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第九十話 楓ちゃん、彩芽くんと靴下店でデートする

楓視点です。自分で書いていてこの店大丈夫かと思いました。

 駅前広場に戻る途中で、あやくんがわたしに普段靴下を買っているお店を尋ねてきました。誕生日プレゼントが趣味に関するものだったので、お返しにわたしの趣味に関するものをプレゼントしたいとのことです。


「その、確かにわたしの趣味って靴下集めですけど、プレゼントされるのはすごく恥ずかしいです」

「そう言わずに教えてほしいな。お店を見るだけでもいいから、ね? かえちゃんがお世話になっている店なら、一度くらい挨拶に行かないと」


 結局、あやくんの押しに負けて行くことになりました。あのお店に行くとついお小遣いを使っちゃいますから、意図的に避けていましたのに。


(今回は買わないようにしませんと!)


 そう決意して目的地へと向かいます。駅前広場から少し歩いた先にアーケード街、その一角にお店は建っています。外見はファンシーなお店で女性向けの靴下が並んでいるため、男の方には入りにくい雰囲気が漂っています。


「靴下専門店ってあったんだね」

「はい......実はここで靴下を買っています。店長さんは、お母さんの学生時代のお友達だそうです」

「そうなんだ。じゃあ母さんの友達でもあるのかな?」

「多分そうだと思います」


 撫子さんはお友達がいなかったと、お母さんに嘆いていたそうですが実際は年下の女の子から慕われていたそうです。これから会う方もそのうちの一人になりますので、個人的にはとても心配です。


「だったら、息子として挨拶の一つでもしないとね」

「あっ、あやくん」


 男性には近寄りがたい店構えも、あやくんには関係ないみたいで、わたしと手を繋いだまま堂々と入店しました。知らない人が見れば女の子二人に見えるとはいえあやくん、すごく大胆です。


「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」

「わざわざありがとうございます。ですが自分で見て回りたいのでお構いなく」

「ではご用の際はお申し付け――あっ、前髪っ子が髪切ってる。すごく可愛いじゃない! 待ってて、店長呼んでくるから」

「はぅぅ」


 あやくんに話しかけた店員さんが何度か会ったことのある方だったため、わたしに気付いて奥へと退出していきました。


「店長呼ばれるくらい懇意にしてるんだね」

「はぅぅ///」


 小学生の頃からこのお店で靴下を買っているので、名物客になっちゃったみたいです。程なくして画材店の店長さんより少しだけ年下の女性がやって来て――何故かあやくんに抱きつきました。


「ちょっ、いきなりなんなんですか!?」

「あやくん!?」

「なんか違う……あっ!」


 しかし抱き付いてきた女性、蓮沼さんは何か違和感があったのか首を傾げ、何かに気付いてあやくんを離し謝罪しました。


「ごめんなさい、昔とても尊敬していた知り合いによく似てたものだから。特に楓ちゃんと一緒にいたものだから、てっきり撫子さんかと思って」

「撫子は僕の母ですよ。僕は佐藤彩芽といいます」

「本当にごめんなさい!」


 心持ち温度の低い声で答えるあやくん。それを聞いた蓮沼さんは再度頭を下げました。撫子さんの血縁者に嫌われたくないのか、捨てられた子犬のような顔をしていました。


「いいですよ。母に間違われるのは嫌ではないですし、そんな何かやらかして謝るかえちゃんみたいな顔しないでください」


 あれっ、わたしって失敗してあやくんに謝るとき、いっつもあんな顔してるんですか?


「わかった。でも彩芽ちゃん、撫子さんだけじゃなくて樹さんの面影もあるわ。お二人は元気?」

「今は実家から離れてますからあれですけど、まあそれなりに元気だと思います」

「そう。ならよろしく伝えておいてくれない? 蓮沼、いえ旧姓の薊って言ってくれたらわかると思うから」

「わかりました。ところで、蓮沼さんはどうして呼ばれたんですか?」

「それはね、楓ちゃんが前髪切ったら撮影会をするって約束だったの」


 蓮沼さんが呼ばれた理由を聞き、わたしはとても驚きました。はぅぅ!? わたしそんな約束した覚えありませんよ!? ふるふると首を振るわたしを見て、あやくんが蓮沼さんに疑いの視線を向けます。


「本当よ。楓ちゃんがずっと子供の頃にね。前髪をどうして切らないのか聞いて、だったら切ったら写真撮っていいって」

「それ、昔のかえちゃんはただの記念写真だと思ったんじゃないですか? まあ約束は約束だと思いますので、撮影会でもいいと思いますけど」

「せっかくだから彩芽ちゃんも入って、二人でお揃いの靴下にしてみたら?」

「遠慮します。第一僕は男です」


 蓮沼さんの提案を即座に却下するあやくん。はぅぅ、ちょっと残念です。蓮沼さんは蓮沼さんで、あやくんの性別に衝撃を受けたようです。


「えっ、そんなに可愛いのに、男の子?」

「先程僕を抱きしめたときに気付かなかったんですか?」

「だって、いい匂いするし柔らかいし、確かに胸は無かったけど、楓ちゃんみたいにぺったん娘なのかと」


 ぺったん娘という言葉に、わたしは深刻なダメージを負いました。その通りですけど、その通りですけど!


「蓮沼さん、かえちゃんが落ち込んだじゃないですか。せっかくのデート中なのにどうしてくれるんですか」

「ああごめんなさい! どうしたらいいかしら? 楓ちゃん、撮影に使った靴下はあげるから許して!」

「それ普通じゃないですか。というかそんなんで釣られるわけないですって。もし釣れたなら撮影会でもなんでも――」

「はぅぅ、本当ですか?」

「「本当に釣れた!?」」


 しょうがないじゃないですか、靴下のお金って結構するんですから。


「楓ちゃんも機嫌が直ったし彩芽ちゃん、撮影会でもなんだって?」

「言い切ってないから無効、と言いたいですがかえちゃんが残念そうなのでしてあげます」

「よかった。ならみんな、楓ちゃんと彩芽ちゃんの着替え頼むわね」

「「「はーい♪」」」


 蓮沼さんの呼びかけで集まり、わたし達を更衣室へ連れて行く店員さん達。あの、ちょっと、自分で着替えられますから!!

お読みいただきありがとうございます。

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