第八十五話 彩芽くん、プレゼントを完成させる
翌朝、目覚めた僕はかえちゃんを抱きしめていた。寝相による無意識の行動だろう。さらにお昼寝したときと同じように、かえちゃんの顔が赤い。そこから、おおよそ何があったのかを僕は悟った。
(かえちゃんは一度目覚めて、僕に抱きしめられてることに気付いて気絶したってところか)
状況証拠からの推測だけど、間違ってはいないだろう。僕はかえちゃんを抱いてる手を離し、そのまま転がって自分の布団に戻り、枕元の時計を確認する。時間は午前五時、起きるにはまだ早い時間のため二度寝することにした。
(そういうわけで、おやすみ)
湧き上がる眠気のままに、僕は再び眠りへと旅だつ。空腹を感じて起きると、ちょうどかえちゃんが朝ごはんを作っていた。抱きしめたまま二度寝していたらかえちゃんがまた気絶して、朝食の準備が遅れていたのは想像に難くない。
「おはようかえちゃん」
「あ......あやくん、おはようございます。もうすぐ出来ますから、座って待っていてください」
「だったら配膳手伝うよ」
朝食を並べ、二人でいただきますと唱和し朝の団らんの時間となる。ちなみに林間学校の翌日は先生達も疲れているため授業にならないという理由で、一年生だけ休みになっている。
「休みなんだからもうちょっと寝てればいいのに」
「いつものくせでつい......ですけど、あやくんだってお早いですよ?」
「僕も同じだよ。まあせっかく起きたんだし、いつも通り家事をしてからカエデを完成させようかなって」
あと少しで完成なので、出来次第かえちゃんに渡すつもりだ。
「でしたら完成するまで、お側で見ていてもいいですか?」
「いいけど、靴下は脱いでね? 前みたいに汚したら悪いから」
「今回は椅子持っていきますから、大丈夫です。床に足が届きませんので、靴下も汚れません」
そう聞いて隣に座るかえちゃんを見ると、確かに床に足が届いておらず、履いているうさぎ柄のスリッパが落ちそうになっていた。
「悲しくなるからそういう自虐ネタはやめてね?」
「別に自虐というわけでは」
「今度言ったらお仕置きだからね」
「はぅぅ!」
内容を伝える前から恥じらうかえちゃん。こんなだから困らせたくなるんだよね。お仕置きに戦々恐々とするかえちゃんで遊びながら朝食を終え僕が掃除を、かえちゃんが洗濯をそれぞれ受け持った。いつもなら二人で同じ家事を行うのだけど、今日は僕から願い出て別々にしたのだ。ゴム手袋をはめて、戦場に立つ。
(ああ、やっぱりねっ!!)
洗剤でGを窒息させ仕留める。昨日帰ったときの掃除ついでに捕獲器を調べたら、生きたままのやつがいたので予感がしたのだ。死体はもちろん袋の中に放り込んだ。
(さあ、隠れても無駄だよ。かえちゃんの目に触れる前に殲滅してあげるから)
全ての部屋を周り駆除したのち、改めて捕獲器を設置しておいた。卵や子供のGもいたため、もちろん根切りにした。
「あ、あやくんお掃除終わりました......なんでしょうかその袋?」
「害虫との激戦の戦果だよ。すごくグロいから出来れば見ないでくれると助かるかな?」
「ひっ!!」
青ざめた顔で後ずさるかえちゃん。間違っても中身が見えないように何重にも袋詰めし、ゴム手袋ごと廃棄した。少々精神的なダメージを負ったため、部屋で何もせず休んでいるとかえちゃんから遠慮がちに買い物に誘われた。
「すみません、お疲れなのにお付き合いいただいて」
「いいって。休んで回復したし、かえちゃん見て癒されたいから」
「わ、わたしを見るだけでいいんですか?」
いいんです。それだけで荒んだ心が優しくなれるから。落ち着いたあと、腕を組み二人で出掛ける。買い物デートだと楽しそうにはしゃぐかえちゃんに、僕は無粋と思いつつも問いかけた。
「これ、デートに入れていいの?」
「特別なところに行かなくても、大好きなあやくんとお出かけするだけで、わたしにとってはデートですから」
「そう。じゃあデートの続きしよっか。帰ったらおうちデートだよ」
「はい♪」
買い物デートはいつも通りで特別なことは起きなかったけど、一切退屈だとは感じることはなかった。デートと意識するだけで日常の買い物が違って見えるのだから、不思議なものだ。
(だけど、いつかちゃんと計画を立てて、想い出に残るようなデートに連れて行こう)
そう僕は心に誓い、自分の部屋でかえちゃんを待つ。今度はおうちデートで、内容は僕の木彫り鑑賞だそうだ。
(まあ、完成したカエデはプレゼントするから、デートっぽいと言えなくもないかな?)
扉がノックされたので開けてあげると、かえちゃんが椅子を抱えていたので預かり、木くずがかからない場所に設置した。
「あの、そこまでしていただかなくても」
「気にしないで、そこで座って待っててよ」
かえちゃんが椅子に腰掛けたのを確認して、仕上げに取り掛かった。表面を紙やすりで磨きながら、形を整えていく。満足のいく出来に仕上がったので、カエデを机の上に置いて出たゴミを片付けた。
「あの......」
「出来たよ。ほら」
「あっ、カエデちゃんです......」
かえちゃんに完成したカエデを手渡すと、とても目が輝いていた。よかった、気に入って貰えて。
「あの、本当にいただいてもよろしいのですか?」
「もちろん。かえちゃんから贈られた彫刻刀で初めて作ったものだから、かえちゃんに持っていて欲しいんだよ」
「あっ、ありがとうございます///」
こうして、かえちゃんの部屋に並んで飾られることとなったアヤメとカエデ。いつも二羽は寄り添っているのだけど、たまにアヤメからお前も早く幸せになれという視線を感じるようになったけど、僕の気のせいだよね?
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