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第八十一話 彩芽くん、男心を掴む仕草をする

しかし、この主人公何してるんでしょうね?

 夜、僕はただ一人でお風呂に入っていた。理由は単純、僕が男湯に入ると湯船が赤く染まるから。冗談みたいな理由だけど学年の男子のほとんどから一緒の風呂はやめてくれと、各クラスの担任に嘆願書が出されたらしい。


(嫌われてるわけじゃないからいいけど、複雑だよ)


 間違った意味で男に惚れそうだから受け入れてくれと、マジ顔で頼まれたら断れない。さらに誰が悪いというわけでもないので、このもやもや感の行き場がない。


(出てから考えよう)


 せめて枕投げとかしてくれてたら、発散できるのだけど。ノリのいいクラスメートなので、やってなくても提案したら始めるだろう。そう考えつつ部屋に戻ったのだけど、クラスメート達はすでに寝そべり死屍累々の様相を呈していた。辛うじて無事だった心節に状況を確認する。


「ねえ、何があったの?」

「さっきまで枕投げして盛り上がってた。んで疲れてダウンしたと」

「僕のいないところでそんな楽しいことしてたの? 僕だけ仲間外れって酷くない?」

「仕方ねーだろ。お前女子並みに長風呂だったからな」

「何でもいいから楽しいことみんなとしたかったのに」


 いじけた僕は荷物を漁り、何か暇潰し出来そうなものを探したのだけど、何故かウィッグが入っていただけだった。いや、面白いことは出来そうかも。そう思った僕はウィッグを被り、近くにいた谷中くんに女豹のポーズで迫った。


「ねえ谷中くん、起きてくれませんか?」

「!?」

「照れてないで、ほら、遊びましょう?」

「彩姫、お前......」

「バカやってんじゃねーよ彩芽! 谷中は正気に戻れ!!」

「あ痛!?」

「ぐぁっ!!」


 心節に頭を叩かれた。すごく痛いよ。


「まったく、彩芽は暇にするとろくなことしねーな。つーかお前、嘘告白がトラウマって言ってたくせして自分からネタにしてんじゃねーかよ」

「開き直ったからね。もういじめなんて怖くないよ」


 今の僕に怖いものがあるとしたら、かえちゃんに関することだけだ。


「タチ悪いな。谷中も谷中だ。男相手にマジになんなよ」

「悪い。でもよ、彩姫はしょうがなくね? ウィッグ着けたせいで完全に女子になっちまったし」

「せっかくだしよ、女子がしてグッと来る仕草を彩姫にして貰おうぜ?」

「おめーら彼女いる奴らと違って、おれらは女子に飢えてんだ!」


 そういうわけで、僕のイタズラがきっかけとなり、女子の色っぽい仕草を僕が再現することになった。もちろん僕も乗り気だ。


「だがさっきのあれ以上は無くね?」

「ああいうのじゃなくて、もっと日常寄りのやつで頼めるか?」

「構わないですけど......例えばこれとかですか?」


 無茶ぶりに少し悩んで、思い付いた答えのままにウィッグを両手でかき上げた。髪の長い子が髪を括るときにやるポーズだけど、ヘアゴムを口にくわえることでちょっとあざとくしてみた。感嘆の声が聞こえたので、好評なようだ。


「おおっ!」

「そうそう」

「他には、こうとか?」


 そのままうなじを見せながらポニーテールにする。かえちゃんの場合はツインテールだけど、頑張ろうって思うときなんかはこうやって髪を括る人は意外と多いらしい。


「彩姫ってうなじ綺麗だよな」

「しみじみと言われると恥ずかしいので次いきますよ」


 逆に結んだ髪を解いて、ふわりと広げてみる。男でいうところの、ネクタイを解く仕草みたいなものだ。


「どうでした?」

「どうって、まあ可愛いけど髪の仕草だけかよ」

「仕方ないじゃないですか。あとは普通に男でも出来ることですし。上目遣いとか、心節にしたことありましたよね?」

「あったが、あんまりやるんじゃねーぞ? お前のあれは洒落にならん」

「そうですか?」


 上目遣いしつつ、小首をかしげてみる。全力であざといと感じたが効果は覿面で、見てたみんなが顔を赤くしていた。もちろん目の前にいる心節もだった。呆けていたのでからかうことにした。


「心節、芹さんに浮気って伝えていいですか?」

「チクったらさっき谷中に迫った動画を楓に流す。オレのは不可抗力だが、お前のは言い訳出来ねーだろ」


 確かに、自分から迫っているので何も言えない上に、かえちゃんに同じことしようとしても出来ないので、浮気どころか男好きを疑われかねない。どう考えても自爆案件なので素直に謝った。


「ごめんなさい。と、冗談はこれくらいにして、こういった仕草に男が弱いというのを、女子は割と知っています。なので、仕草だけで惚れたりしないでという僕からの忠告です」

「おう、サンキューな」


 最後は真面目に締めたので、ちょっとからかい足りない。個人的に枕投げ出来なかった無念の分はやりたかったのに。何か面白そうなネタはないかと考え、思い付いたので後先考えず投下した。


「ちなみにかえちゃん曰く、僕は寝相が非常に悪く、遠くまで移動することもあるらしいです。さらに寝ているときに抱き癖があって手近なものに抱き付きます。その二つの悪癖の影響で起きたとき服が大きくはだけているそうです。ではおやすみなさい」


 僕はこのあとなにされてもいいように早めに床につく。すると早速心節の指示で僕を布団ごと簀巻きにしたのち、部屋の隅へと蹴り飛ばしさらに荷物でバリケードまで作られた。


(これ、朝になっても動けないよね? まあいいけど)


 寝相でかえちゃん以外を抱くことにならなさそうで、心の中で胸を撫で下ろして僕は眠りの世界へと落ちていくのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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[一言] ホントに…何やってるんだ?(笑)
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