50話 クラス分けについて
王立学園の入学式当日。
私はライナスへと自身のクラスを告げた。
「クラス分け、私は一組になるみたい」
「……そうか」
心無し、ライナスがしゅんとしてしまう。
三組にはライナスの友人も知り合いもいないクラス分けになるため、心細いのかもしれない。
「きっと大丈夫よ。ライナス、村の子たちとはよくやれてるんでしょ? クラスでもそのうち友達ができるわ」
「別に、仲良しこよしの友達が欲しーわけじゃねーよ。ただ、イリス様とはクラスが違うんだなって思っただけだ」
不安を見透かさればつが悪いのか、ライナスがぷいと顔を背けた。
横目でじっとりと、リオンへと視線をやっている。
「で、おまえは何組なんだ?」
「私は二組です」
「全員ばらけたんだな」
「残念ですが、授業中はイリス様と離れることになりそうです」
「少し寂しいわよね」
私とライナスとリオン。
気分的には、同じ中学から進学してきた友達と、別々のクラスになってしまうような感じだ。
王立学園は一学年当たり250名前後、三科十クラスから構成されている。
私たちが在籍する魔術科、一学年上でカイルが在籍する騎士科、そして普通科の三つに、生徒は振り分けれるのだ。
魔術科は文字通り、魔術を中心に学ぶ学科だ。
魔力持ちは貴族に多い関係上、高位貴族の子女が数多く在籍しており、王立学園の中でも花形で注目度が高くなっている。
騎士科は士官学校のようなものらしい。
軍の中枢を担う人材を、育成するための学科だ。
優秀な成績で卒業できれば、栄えある王立騎士団への入隊も見えてくる。
普通科は座学を中心にした学科で、文官や役人になる卒業生が多かった。
一定以上の学力と、授業料の支払い能力があれば入学資格が得られるため、三科の中ではもっとも平民の割合が高いらしい。
授業料はそれなり以上の高額だが、王立学園卒業という肩書と、在学中に得られる学友のコネを考えると、裕福な平民にとっては魅力的なようだ。
クラスは学科ごとに分かれており、一クラスあたりの生徒は二十五名ほど。
一組から三組までが魔術科、四組から六組までが騎士科、七組から十組までが普通科に割り当てらていた。
「俺たち全員魔術科で、三組しかないのに、全員バラバラになるなんてな」
ライナスがカモメを視線で追いかけながら言った。
学園島行きの船に三人で乗り込み、波に揺られながら雑談する。
「ライナスもリオンも優秀だもの。一つのクラスに固まらせちゃよくないって、学園の上層部も思ったのよ」
クラスごとの能力差が大きくなりすぎないよう調整されているのだ。
特待生のライナスは全学年でも随一の魔力量を誇り、リオンは魔術、学力共に極めてハイレベルで揃っている。
ある意味当然のクラス分けではあるのだけど……。
「……『きみとら』内でのクラス分けと、ほぼ同じっぽいのよね」
波音にまぎれるよう、小さくため息と呟きを落とした。
ゲーム中では生徒では無かったリオン以外、今のところ攻略対象キャラのクラス分けはゲーム通りだった。
クラス間のバランスを考えると妥当な分け方ではあるものの、強制力が働いているのかと疑心暗鬼になってしまう。
「お、到着したみたいだな」
船旅はあっという間だ。
学園島の桟橋へと降りていく。
一足先に降りたリオンの如才ないエスコートに感謝しつつ、スカートの裾を軽く整えた。
『きみとら』のメイン舞台でもある、島中央部にある校舎へと向かい門をくぐると、声をかけてくる人間がいた。
「さっそく取り巻きを侍らせているようだな、イリス」
「御機嫌よう、オルドア殿下」
やってきたのは第三王子オルドア殿下だった。
サファイアを溶かし込んだような青い髪に、高く通った鼻筋。薄い笑みを刻む形良い唇。
リオンやライナスに負けず劣らずの美形っぷりな、『きみとら』の攻略対象の一人だった。
「彼らは私の幼馴染ですわ。故郷から一緒に、王立学園へとやってきたんです」
「ほぉ? おまえたちが噂の入学生か。そうやっていつも、イリスに媚を売っているのか?」
品定めするように、リオン達を見るオルドア殿下。
あからさまに不躾な視線と言葉に、ライナスはむっとしたようだ。
「いきなりなんだよ。何が言いたいんだ?」
「おまえたちの顔を覚えてやるということだ。光栄に思うといい」
天上天下唯我独尊オレ様器質。
『きみとら』内と同じく、オルドア殿下は高慢かつ強気な性格だった。
血筋、容姿、魔力に学力と諸々スペックが飛びぬけて高く、プライドもエベレスト並に高いようだ。
「高い魔力持ちの特待生に、数年ぶりの入学試験の合格者だ。期待しているぞ? この先才覚を伸ばしたなら、俺の側近に取り立ててやってもいい。いつまでも、イリスの取り巻きをやっていては退屈だろうからな」
ふん、と鼻を鳴らし、オルドア殿下が私を流し見る。
ダークブルーの瞳は鋭く、油断なく眇められているのだった。
私は以前、黒死病対策の功績が認められ、王宮へ招かれたことがあった。
その時オルドア殿下と面識を得たのだけど、あまり良く思われていないようだ。




