第九十一話 彩芽くん、楓ちゃんと商店街でデートする
靴下店でやたら店の人達がノリノリだった撮影会を終えた僕達。そのままアーケード街でウィンドウショッピングを楽しむことにした。
「古本屋か、ちょっと寄ってみようか」
「そうですね」
古本屋の店内はそれほど広くない上に、通路にまで本が積まれてあるので非常に動きにくい。盗難対策は大丈夫かと心配になりつつ、興味のある本を探す。
「あやくん、すごく懐かしい絵本がありますよ」
「本当だ。昔一緒に読んだよね」
子供の頃に仲良く読んだ絵本を見つけて懐かしんだり、
「はぅぅ、すごく過激な漫画です」
「どれどれ......なんだ、普通の少女漫画じゃない。このくらいはよくあるって」
最近のちょっと過激な内容の少女漫画を読んで赤面したかえちゃんを見て楽しんだり、
「ひっ!」
「うわぁ、見なければよかった」
表紙と違ってホラーな作品に怯えたりして時間を過ごした。もちろん読んだ本は購入し家でまたじっくり読むつもりだ。ホラー作品はちょっと怖いから二人で見よう。
「次はどこへ寄りますか?」
「アクセサリーショップが気になるかな? 女の子へのプレゼントの定番だし、せっかくだから何か買ってあげるよ」
「そんな、悪いです」
「いいから。ほら行くよ」
かえちゃんを引き連れ入店した店では主にシルバーアクセサリーを取り扱っていた。最初は遠慮していたかえちゃんだったけど、可愛らしいデザインに興味を惹かれたのか一つ一つじっくり見ていた。
「欲しいものは見つかったかな?」
「その、どれも魅力的なので悩んでしまって」
悩んでいたのはオーソドックスな銀のロザリオと、月を象ったイヤリング、うさぎの髪飾りの三つだった。共通点はどれもリーズナブルなのと、装飾が控えめという二点だろう。
「全部買ってあげるよ。このくらいなら大丈夫だから」
「いえ......あまり沢山いただくと思い入れが薄れてしまいそうですから」
想い出を大切にするかえちゃんにとってそこは譲れないそうで、決まったら呼ぶということなのでその間に僕は僕で買い物をする。
(飾り気が少ないものが好みなら、この辺りかな?)
とあるアクセサリーが陳列されているショーケースに目当てのものが見つかり、値段も手頃だったので即決した。店員さんを呼んで、小声で会話する。
「これをお願いします」
「わかりました。サイズを調整出来ますがどのようにいたしましょう?」
サイズを聞かれ、僕は少し悩んだ。そう、買おうとしているのは指輪、それも飾り気のないような銀の指輪だ。個人的には高校を卒業するまでの期間限定のエンゲージリングとして考えているため、僕とかえちゃんの左手薬指のサイズを伝えた。
(まあ、このくらいはすぐにわかるよね)
よく手を繋ぐため、かえちゃんの指のサイズはミリ単位で把握しているのだ。その指のサイズを聞いて、店員さんは少し困った表情になった。
「......おや、随分と小さいですね」
「ええ、まあ。出来ますか?」
出来なければ少々、いやかなり困ることになる。かえちゃんに婚約指輪や結婚指輪をはめられないということになるからだ。だがその心配は杞憂だったみたいで、店員さんが不安になった僕を安心させるような笑顔を見せ、可能だと言ってくれた。
「大丈夫ですよ。さらに裏側にイニシャルも入れられますがいかがされますか?」
「お願いします」
「では、完成したらお電話いたします」
自分で買ったアクセサリーの代金を支払い、何食わぬ顔でかえちゃんの元に戻った。どうもまだ悩んでいたようなので髪飾りを薦めて買ってあげた。
「その、やっぱり悪いです」
「気にしないで。それより髪飾り、よく似合ってるよ」
「はぅぅ///」
長い黒髪に銀のうさぎがアクセントになっていて、かえちゃんの魅力がさらに増していた。店の前から手を繋いで僕達は再び歩き出し、アーケードの終端で巫女さんがお守りを売っている露店を見つけた。いや、何で? 気になったので足を止め事情を聞いた。
「神社で売るだけだと、お金が厳しいですからね。出張販売所です」
「そんなのでいいんですか?」
「細かいことはいいじゃないですか。せっかくですから買っていってくださいよ。御利益は保証しますよ」
ちょっとありがたみがないような。まあ買いますけど。別に高いものでもないので買って損をすることもないだろう。一通りの種類があるけど、何がいいかな?
「一番人気は恋愛成就ですよ」
「そっちは間に合ってます。でしたら家内安全と無病息災をお願いします」
「そうですか。そちらの女の子はいかがですか?」
「えっと、でしたら健康祈願と商売繁盛、あと縁結びを」
「えっ、かえちゃんなんで?」
他二つはともかく商売繁盛という、かえちゃんには似つかわしくないお守りに首をかしげていると、購入したお守りのうち、商売繁盛と縁結びのお守りを目の前の巫女さんに渡した。
「はい?」
「あの、頑張ってください!」
巫女さんは数秒間固まっていたが、かえちゃんの手を両手で握り感謝の意を伝えた。
「ありがとうございます! この子すごくいい子ですから、絶対に離さないでくださいね」
「もちろんです」
最終的に家内安全に無病息災、健康祈願の三つが手元に残った。僕達はお守りを手に再びアーケード街に戻った。さてと、次はどうしようかな?
お読みいただきありがとうございます。指輪の件ですが楓は気付いていません。




