第七十話 彩芽くん、楓ちゃんといちゃつく
恋の病が発端となったかえちゃんの気絶を改善するため、具体的な方法を話し合って考えた。その結果お互いの顔を見ながら話す練習と並行して、恋人らしいことをしていくこととなった。
「あやくんにしていただくと気絶しそうなことは、わたしからしてみて駄目かどうか判断します」
「わかったよ。でも無理はしないで欲しい」
僕がかえちゃんにして気絶したことといえばおでこへのキス、抱き合って顔を見る、あとはお仕置きでニーソを履かせたことくらいか。それぞれ『キス』『スキンシップ』『お仕置き』と分類してノートに書き記す。
「大丈夫ですよ。気絶しそうならやめますし。ところであやくん、何を書いているのですか?」
「僕達がこれまでしてきたことを書くことで、今がどのあたりなのか再認識するためにね」
『キス』に関してはおでこにしかしていないので例外として、『お仕置き』はほっぺたぷにぷにが出来なくなっていて、『スキンシップ』も抱き合う時点で不可能になっている。
「こうやって列挙すると、明らかに恋人になってからの距離が離れているわけだ」
「はぅぅ、確かにそうですね。ですけど、改めて見てみるとわたし達、付き合う前にすごいことしてますよね?」
「それは......否定できないね」
恋人だとしても普通なら付き合いたてで抱き合ったり、ほっぺたを弄んだり膝に乗せて靴下を履かせたりしないと思う。
「実は嫌だったとかないかな? それならこれを機に『お仕置き』は――」
「そんなこと言わないでください! 恥ずかしかったですけど、されて嬉しかったですから」
「......かえちゃんがそこまで言うなら、『スキンシップ』も『お仕置き』も前と同じことが出来るようにならないとね」
抱き合って顔を見るとニーソを履かせるの下に縦線を引いて、その下にそれぞれ抱き合うとハイソを履かせるを記入する。どちらも気絶した行為の下位互換のもので、達成していくことで次のステップに進むことになる。
「こんな感じかな?」
「あの、ほっぺたぷにぷには、どこになるのでしょう?」
「『お仕置き』の、ハイソを履かせるの下に入れるつもりだけど、かえちゃん的には違うの?」
「どちらかというと、ほっぺたぷにぷにの方が恥ずかしいです」
「そっか。ならハイソを履かせるの上にほっぺたぷにぷにを入れるよ」
さらに一番下に、お風呂上がりのドライヤーを入れて『お仕置き』の項目を完成させる。『スキンシップ』の方も抱き合うの下に抱き付く、肩を抱く、腕を組む、手を握ると追加していった。
「多分ですけど、抱き付くまでは出来そうな気がします」
「だったら僕が正面からしても大丈夫?」
「はぅぅ、ちょっとだけ不安です」
かえちゃんの返答を聞き、抱き付くの隣に練習中、それより下には全て達成と書き加える。『スキンシップ』も完成っと。あとは『キス』と今までの顔を見て話す練習についてもまとめていく。
「話す練習だけど、ある程度近くで話せるようになったから、次から『スキンシップ』の内容も絡めてやろうよ」
「そうですね。今だと手を繋いでお顔を見てお話しする、でしょうか?」
「そうそう」
話しながら差し出した手を、優しく握るかえちゃん。その手を少しずつ引き寄せながら会話を続ける。
「ほら出来た。頑張ればこのまま腕も組めるかな?」
「いきなりそれはちょっと......」
「まあそうだよね。でも、これまでよりも近付いて話せるようになってるよ?」
「あっ......」
大きな瞳が驚きで見開かれる。そう、これまで顔を見て話せる限界は五十センチだった。でも、今の僕とかえちゃんの距離は三十センチもない。だから、頑張ったご褒美であるなでなでも、自然に出来た。
「はぅぅ///」
「かえちゃん、もう一つご褒美があるんだ。じっとしてて」
撫でている右手はそのままに、左手を伸ばしてかえちゃんの髪に触れ、そのまま僕の口元へ持っていき口づけした。
「はぅぅ、髪の毛にちゅー、されちゃいました......」
「よかった。気絶しないってことはしても大丈夫なんだね」
頬を赤くして、コクコクと頷くかえちゃん。その様子を見てもう少しだけ踏み出してみようと思い、今度はかえちゃんの右手を取った。
「はぅぅ!?」
「大丈夫、手の甲にキスするだけだから」
「あ、あやくん、王子様みたいです......」
「僕にとってかえちゃんはお姫様だからね。それで、キスしていいかな?」
「大好きな人にお姫様って言われて、断る女の子はいませんよ」
はにかんで肯定したかえちゃんに、僕は手を取ったまま跪き、誓いの言葉を口にしてその小さな手の甲へと顔を寄せ、唇を触れさせる。
「かえちゃん。僕はあなたの傍にいて、ずっと守り続ける。愛しているよ」
「はぅぅ///」
愛の告白とともに手の甲に口づけしたことで、かえちゃんの顔全体が真っ赤になったが、眼差しはしっかりしていた。そして、かえちゃんからの告白が返ってきた。
「あやくん、わたしも愛しています。これから二人で温かな家庭を築いていきましょう♪」
「うん。うちの両親やかえちゃんの両親みたいに、いつまでもラブラブな夫婦でいようね」
「はい!」
髪の毛や手の甲へのキスで舞い上がったのか、僕達はとても恥ずかしい発言をしていた。その数分後、僕達は自身及び相手の発言により羞恥の限界を突破し、二人して悶え苦しむこととなるのだった。
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