第2話ー⑥ 湖畔の罠
「優香、大丈夫かな……」
キリヤはそんなことを呟きながら、水柱が立っている方に向かっていた。
「僕たちが行くはずだった公園の方、かな……急ごう!」
そしてキリヤは走る足を速めた。
公園の近くまでくると、多くの人だかりができていた。
たぶん何が起こったのか気になる住人が集まってきているんだろう――そう思いながら、その人だかりを突っ切るキリヤ。
湖畔の前にある公園に着いたキリヤは、その水柱が湖畔から立っていることを知る。
「なんでこんなところから。それに水の能力者はどこ……?」
そう言って周囲を見渡すキリヤ。
すると、上がっている水柱から小さな水柱が発生し、キリヤに向かってくる。
「!!?」
その柱をキリヤは凍らせて凌いだ。
「何……?」
今、明らかに僕を狙っていた。じゃあこれは、僕をおびき寄せるための罠――?
そう思っていると、再び小さな水柱がキリヤに向かって飛んでくる。
一つ一つを躱し、そして凍らせながらその水柱を凌ぐキリヤ。
「一体誰なの? どうしてこんなことを!!」
キリヤがそう問いかけると、湖畔から青々としたうろこを光らせた龍が飛び出す。
その姿に見物していた住人たちは驚き、悲鳴を上げて公園を出て行った。
「龍……? 水の能力者とは別の能力者か」
キリヤは目の前に現れた龍に向かってそう告げる。
『お前が魔女様を消した奴らの仲間でなんだろう? 許さない、私は絶対に。その為にここでお前を待っていたのだから』
待っていた……? ってことは――
「君が依頼者の娘?」
『娘ではないが、お前たちがここへ来るように仕向けたのは私達だ。嘘の情報をお前たちに伝え、そしてここへおびき寄せた……お前はここで死ぬ。私の力でな――』
そしてキリヤに向かってくる龍。
「僕だって『グリム』メンバーなんだ、ここで引くわけにはいかないよ!」
そしてキリヤは両手を前に出して、複数の氷の刃を生成すると、それを向かってくる龍に飛ばした。
その刃は龍の身体を切り裂くが、龍は勢いを止めずに向かってくる。
『魔女様に報いを!!』
このままじゃ、まずい……どうしたら――
向かってくる龍を見つめ、キリヤは思考を巡らせる。
そして周りを見渡し、草木が生い茂っていることを知る。
植物たちなら、きっと――
キリヤは植物に自身の意識を伝達させると、その植物たちはキリヤと感覚をリンクさせた。
そして生い茂るだけだった草木は蔓を伸ばし始め、キリヤに向かっている龍の動きを止める。
『自然の力を宿す能力者とはな……だが、私は止められないぞ!』
そう言って暴れ出す龍。
「早く何とかしないと」
キリヤはそう言って暴れる龍に飛び乗ると、その龍の身体に触れ、少しずつ龍を凍結させる。
「君には聞きたいことがある。だからここで食い止める。能力の暴走はさせない」
『きさま! ぐぅ……』
そして龍は動かなくなった。
「ふう。これで一安心かな。とりあえず二重に凍結させておこう。あれだけの力があったんだ。簡単に僕の氷は破られるかもしれないし」
キリヤは龍の全身を氷で覆った。
「さてと。こんなに大きな龍をどうしよう……せめて人間体に戻してから凍らせるべきだったかな――」
キリヤは目の前で凍り付く龍を見てそう呟いた。
「とりあえず、優香に連絡――」
そしてぴきぴきとひびが入る音が聞こえると、
『まだ私はここでは終わらんぞー!!』
そう言って龍が再び動き始めた。
「そんな、完全に凍結させたはずなのに」
『命を奪わなかったのが甘かったな。命ある限り、無限に力が供給される。だから私は簡単には死なんぞ!』
「そんな……」
きっと同じ手は通じない――そんなことを思いながら、自分の甘さを反省するキリヤ。
「やっぱり僕だけじゃだめなのか。優香や暁先生がいないと、僕は――」
そして首を横に振るキリヤ。
「弱気になっちゃダメだ。僕もずっと訓練してくたんだ。力で勝てなくても、心で負けない! 僕は必ず勝つんだ!!」
再び身構えたキリヤはまっすぐに龍を見つめた。
『魔女様だけが私を救ってくれた。私をヒトだと言ってくれた。そんな魔女様をよくも、よくも!!』
この龍は、僕に復讐をしようとしているのか。でもさっきの少年も言っていたけど、なぜ僕たちが魔女を消したことになっているんだ――?
「魔女様は本当にいなくなったの? 本当にそれを君は確認したの??」
『うるさい! 黙れ!! 私は聞いたんだ! 魔女様の側近がそう言っていた。それにほたるという少年も。だから魔女様は――』
ほたる? さっきの少年か。もしかしてこの子も『エヴィル・クイーン』に騙されて……だったら早く助けてあげないと。また慎太みたいにこの子も――
そしてゆっくりと龍を見つめるキリヤだった。




