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第七十八話 彩芽くん、飯ごう炊さんを見守る

 オリエンテーリング中、まさかの心節と芹さんのキスを間近で見てしまった。当人達が一切照れてないってどういうことなの!?


(付き合って数日でキスって、キスって!?)


 ちなみにかえちゃんは相変わらず僕の背中に乗ったままだ。待っている間は下ろしてたんだけど、戻ってきたのでまたおんぶした。体力はちょっと怪しいけど、これが最善だ。


(今かえちゃんの顔見たら、何するかわからない。こんなときは素数を数えるのがいいよね)


 頭の中で素数を数えながら山を下り、ゴールするまでにどうにか平常心を取り戻したのだった。ゴール前となる施設入り口では海崎先生が待っていた。


「お前ら、意外と早かったな?」

「そうでしょうか?」

「まあいい。少し休んで夕食の準備だ」


 僕達は何とか三時間以内に戻れたようで、最後に出された問題も正解し高評価を得たのだった。なお、今年は道に迷った生徒が出なかったらしく、先生達が露骨に胸を撫で下ろしていた。


 しばらくの休憩ののち僕は、心節と一緒にただ座っていた。周りには食材や包丁、ボウルなどが出ているにもかかわらずだ。


「ねえ、今は飯ごう炊さんしてるんだよね? なんで僕達何もしてないのかな?」

「芹と楓が張り切ってるんだよ。特に楓がな。お前が頑張ったから休ませてやりたいって気遣い、ありがたく受け取れ。オレはお前の監視役だ」

「そういうことなら、休ませて貰おうかな。あっ、かえちゃんがみんなの前に立ってる。珍しいね」

「楓と芹による料理教室、カレー編だとさ」


 広めの台を使って、かえちゃんと芹さんがクラスメートにカレーの作り方を実演していた。食材と辛さ別に二種類のカレーを作るようで、かえちゃんが甘口のビーフカレー、芹さんが中辛のポークカレーだそうだ。


「アシスタントに百合さんと牡丹さんがいるけど、あっちは飯ごうの使い方講座っぽいね」

「大事な役割だよな。カレー出来ても米が最低限食える出来じゃなければ目も当てられねーし。あと、手料理を彼氏以外に作りたくないって言ってたな」


 二人ともかえちゃんや芹さんほど料理が得意というわけではないみたいだけど、そつなくこなしている。お米を炊くのは二人の中では手料理に含まれないのか、割とノリノリでやっている。


「こうして見てると、教え方にも性格出るよね」

「子供向け料理番組と、大人向け料理番組くらいには差があるよな」


 かえちゃんの教え方は可愛らしく、芹さんは真面目にやっている。教わっている側はあまり困惑することもなく、一つ一つ確実にこなしている。野菜の皮むきが終わり指を切った人もいないので、ヤマは過ぎたようだ。


「鍋で煮込んで、あとは完成まで待つと」

「火加減や、カレールーの入れるタイミングも教えてるな」


 一通り終わったからか、かえちゃんも芹さんも僕達の元へと歩いて来たので、労いの言葉をかけた。


「二人ともお疲れ様。よくみんなに教えようって思ったね」

「お疲れ。大変だったろう?」

「そんなことないわよ。料理教室を開こうってアイデアは楓が出したのよ」

「芹さんから、あまりカレーを作れる人がいないということでしたので......それに先程わたしは足手まといでしたし、皆さんへの声かけは芹さんがしてくださいましたから、そんなに大したことは」

「あのね、心節君と彩芽君を休まそうって言ったのは楓よ?」


 お互いがお互いの成果を上げ、頑張ったのは自分じゃないと主張する様に、僕と心節は顔を見合わせ、同時に笑った。


「はぅぅ、どうして笑うんですか?」

「変なこと言ってたかしら?」

「お前ら意外と似てるよな。それで、オレらのとこに来たのはなんでだ?」

「カレー出来たから、あっちで食べましょう?」

「えっ? あっちって、クラスメート全員に囲まれた場所で?」


 みんな妙にニヤニヤした顔で僕達を見てるし。


「駄目、ですか?」

「その、駄目じゃないけど、ちょっと恥ずかしいかな?」

「つーかお前ら、カレー作ってるときおかしなこと口走ったりしてねーだろうな?」

「してないわよ。ただ、一番に食べさせたい相手聞かれて答えただけよ」


 ちょっと、それナチュラルに恥ずかしいんだけど!


「いいから早く来なさい。みんな待ってるんだから」

「ああもう、なんでアイツらこういうときは一致団結するんだよ!」

「かえちゃん、わかったから。引っ張らないで、ね?」


 そうしてみんなの輪の中に入り、席に着く僕と心節。僕の前にはかえちゃん作の、心節の前には芹さん作のカレーが置かれるが、スプーンが見当たらない。


「「ねえ(なあ)、スプーンがないんだけど(ないんだが)?」」


 同時に疑問を口にすると、クラスメート達のニヤニヤ笑いが満面の笑みへと変化し、何か途轍もなく嫌な予感がした。その予感は的中し、スプーンを持ったかえちゃんと芹さんが僕達の隣に腰掛けてきたのだ。もうここまで来たら何をするつもりなのかも、クラスメート達が楽しそうにしている理由も察した。


「あやくん♪」

「心節君♪」

「「はい、あ~ん♪」」


 抵抗は無駄だと悟り、素直にあ~んを受け入れた。とても恥ずかしかったけど、かえちゃんから恋人らしいことをしてくれたという喜びの方が強く、満面の笑みで美味しかったと告げたのだった。


「はぅぅ///」

「あ、ありがとう///」


 彼女の照れた顔が見られたので、みんなから野次られてもそんなに悪い気はしなかった。


 余談だけど、これの元凶は百合さんと牡丹さんで、あ~んしないならアシスタントやらないという条件を出したせいでこうなったとのことだ。まあ別にいいけど。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 百合さんと牡丹さん、グッジョブ! かえちゃん、よく気絶しないで頑張ったw
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