表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/156

第八十八話 彩芽くん、梅雨に備える

 五月も後半に差し掛かり、段々暑さを感じ始める時期、僕はホームセンターで買い物をしていた。梅雨入りを前に、部屋干し用の生活雑貨を買い揃えるためだ。


(かえちゃんの靴下、梅雨時期はどこに干そうかな?)


 多分、今は使っていない一咲さんや紅葉さんの部屋を使うことになると考え、物干しスタンドを購入し設置する予定だ。高さ的には厳しくても、横に干せば大丈夫だろう。目的のものはすぐに見つかったが、かなり大きいので、持って移動するだけでも一苦労だ。


(重いし嵩張るから持って帰れないんだよね。送って貰おうか)


 そう考え二つ購入、カートに入れてレジまで運ぼうと思い一歩を踏み出すと、目の前に見覚えのある二人、有磯兄弟を見つけたので挨拶する。


「こんにちは、菊太さんに桐次さん。兄弟でお買い物ですか?」

「どうも、彩芽さん。俺は一人暮らしだから、ちょっと台所用品を。こいつはただの付き添い」

「彩芽姉ちゃん、ちわっす」

「桐次さん、僕は男だって言いましたよね?」


 ニッコリ笑顔で、弟の桐次さんの肩に手を置く。まだ彩姫はネタで済む呼び名だけど、姉ちゃん呼びはさすがに許容できない。桐次さんは少し赤い顔で困っていた。


「わかってっけど、クラスの女子より可愛い人に兄ちゃん呼びするのがしっくりこなくて」

「桐次、俺みたいにさん付けで呼べば気にならない」

「じゃあそうすっかな。彩芽さん」

「......はい。なんでしょう?」


 どことなく釈然としない流れで決まった呼び方だけど、蒸し返すのもなんなので受け入れることにした。


「その服すごいっすね」

「愛染明王シャツです。仏像や神様シリーズが好きなんですよ。ナンパ避けにもなりますし」

「そんな服着てナンパを避けるってことは、もしかして男からされてるのか?」

「マジで? うわぁ、彩芽さん男にナンパされてんの?」


 兄弟揃って、僕をナンパしてくる対象に気付いて引いていた。僕だって、好きで同性にナンパされてるわけじゃない。


「ええ。普通に買い物したいのに、同性からしつこく声をかけられたり、ボディタッチしてこられたりとか想像してくださいよ。地獄ですよ」

「ああよくわかった。彩芽さんも大変だな」

「でもさ、彩芽さんも間違われたくなかったら、男っぽい服とか髪型にしてみたら?」

「この服ですら稀にナンパされるのにですか?」


 桐次さんの意見ももっともだ。だがしかし、ただの男性ファッションに身を包んだ程度でどうにかなるなら苦労はない。


「じゃあさ、ボディビルダーみたいにタンクトップとかは?」

「細すぎて似合いませんし、中学時代それで外出したらご近所さんに怒られました。女の子がそんな格好したらいけませんって」

「周辺住人にすら男と思われていないのか。ファッションの方はどうしようもないか。髪型は?」

「丸坊主にしても女子と間違えられた話、聞きたいですか?」

「悪かった」


 菊太さんが頭を下げてきた。いえあなたが悪いというわけではないのだけど。一方の桐次さんは笑いを堪えていた。


「彩芽さん、オカマ扱いですらないってヤバいっすね」

「いっそ笑ってくれていいわ。こんな風に口調をオネエによせてもそう思われないんだから」


 少しダミ声っぽくしてみたが、二人からは不評だった。


「風邪引いた女子にしか思えなくて笑えねえっす」

「そうだな」

「ではやめますね。ところで百合さんと牡丹さんは一緒ではないのですか?」

「今は女子同士でしか出来ない買い物をしている。その間に、桐次と相談も兼ねて必要なものを買いに来た」

「来月、百合姉ちゃんと牡丹姉ちゃん誕生日だから、プレゼントについての相談っす」


 そういえば二人とも誕生日は七月だった。僕の誕生日をあれだけ祝ってくれたのだから、お返しも盛大にしたい。


「なるほど。欲しいものをそれとなく聞いておきましょうか?」

「いや、大丈夫だ。プレゼントの相談と言っても、贈るものは決まっているからな」

「相談するのは渡し方っすよ。兄ちゃんと被ったら二人から文句言われるっすから」

「恋人が親友同士って、大変ですね」

「その分、楽しい部分もあるが」

「進展もしやすいっすからね」


 進展、という言葉に僕は自分の顔が赤くなるのを自覚した。この二人がやったようなキス、僕とかえちゃんに出来るかな?


「なんで赤くなってるっすか?」

「......二度ほどお二人とのキスシーンを目撃したもので」

「二度って、林間学校後のあれ以外にあったか?」

「少し前に二人を迎えに来たときに、車の中で」

「あれ見てたんっすね。というかキスくらいで赤くなるなんて、彩芽さん初心っすね」

「気絶していた楓さんほどではないだろう。あなたも大変だな」


 最終的に菊太さんに同情された。


「そんなかえちゃんが可愛いからいいんですけどね。つい話し込んでしまいましたね。お詫びにお買い物付き合いますよ」

「いいのか?」

「ええ」


 それから僕は二人の買い物を手伝い、自宅に戻り部屋干しスタンドを組み立て終わり、現在は部屋で休憩中だ。


(面白い人達だったね。でも、今日は別れ際にキスシーンを目撃しなくてよかった)


 安堵していると、突然携帯にメールが届いた。差出人はリンだったので何の気なしに開き――僕は赤面した。


「な、なんでなずなちゃんとのキス画像を送ってくるんだよ~!?」

「はぅぅぅぅ~!? な、なずなちゃん!?」


 隣の部屋からかえちゃんの叫びが聞こえてきた。恐らく同じものがなずなちゃんから送られてきたのだろう。


(どうしてみんなキスを見せびらかしてくるんだよ!?)


 リンに抗議したところ、ヘタレの君達に発破をかけるためと返され何も反論出来なかった。

お読みいただきありがとうございます。そして、先日書いたとおりこの話で完全にストックが切れました。あとは未完成の話をどこまで形に出来るかです。何とか恋人編終了までは止めずに行きたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ