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第2話ー⑫ 湖畔の罠

「あ、僕いつの間に……あれ?」


 キリヤが目を覚ますと、そこに優香の姿がないことに気が付く。


「どこ行ったんだろう」


 そして昨夜の話をふと思い出すキリヤ。


「優香も先生も『ゼンシンノウリョクシャ』で、いつかは……」


 先生は何ともないみたいだけど、それはやっぱり無効化の力なのかな。その効力が優香にも働いて、優香も今まで通りにいられたらいいのに――


 そんなことを思いながら、俯くキリヤ。そして隣で眠っている龍の少女を見つめた。


「この子も『ゼンシンノウリョクシャ』って言っていたよね。じゃあいつかこの子もヒトじゃなくなるのか?」


 そしてキリヤはふと一つの疑問が浮かぶ。


『ゼンシンノウリョクシャ』ではない自分も、能力がなくならない身体になった。でも身体が凍り付くこともないし、体内で植物が育つ様子もない。『ゼンシンノウリョクシャ』ではない自分はこれからどうなるんだろう――と。


「まあ今は考えもわからない、か。また先生に会った時に、話を聞いてみよう。それと猫の話も……」


 そしてキリヤはその場に寝転んだのだった。




 しばらくすると、優香が部屋に戻ってきた。


「おはよ。起きてたんだ」


 そう言って寝転ぶキリヤの顔を覗き込む優香。


 少し顔が疲れているようにも見えるけど……気のせいかな――


「うん。おはよう、優香。……昨日はちゃんと眠れた?」

「うん! 大丈夫!! それと、朝ご飯できてるよ」

「わかった。ありがとう」


 優香もそう言っているし、今は信じよう。約束したから、きっと大丈夫だよね――


 それからキリヤは優香と共に食事会場の大部屋へと向かった。




 キリヤたちが大部屋に着くと、机の上に朝食の用意がしてあった。


「あらあら、おはようございます」


 ご飯が入ったおひつを手に持ちながら、宿主はそう言った。


「おはようございます。朝食の準備、ありがとうございます」

「うふふ。良いのよ。それにその子も一緒に用意してくれたのよ」


 宿主は優香の方を見てそう微笑んだ。


「そうなんだ。優香もありがとう」

「お口に合うかどうかはわかりませんけどね」

「きっと大丈夫だよ。じゃあ、食べよう!」


 そう言ってからキリヤたちは朝食を始めたのだった。




 朝食後、キリヤたちは龍の少女が眠る優香の部屋で過ごしていた。


「これからどうする? この子を一緒に電車へ乗せるわけにもいかないでしょ?」


 キリヤは少女を見ながら優香にそう問いかけた。


「それなら大丈夫! 昨日のうちに白銀さんには報告してあって、笹垣さんが車で迎えにしてくれることになっているから」

「え、いつの間に……?」

「キリヤ君がうとうとしていた時かな?」


 優香は笑顔でキリヤにそう告げた。


「あ、ありがとう、優香」


 そんな優香に、申し訳なさと自分の不甲斐なさを感じるキリヤだった。


「お昼前には到着するって言っていたし、帰り支度をしちゃおうか」

「そうだね! と言っても、特に片付けるものもないけどさ」


 そう言って部屋を見渡すキリヤ。


「まあ確かに。時間までどうする? 少し散歩でもする?」

「いいね。富士山をもっとちゃんと見てみたい――! あ、でも」

「ん?」

「この子はどうする? そろそろ目を覚ますかもしれないでしょ」


 そして再び少女の方を見るキリヤ。


「うーん。……じゃあやっぱり笹垣さんが来るまではここで待機だね」

「優香は行ってきてもいいよ? 今度は僕がこの子を見ておくからさ」

「ううん、私は行かない。だってキリヤ君と一緒にいたいもん」


 そう言ってキリヤに微笑む優香。


 どうしてだろう。優香のその言葉に、胸がチクチクと痛むのは――


 そんなことを思いながら、キリヤは微笑む優香を見つめる。


「ああ……でもそれを言うなら、キリヤ君はいいの? 富士山見たいんじゃ――」

「僕もいい。優香と一緒に見に行きたいから」

「そ、そういう恥ずかしいこと言わないでってば! もう!!」


 頬を赤らめて顔を背ける優香。


 あれ、怒ったのかな……? でも僕は限りある時間を優香ともっと一緒に過ごしたいって思っただけなんだけどな――


 そう思いながら優香の後姿を見つめるキリヤだった。


「そ、そういえばなんだけど!」


 優香はそう言って、ポケットから小さな箱を取り出した。


「これ、は……?」


 キリヤはその箱を見て、首をかしげる。


「宿主のおばあさんからもらったの。お、お揃いのバングル……昔、使っていたものをもう使わないから私たちにどうぞって!」


 それを聞いたキリヤは目を丸くして、


「え? そんな大事なもの、もらってよかったの!?」


 優香とその小さな箱を交互に見ながらそう言った。


「私もそれを思って聞いたらね、着けてもらった方がバングルも喜ぶからって。だから自分の代わりにつけてほしいって」

「そっか。それだったら」


 そう言ってキリヤは優香から箱を受け取り、その中にあるバングルを取り出した。


「僕、バングルなんて初めて着けたよ……」

「よく似合ってるじゃない。ほら、私も!」


 優香はそう言いながら、左手に着けたバングルをキリヤ見せる。


「優香も似合ってる。――でもお揃いってなんだか、ちょっと恥ずかしいね、あはは」


 キリヤは頬を赤く染め、頭を掻きながらそう言った。すると、


「は? 私とお揃いがそんなに嫌なわけ?」


 優香は鋭い視線でキリヤにそう言い寄る。


「そ、そうじゃなくて!! うーん。嬉しいけど、なんだかその……恋人みたいで恥ずかしいっていうか」

「こ、恋人って!? 何、馬鹿なこと言ってんの!! もうっ」


 優香は顔を真っ赤にして部屋を出て行った。


「優香!? ……そんなに怒らなくても。ちょっと、傷つくじゃないか」


 そう呟き、肩を落とすキリヤだった。

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