしらのアクションをしているはずだよね――
そんなことを思い、キリヤは深い溜息をついた。
「まあでも、一つだけ方法はあるよ」
「え……?」
「未来を、変えるんだ」
神主は真剣な顔でそう言った。
「……未来を!? どういうことですか!?」
「要するに、篤志や姫川恵里菜を過去に送らなければいいってことだよ。そうすれば、おそらく未来は変わる。そして過去も」
「簡単に言いますけど、そんなこと――」
「できるさ。なぜなら私が『ワタルモノ』の力を持っているからね」
腰に手を当てて、神主は自慢げにそう言った。
「『ワタルモノ』……?」
「まあ時間を渡る能力だね! この世界に関わる過去と未来には自由に行き来できる力さ」
「時間を……」
「そしてもちろん、対象の人物をその時代に送ることもできる」
そしてキリヤは、本当に未来を変えられたら優香を救えるのでは――? とそう思った。
しかし、ふとした疑問が頭をよぎる。なぜ神主さんは自身で未来を変えなかったのだろう――? と。
「あの……神主さんは行かなかったんですか、未来に」
「……行ったよ。『ツカサドルモノ』だけじゃ、わからなこともあったからね」
「じゃあなぜ、未来を変えなかったんですか?」
キリヤがそう言うと、神主は切なそうな顔をする。
「時空のはざまに巻き込まれるリスクを恐れたのかもしれないな」
「時空の、はざま?」
そう言って首を傾げるキリヤ。
「そうだ。あとで言おうと思っていたんだけどね。過去が変わると、その世界が崩壊する」
「世界が!?」
「ああ。崩壊する時、その世界に時空のはざまができるんだ。そしてそのはざまに落ちれば、存在が消えてなくなるか違う世界に飛ばされて、もう二度と戻って来れなくなる可能性があった」
「そんな……」
そうだよね……世界を変えるなんて、そんな簡単なことじゃない。それ相応のリスクがあって当然か――
そう思いながら、俯くキリヤ。
「だからそれを踏まえて、キリヤ君自身が決めて答えを出してほしい。そのリスクの中で未来へ行って世界を変えるのか、それとも今のままでいるのか」
「僕は……」
「答えは急がないさ。ゆっくり考えて、決めてくれればいい」
神主はそう言って微笑んだ。
「さて、だいぶ話込んでしまったようだ。今夜はもう遅い、キリヤ君は部屋に戻って休みなさい。いろいろ聞いて混乱しているだろう? だからゆっくり休んで、また答えを聞かせてくれ」
「は、はい」
それからキリヤは神主の部屋を後にした。
「僕はどうしたら……」
そう呟き、キリヤはトボトボと用意された部屋へと戻って行ったのだった。