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第九十二話 彩芽くん、楓ちゃんとカラオケデートする

 歩き回ったもののいい店が見つからなかったので、休憩も兼ねてカラオケボックスに寄ることにした。前に心節と来たのとは別のお店だ。


「初めて来ましたけど、こうなってたんですね」

「まあ僕もほとんど来たことないけど。あっ、靴脱いでね」


 個室に入り、靴を脱いで二人でソファーに座って飲み物を注文した。僕はウーロン茶、かえちゃんはオレンジジュースだ。店員さんが去ると、かえちゃんが何か言いたげに僕を見ている。


「かえちゃん、何かあったの?」

「あの、靴を脱いだついでなので靴下履き替えていいですか?」

「いいよ。その間曲入れる機械を操作して待ってるから」


 かえちゃんが靴下を履き替えたので、改めて歌う曲を選ぶ。お互いほとんどテレビを見ないため、曲選びに苦労した。


「最近のお歌、わからないです」

「僕もだから安心して。子供の頃見てたアニメの歌とかなら歌えるかな?」

「でしたら、やってみます」


 カラオケ初挑戦のかえちゃんに先に歌ってもらった。今も続く女の子向けアニメの、僕達が一緒に遊んでいた頃に放送していた作品の歌だ。かえちゃんの歌声はとても綺麗だったけど、歌い慣れていないのか上手とは言えなくて、声もとても小さかった。


「はぅぅ、下手ですみません」

「大丈夫、僕の方がずっと下手だから。同じ曲でやるのがわかりやすいかな?」


 宣言通り同じ曲を歌ったのだけど、明らかにかえちゃんの方が上手だったと自分でもわかった。次に歌う曲を選びながらウーロン茶で喉を潤す。


「あやくんにも苦手ってあるんですね」

「結構多いよ。料理とか力仕事とか。でも力仕事はどうにか克服したい。夫婦揃って苦手じゃどうにもならないし」

「夫婦!?」

「そのかわり、歌の方は頑張ってね。子供に子守歌聞かせないとだから」

「子供!?」


 真っ赤になったかえちゃんの頭から湯気が出ていた。将来は確実にそうなるんだから、照れなくてもいいのに。


「まあ、そういうところが可愛いんだけど。じゃあ次はかえちゃんの番だけど、子供向けアニメソングよりも音楽の教科書に載るような歌の方が歌いやすいかな?」

「そうかもしれません」


 童謡を歌わせてみたらちゃんと歌えていたので、もう少し声を出せれば問題ないだろう。ちなみに僕も通りゃんせを歌ってみたらかえちゃんに怯えられた。


「はぅぅ、ただでさえ怖い歌がもっと怖くなりました!」

「ごめんね!」


 ただ怖がるかえちゃんが可愛いので、たまに聞かせてみてもいいかもしれない。小さな子に怖い話をする大人の気持ちがよくわかったところで時間になり、カラオケボックスを退出した。


「お腹空きましたね」

「どうせなら食べ物も注文するんだった。まあ、その辺で何か食べようか。最悪コンビニでパンでも買って食べるかな」

「あの、それはデートっぽくないと思います」

「そこは刑事ドラマか、って突っ込んでほしかったんだけど」

「はぅぅ、すみません」


 まあ天然のかえちゃんに求めても難しいか。近くのファミレスに入り、遅めの昼食を食べている最中、ふと思ったことがあった。それはデート中に聞くことじゃないし、聞いてしまえばデートが日常に戻ってしまう恐れがあった。


(でも聞かないと困るのは僕とかえちゃんだよね)


 どうしても必要なことなので、料理を食べ終わってから意を決してかえちゃんにそれを尋ねた。


「そういえばなんだけど、いきなりデートに誘ったわけだけど冷蔵庫の食材は大丈夫?」

「その、少し怪しいです。卵とお野菜は明日のお弁当の分がちょっと」


 大丈夫という返しを期待していたが、現実はそう上手く行かないようだ。ならば、名残惜しいけど恋人としてのデートは終わりにして、家族としてのデートをしようか。


「じゃあ次は買い物しようか。前のときもやったし、僕らにとっては定番のコースになりそうだね」

「お買い物デートです♪」


 二人暮らしで自炊している高校生である以上、家事から逃れることは出来ない。手を繋いでいつものスーパーまで歩き、買い物デートに移った。食材を選ぶかえちゃんと、買い物カゴを持ちながら財布の中身を確かめる僕の現状に肩をすくめた。


(中々、普通のデートって出来ないものだね)


 かえちゃんをまともなデートに連れ出そうと思い誘ったのだけど、どうしても途中から日常の延長線上になってしまうことに苦笑する。別にそれでも楽しいしかえちゃんも楽しんでるからいいのだけど、精々腕を組むくらいしか恋人らしい行為が出来ない。


(みんなみたいに普通にキス出来るようになりたいんだけど、まだほっぺたにも出来てないんだよね)


 お互いにヘタレのため、雰囲気を作って覚悟を決めないと進展できないのだ。だからといって勢いでやっちゃうと、かえって関係が後退するのは身に染みてわかっている。


(まあ、そこは今後しっかり考えればいいか。一咲さんと紅葉さんが戻ってくるのもまだ先だろうから、急がなくてもいいよね)


 一咲さんの仕事のシフトがどうなっているのかはわからないけど、本人曰く連休でもない限り戻れないとのことなので、今のままの関係でもしばらくは大丈夫だろうと、このときはそう考えていた。


「あやくん、お菓子一緒に選びましょう♪」

「わかったよ。何がいいかな?」


 お菓子売り場でお菓子をいくつか見つくろって買い物を終え、片手にレジ袋を下げ、もう片方の手をかえちゃんと繋ぎ帰路について、今回のデートは終わった。

お読みいただきありがとうございます。

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