表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/126

第2話ー⑦ 湖畔の罠

『うるさい! 黙れ!! 私は聞いたんだ! 魔女様の側近がそう言っていた。それにほたるという少年も。だから魔女様は――』


 ほたる? さっきの少年か。もしかしてこの子も『エヴィル・クイーン』に騙されて……だったら早く助けてあげないと。また慎太みたいにこの子も――


 そしてゆっくりと龍を見つめるキリヤ。


『もう降参したほうがいい。お前の力では、私に勝つことはできないのだから――』


「僕がここで諦めたら、きっといろんな人たちが傷つくことになる。それに君だって!!」


『お前に何がわかる。私の悲しみなんて、わかりもしないくせに』


「もちろんわからない。でも僕は君を救いたい。その為にここへ来たんだ!」



 キリヤは、目の前にいる龍をまっすぐに見てそう言った。


『……そうか。ではお前はここで死んでもらう』


 そして龍が口を開くと、それと同時に湖の水が揺れ始めた。


『さようなら、ヒトの子よ。来世は幸せにな』


 龍がそう言って口を最大限に開くと、湖の水が龍の形になった。そしてその水の龍はキリヤに向かって飛んでいく。


「僕だって、『グリム』の一員なんだ! ここで負けるもんか!!」


 そう言ってキリヤは右手の手のひらを前に突き出した。


『馬鹿め。『ゼンシンノウリョクシャ』ではないお前に、それは止められんわ!』

「僕だって、S級なんだ!!」


 そう叫び、右手に力を集中するキリヤ。


 そして水の龍はキリヤの手に触れると氷化していった。


『なに!?』

「じゃあ続きを始めようか」


 右手を突き出したまま、キリヤはそう言って笑う。


『能力が向上した……? な、なぜだ!!』

「『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』の力の源は心の在り方だ! 僕は君を救いたい。その気持ちの強さがこの力の正体だよ!!」

『私を救う、だと!? お前に何ができる!』


 龍は口を大きく開けて、キリヤを威嚇した。



「……わからない。でも君の悲しみを僕は聞いてあげることができる。一緒に乗り越えていくこともできる! 君は1人なんかじゃないし、魔女以外だって、君のことをちゃんとヒトとして――」


『そんなわけない! 私の両親も友人もみんな私をバケモノと言って遠ざけた。そして何もないこの湖畔に捨てたんだ!! そんな私に魔女様だけが手を差し伸べてくれた。魔女様だけだったんだ!! 他の人間なんていらない。私は魔女様だけがいてくれればそれでよかった! それなのに……』



 そうか。この龍の子は、そんな悲しみを抱えていたんだね――


「君の想いは伝わったよ。でも君は一つ勘違いをしている。僕はその魔女に会ったこともないし、それに今どうしているかもわからない。生きているのか死んでいるのかすらね……」


 悲し気な表情でキリヤはそう言った。


『な、何、ふざけたことを――!』

「お願い、聞いて! 君を救えるほどの力がある魔女様なら、まだどこかで生きているんじゃないの? そんな簡単に消されるなんて、考えられないよ!!」


 こんな嘘が通じるかはわからないけど、でも言わないよりはマシのはずだ――!


『はっ、何を言っている! お前たち『グリム』がやったことはわかっているんだ! 他に誰が!!』

「わからないけど、でも。僕たちはそんなことはしない。ちゃんと話し合って、お互いのためになる未来を導き出すから!!」

『黙れ黙れ黙れ! お前はここで死ねえええ!』


 そして龍はキリヤに向かってくる。


「僕は君を助けたい。その気持ちだけはわかってくれ!」


 そう言って向かってくる龍を正面で待ち構えるキリヤ。


 一か八か。僕の力を信じる。優香みたいに良い策が思いつけばいいけど、僕には無理みたいだから――


 そして龍がキリヤに触れた時、龍は凍結し動かなくなった。


「ごめんね。もっとちゃんと話合うべきなのに」


 それから小さな種を龍の身体にそっと置くと、その種は芽吹き龍の身体に張り付く。


「この種は力を吸い出してくれる種。吸血草って僕は呼んでる」


 次第に大きくなっていく芽。そして大きな花を咲かせると、そこにいたはずの龍は人間になっていた。


「よかった……力が吸い出されて、眠ったのかな」


 あの種がここまでの力を発揮するなんて。何でも試してみるものなんだってことだよね。いろんな種を調合して偶然できたものだったのに――


 そんなことを思いつつ、キリヤは眠った少女を背負った。


「よし。優香のところに戻ろう」


 そして優香の元へ向かって歩き出したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ