第七十九話 彩芽くん、キャンプファイヤーで楓ちゃんと踊る
夕食のあとはキャンプファイヤーと聞いていたので、僕はジャージを脱いで体操服と短パン姿になった。全方位から妙な視線を感じるけど気のせいだろう。
「彩姫、おなか見えてるって!! それに生足!!」
「えっ、ああ。別に男のおなかや足くらい見えても......なんで皆さん一斉に目を逸らすんですか?」
「「「「だって、ねえ?」」」」
「だってもなにも僕は男なんですからこの格好は普通です! そこまで言うなら他のクラスの方に聞いてきますから!」
「「「「やめといた方がいいんじゃない?」」」」
「うるさいです。皆さんが少数派だと証明してきてあげます!」
そう意気込んで離れたものの、面識のない女性教師に発見され、女の子がはしたない格好するんじゃありませんと普通に怒られ、すごすごと退散せざるを得なかったのだ。もちろんクラスメート達には爆笑された。
「「「「あははははっ!」」」」
「普通に男子用の体操服着てるのに、どうしてですかもう!」
「彩芽は仕方ねーよ。んなことよりあれ、どうにかしてやれ」
憤慨する僕の肩を叩き、指で一点を指し示した心節。そこには膝を抱え座り込んでいるかえちゃんの姿があった。恐る恐る近付いてみると、とても落ち込んでいて泣きそうな顔をしていた。
「わたし、小学生じゃありません......ちゃんと高校生です」
「かえちゃん、大丈夫。僕はちゃんとわかってるから」
「はぅぅ......あ、あやくん!?」
「しばらく撫でてあげるから。あとで何があったか聞かせてくれるかな?」
落ち着いたかえちゃんから聞いた事情は、会ったことのない生徒や教師から何度も小学生と間違われたという、先程までの僕と似たようなものだった。
「わたし自身、自覚はしていますけどこうも間違われると」
「わかるよ。僕も性別間違われたし。ネタとして言われるのはまだいいけど、男子トイレで驚かれたりするのがちょっとね。一応解決策はあるけど、聞く?」
「出来ればお願いします」
僕が提示した方策は至極単純なもので、注目される場所で堂々と宣言するというものだ。キャンプファイヤーというおあつらえ向きの舞台もある。それを聞いたかえちゃんは少し悩んで、僕と一緒だったら頑張ってみると答えた。
「無事に楓を元気付けられたみたいだが、なにかしたいことでもあるのか?」
「心節、よくわかったね。実は――」
「なるほど。それならキャンプファイヤーの火を入れる寸前に、告白大会みたいなミニイベントするらしいから、参加すればいい」
「ありがとう、心節」
「いいってことよ」
早速参加を申し込むと、意外と参加者が少なかったのか、すんなりと出番が来て、仮設のステージ上に二人で立った。用意されたマイクに向かってしゃべれば全体に聞こえるようだ。
「初めまして。佐藤彩芽です」
「桜井、楓です」
「皆さんに告白したいことが二つあります」
全体的にノリがいいのか、声を合わせて聞き返してくる。さて、僕からしようかと考えていると、かえちゃんが一歩前へ踏み出して、マイクに向かって話しかける。
「わたしはこういう見た目ですけど、皆さんと同じ十五歳です。子供っぽいのも自覚してます。数年間身長も伸びてませんから諦めてます。それでも、わたしは小学生じゃありません、高校生です!」
かえちゃんが思いの丈を吐露すると、どこからともなく拍手が起こり、可愛いと黄色い声援が送られた。かえちゃんは一礼すると、照れた顔で僕の後ろに隠れてしまった。まあ、頑張った方だよね。
「さて、次は僕の番ですね。僕はこのようななりですが、肉体的にも精神的にも歴とした男で、面倒くさい立ち位置の人達じゃありません。トイレで会っても驚くなとは言いませんが、せめてネタとして扱ってくれた方が助かります」
一息で言い切ると、会場が静まり返る。一礼し顔を上げたところでそれが一気に破られた。
「「「「お、男!?」」」」
「ええ、男ですよ。ですので特に男子の皆さん、今日お風呂で会っても驚かないでくださいね?」
「「「「無理だー!!」」」」
無理と言われても、実際お風呂に入らないなんてありえないので、誰かに会うのは確定だ。ともかく主張は終わったのでかえちゃんを連れステージから降りると、ミニイベントを主催した人からねぎらいと感謝の言葉をかけられた。
「二人ともお疲れ。おかげで盛り上がったよ。ありがとう」
「盛り上げるつもりはなかったんだけど」
「誰かの役に立てたのなら、いいじゃないですか。こちらこそありがとうございました」
クラスメート達のところに戻ると、キャンプファイヤーが始まり音楽が流れ始めた。オクラホマミキサーだ。大多数の生徒はノリノリで、一部は渋々フォークダンスを踊り始めた。
「交代するの嫌だから、離れて二人で踊ろうか」
「そうですね」
僕とかえちゃんは他の人と踊るつもりもないので集団から離れ、二人で踊った。他にもカップルっぽい男女などが同じように輪から外れ、それぞれで楽しんでいた。
「心節と芹さんも、こっちで踊ってる」
「百合さんと牡丹さんも二人で踊ってますよ」
「多分あの二人は、彼氏さん達以外と恋愛イベント起こしたくないんだろうね。身持ちが堅いというかなんというか」
楽しそうではあるので、外野がとやかく言うことでもないだろう。燃えさかる炎を眺めながら、僕とかえちゃんは二人で踊り続けた。
「はぅぅ~」
「ごめん、楽しくてつい」
最後はかえちゃんの体力が尽きて終わるという、締まらない結果だったけど。そしてこの日を境に僕は一部から、男の娘や女装子と呼ばれるようになったんだけど、誰も意味を教えてくれなかった。どうしてだろう?
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