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49話 王立学園に入学しました


「……いよいよ王立学園にやってきたわね」


 私はごくりと生唾を飲み込んだ。

 眼前に広がるのは紺碧の海原、そして海上に浮かぶ島にそびえるお城だった。


 異世界版モン・サン・ミッシェル。

 王立学園の外観は、地球の世界遺産によく似ていた。


 中央部が高くなった島、その一番高い場所に石造りのお城が建っている。

 島の外周に向かうといくつかの建築群と緑が、高低差の大きな地面を覆っていた。


 島が丸ごと、王立学園の敷地になっているのだ。

 ここから島へ行くには船に乗るか、干潮時に歩いて向かうしかなかった。


「ぼんやり学園を見て、どうなさったのですか?」


 隣に立つリオンの言葉に、私は小さく頷き答えた。


「決意も新たに、学園を眺めていたのよ」

「決意? 何を決意なさっていたのですか?」

「……秘密よ」


 ――――死亡フラグを折り、絶対生き延びて見せる。


 いくら気心の知れたリオン相手でも、漏らすことはできない本音だ。


 転生して十六年、前世の記憶を取り戻してから八年。

 ついに私は、ゲームのメインとなる王立学園に入学したのだ。


 ヒロインが転入してくるのは、ゲーム通りならば一年生の途中になるはず。

 まだ少し猶予があるとはいえ油断は禁物。

 王立学園ではオルドア殿下や、まだ面識のない攻略対象二人と関わるかもしれない。

 警戒心を忘れないで、死亡フラグを折っていかないとね。


「さ、リオン。そろそろ船着き場に行きましょう。入学式に遅れてしまうわ」

「……本当に私が、生徒として入学していいのでしょうか?」


 リオンは見慣れた従僕のお仕着せではなく、学院の制服に身を包んでいる。

 ゲームの中では、私の従者として学園を歩いていたリオンだけど、この世界では生徒として、王立学園の門を潜ることになったのだ。


「難関の入学試験に合格したんだから、胸を張ってればいいわよ」


 王立学園にはお金のない平民向けに、筆記形式の入学試験があった。

 受験料を払い試験を受け優秀な成績を修めれば、入学が許可される仕組みだ。


 この国の16歳以上の人間なら誰でも受験資格があるが、合格基準がとても高く、合格者は数年に一人いるかいないかだ。

 そんな試験に合格したリオンは学費も免除されており、金銭的な負担もないのだった。


「ですが何故、私が生徒として入学する必要があったんですか? イリス様のお世話なら、従者として出入りの許可を取れば十分だったはずです」

「そう言いつつ、私の従者やりながらのたった数か月の勉強で合格とか、ほんとすごいと思うよ」


 天才がここにいる……。

 私も一応、聡明だ賢いって褒められることが多かったけど、前世の記憶アドバンテージがあったからだ。


 神童も20過ぎればただの人。

 そうなる予定が私だ。


「イリス様に命じられた以上、結果をだすのは当たり前です。入学試験と言う形式は、はっきりと点数が出るのでやりやすかったですよ」

「それ、言うのは簡単だけど、実行するのはすごく難しいと思う」


 リオンのハイスペックぶりがすごい。

 生まれ持った才能に努力が加わった結果、常人離れした結果を叩きだしていた。


「……話が逸れましたが。なぜイリス様は私に、生徒としての入学を求められたのですか?」

「学歴があって、損なことはないと思うの」


 この世界の貴族は、どこかしらの学校を出ていることがスタートラインだ。

 たとえ貴族の血筋に生まれても、学校も出ていないようでは落ちこぼれと見なされ、一人前扱いされないのが常だった。


 リオンは私の従者をやっているけど、本来は隣国の公爵家の人間だ。

 この先彼が元の身分に戻った時、要らない苦労を避けるめにも。

 王立学園へ、生徒として入学してもらうことにしたのだ。


「ま、そんな難しく考えなくても、先輩にはカイル様がいる し、来年にはフランツ様も入学してくる んだから、リオンも仲良く、学園生活を満喫すればいいと思うわ」

「…………フランツ様と仲良くとか、お互いごめんですよ」

「何か言った?」

「愉快で楽しい学園生活になりそうだと思っただけで――――失礼しますね」

「あっ……」


 リオンの指が頭の上をくすぐった。


「どこかから、サクラの花弁が飛んできたようですね」


 長い指がつまむ薄紅の花弁。

 ヨーロッパっぽいこの国だけど、乙女ゲームの影響か桜は存在し愛されていた。


「……ありがとう」


 少しだけぎこちなく呟く。

 頭に触れたリオンの指の感触を、つい意識してしまった。


 十七歳になったリオンは、あらためて見るととんでもなく美形だ。

 黒髪はさらりと艶やかで、サファイアブルーの瞳は吸い込まれそうな深い色をしている。

 黒を基調とした軍服風の制服がよく似合っていて、背もすらりと高くかっこよかった。


「360度どこから見てもイケメン……。イケメン濃度が振り切れている……」

「……またよくわからない言葉を。ぼんやりしてないで、先を急ぎましょうか?」


 笑顔のリオンにつっこまれ、急かされながら歩き出そうとしたところ、


「よぅ、イリス様。これからはずっと一緒だな」

「ライナス!」


 どこか浮かれた様子でライナスが近づいてくる。

 類稀なる魔力量を誇るライナスは、平民でありながら特待生として学園に招かれている。

 週一で顔を合わせていた今までと違い、同じ学年で毎日を過ごすことになるのだ。


「クラス分け、ライナスは三組だっけ?」

「あぁ、そうだ。イリス様はどこのクラスだ?」


お読みいただきありがとうございます。

おかげさまで本作の書籍版が発売することになりました!


発売日は6月25日。

オーバーラップノベルスFより、志田先生のイラストで発売となります。

書籍版発売を記念して、なろうの方も発売日まで毎日更新していこうと思います。


書籍版はなろうに掲載したものをより読みやすく面白くなるよう改稿編集し

カイルとイリスのエピソードなど加筆しています。

書き下ろし番外編も2編収録されているので、お手に取っていただけたら嬉しいです!

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