第七十二話 彩芽くん、心節くんと相談する
クラスメート全員からもみくちゃにされ、消耗した状態で午前中の授業が終わって昼休み、僕は相談のため心節を空き教室に呼び出した。向こうも何か話したいことがあったようで、不審に思わずに呼び出しに応じてくれた。
机も椅子もなく腰掛ける物がないため、窓際に寄りかかって立ち話になった。
「んで、どっちから話す?」
「呼んだのは僕だから先に話すね。実は、テストを頑張ったかえちゃんへのご褒美が未だに思い付かないんだ」
「そんな理由で呼び出したのかよ。つーか楓はお前からの贈り物なら何でも喜ぶだろ」
「だから悩んでるんだよ。かえちゃんもかえちゃんで真剣に悩んでるみたいだから、変な物贈ったら悪いし」
というか、かえちゃんのことだから多分部屋に飾るはず。もしおかしな物を贈れば部屋を訪れる度に罪悪感がこみ上げてくるので、下手な物は選べない。
「それなら、服とかは......すまん、お前も楓もファッションセンスに問題ありだったな」
「確かにその通りだから、何も言い返せない!」
特に僕のセンスが酷いことは自他共に認めるところだ。でも靴下を贈るのは選択肢に入れていいかもしれない。かえちゃんがどこで買ってるか、今度紅葉さんに聞いてみることにしよう。
「大体、物にこだわる必要があるのか? それこそデートとかでもいいだろ」
「それでもいいんだけど、抱き合っても目を見ながら話せない恋人って、どう思う?」
「お前ら、まだそんな状態なのかよ」
「うん。練習中なんだ。抱き付くとか腕組んで話すとかの目標を達成したらなでなでしてあげてる」
「だったら、それをご褒美にしてやれよ」
話し合いの結果、かえちゃんへのご褒美は、かえちゃんが満足するまでなでなでするに決まった。
「さて、ようやくオレの話だな。彩芽に質問だが、オレと芹を客観的に見て、どう思う?」
「どうって、仲のいい友達とかかな? たまに付き合ってるんじゃないかって思うときはあるけど」
僕の正直な感想に心節は短く、そうかと返した。
「芹さんのこと、やっぱり気になってるんだね」
「まあな。恋愛的な意味で好きじゃねーのに、一人暮らしの女にいつでも相談に乗るとか言えねーよ」
「そっか。それで告白するの?」
「おう。テストも終わって暇になったから、近いうちにデートに誘ってな」
「頑張ってね。フラれたら慰めてあげるから、当たって爆発四散してね」
励ましたつもりなのに頭をグリグリされた。ものすごく痛い。
「もう、僕がバカになったらどう責任取るんだよ!」
「元々バカップルだろうが。それにお前面の皮厚いから大丈夫だろ」
「それなら顔にすればいいのに」
「楓に恨まれたくないからな。そろそろ戻るぞ」
そうして教室に戻ると、僕の席でかえちゃんと話していた芹さんが、心節の姿を確認すると真っ赤な顔をしながら全力で教室の隅まで走り、カーテンに包まり姿を隠すという奇っ怪な行動に出た。
「「「「は?」」」」
普段真面目な芹さんの奇行に、教室にいた全員があっけにとられる。比較的早く復活した僕は、芹さんと直前まで話していたかえちゃんに疑問を投げかけた。
「かえちゃん、芹さんに何があったの?」
「その、心節さんのことで相談を受けまして......わたしがあやくんと付き合うまでの心境を語ったところ、共感されましたので」
「うんわかったみなまで言わなくていいよ」
半月前の僕がちょうどこんな感じだったので、芹さんの気持ちが身に染みてわかる。急に恋心を自覚すると、体が言うこと聞かないんだよね。
「でも、原因がわかったところでどうすればいいのか」
「なんだよ彩芽、アイツがイカレた理由わかったのか?」
「うん、まあ。とりあえず明日になったら落ち着いて治るんじゃないかな?」
心節だよ、とはさすがに言えなかったので適当に誤魔化したのだけど
「だったら、今日は早退させた方がいいよな?」
「えっ、何する気? というか心節が行くと逆効果」
「まあ見ていろ」
心節はそう言いながら、芹さんの死角からゆっくりと歩いて近付き、そのままカーテン越しに抱きしめた。
「きゃぁぁぁっ、ちょっ、心節君!?」
「奇行に走るくらいなら、とっとと休みやがれ!」
「誰のせいだと、やっ、何するのよ!? って、心節君の顔が近い!? ちょっと待ってアタシもしかして――!!」
抵抗する芹さんを強引にカーテンから引きはがし、お姫様抱っこすることで逃げ場を塞いだ心節。自分がどのような状態か気付いた芹さんは観念したのか、暴れるのをやめ大人しくしていた。
「つーわけで、コイツ早退させっから。彩芽、あと頼む」
「お手柔らかにね。でも心節は戻ってきてよ? 家の人に確認されたら面倒だから」
「心配すんな。だから鞄を置いていくわけだからな」
心節は赤い顔をしたまま黙っている芹さんを抱いて、堂々と教室を出て行った。それをポカンとした表情で見送った一同。
「えっと、つまりどうなったのでしょうか?」
「カップル成立、かな?」
その後、五時限目の途中で戻ってきた心節は当然質問攻めに遭うも、上手くはぐらかし、放課後脱兎の勢いで二人分の鞄を手に去って行った。後日、二人は正式に付き合うことになり、早々に僕達よりも進展して、心節から散々煽られることになるのだけど、それはまた別のお話。
お読みいただきありがとうございます。
この二人はいつくっつけてもよかったんですけど、彩芽と楓の恋愛模様を書く以上、似たような時期に付き合い始めた相手がいるといいと思い、ここに入れました。




