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第六十八話 楓ちゃん、お昼寝する

楓視点です。

 中間テスト最終日、全ての教科の試験が終わったことで、わたしは疲れ切ってしまいました。あやくんに隠れてこっそり夜にお勉強していたためです。


「はぅぅ、燃え尽きました......」

「かえちゃん、よく頑張ったね。うちに帰ってゆっくり休もうか」

「そう、ですね。では――」

「かえちゃん!?」


 そんなわたしを、あやくんは労ってくれました。お誘いに同意し立ち上がろうとしましたが力が入らず、わたしはそのまま崩れ落ち、あやくんの心配そうお顔を見ながら意識を失ってしまいました。


 目覚めるとわたしは横になっていて、一度見たことのある天井が目に映っていました。


「はぅぅ、ここは......保健室?」

「そうだよかえちゃん。倒れた理由に心当たりはあるかな?」

「その、お勉強を遅くまでしていて」


 正直に告げると、あやくんは深いため息をついてから、形の整った眉を逆立てました。


「かえちゃん、無理するなって言ったよね?」

「はぅぅ、すみません」

「......お仕置き一回分で許してあげる。いいよね?」

「わかりました......」

「それでかえちゃん、動けそう?」


 眠っていたので体力も少しは回復しました。ゆっくりとベッドから降りて立ち上がります。


「帰ったらちゃんと寝ること。いいね?」

「はい」

「よろしい。ほら、僕の背中に乗って?」

「あの、一人で歩けます!」

「倒れたかえちゃんの言い分は信用できないよ。だから大人しく言うこと聞いて」


 負い目もあり、あやくんの背中に負ぶさり帰ることになりました。


「はぅぅ、わたし駄目な子です」

「そうかもね。でも僕は普段しっかりしてるのに時々抜けてて、頑張り屋だけどよく無茶をするかえちゃんのことが好きなんだ」

「はぅぅ! あの、わたしもいつも優しいですけどたまに理不尽で、積極的かと思ったら実は奥手なあやくんの全部が、大好きです」


 わたしの駄目なところも好きと言ってくださったあやくんに、わたしもあやくんの全てが好きだと伝えます。きっとお互い真っ赤になっているでしょうけど、顔が見えない今だから言えることです。


「そういう言い方するなら、僕だってかえちゃんの全部が大好きだからね」

「はぅぅ!!」

「それこそ、かえちゃんの顔も背格好も、スタイルさえも好みなんだから。言うとロリコン扱いされるけど、別に気にならないし」


 冗談めかした感じでしたが、童顔でちんちくりん、その上幼児体型のわたしの見た目を好みと言ってくださり、とても嬉しかったです。


「あやくん、ありがとうございます」


 感謝の言葉を告げたわたしに、あやくんは何も言わず頷きました。沈黙のまま通学路を歩みますが、言葉を交わさないこの空気が、どこか心地よかったです。


 玄関でわたしは下ろされました。あやくんって細いですけど想像以上に体力ありますよね。


「かえちゃんのためだから、意地の一つも見せないと」

「あの、ありがとうございます。あやくんはお休みしていてください。洗濯物は片付けますから」

「どうせ部屋に戻るついでだし、自分の分くらいはするよ。かえちゃんこそ部屋で休んでて。寝不足で倒れたんだからね」

「でもあやくんだってお疲れでは?」

「......じゃあ二人で片付けよう。それで同じ部屋、リビングで二人で昼寝しようか。そうしたらお互いちゃんと休んでるってわかるし」

「わかりました♪」


 二人でお昼寝という大変魅力的な提案に、わたしは声を弾ませて応じました。子供の頃以来なので、とても楽しみです。


 二人で洗濯物を取り込み、お部屋でお着替えして彩を連れてリビングに向かうと、あやくんがマレーバクのぬいぐるみを抱いて座っていました。その姿がとてもキュートで、見とれてしまいました。


「かえちゃん、大きなぬいぐるみだね。抱いて寝るの?」

「はい......この子は彩です。あやくんのその子も、可愛いです」

「この間景品で手に入れてね。そうだよね、(ふう)?」

「そうなんですね。これからよろしくお願いします、楓さん」


 あやくんのぬいぐるみに挨拶をして、二人でお昼寝することになったのですが、お互いの距離と向きが中々決まらず、最終的には背中合わせで、ギリギリ触れない距離で眠ることになりました。


 そうして、わたしが次に目を覚ましたとき、気持ちよさそうに眠っているあやくんの寝顔がすぐ傍にありました。その距離は三十センチ。いつもなら気絶しているほどの近さです。


(はぅぅ!!)


 あまりにも綺麗で、可愛らしい寝顔にどきどきしすぎて、意識が遠のきそうになりましたが、何とか我慢してあやくんを観察します。するとあやくんの胸元に楓さんがいないこと、それと同時にわたしも彩を抱いていないことに気付きました。


(あれっ、いつの間に!?)


 つまりそれは、隔てるものが何もない状態で、あやくんと向かい合いながら眠っているわけで。さらに言うと手を伸ばしたらあやくんに触れられそうなわけでして。


(す、少しだけ......きゃぁ、あやくんのお顔に触っちゃいました♪)


 頬に触れるとすべすべしていて、とても男の方のお肌とは思えないほどでした。姫と呼ばれるのも納得です。髪も再会当初から少し伸び、より美しさが増しています。あっ、毛先がちょっとだけ癖っ毛です。


(すぐ近くで見ると、こんなに新しい発見があるんですね)


 眠っていて、目が合わないなら三十センチという近くでも、こうして触れたりが出来るとわかりました。大きな進歩です。ここでもう一歩踏み出そうかと悩んだ僅かな時間で、状況が大きく変わりました。


「んぅ、かえちゃん......」

「はぅぅ!!」


 あやくんがわたしに向かって手を伸ばし、そのまま抱きよせ耳元で甘い声でささやいたのです。


「もう離さないからね。大好きだよ」

「はぅぅぅぅぅ!!」


 当然わたしはパニックになり、これまではどうにか抑えていた意識が遠くへ飛んでいってしまいました。やっぱりわたし、だめだめです。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ふぅ…追いつきました♪ ヘタレでありながら、常に甘々な二人。 これを見続けるのはかなりの苦行ですね…w でも二人の行く末は、絶対に見届けなければ!
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