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第六十四話 楓ちゃん、思い悩む

楓視点です。

 あやくんとのお夕飯が終わり、わたしは湯船に浸かり、お父さんとの電話のことを思い返してある危機感を抱いていました。


(わたし、あやくんに恋人らしいこと、なにも出来ていません)


 そう、あやくんがおでこにちゅーしてくださってから今の今まで、わたしは恋人さらには婚約者としてなにも出来ていないのです。お父さんとお母さんが帰るまでに、恋人らしく振る舞えるようにとのことですが、現状そうなっていないことは誰の目にも明らかでした。


(これではあやくんとの婚約を認めてくださらないかもしれません。はぅぅ、告白のときに背伸びしてキスしていれば......)


 あの時は感極まって、そんなことは考えもしなかったのですが、後になって思うと、もう少しだけ勇気を出すべきだったと後悔が押し寄せてきます。


(わたし、本当にだめだめです)


 昔からそうで、例えばほっぺにちゅーしようと思い、顔を近付けると振り向かれて目が合ってしまい、恥ずかしくなって逃げたことがありました。このまま気持ちを伝えられなければ、婚約が無効になるだけでなく愛想を尽かされてしまうかもしれません。


(そんなの嫌です!!)


 自らの不安を振り切るように、わたしは浴槽から立ち上がりました。何かと自信のないわたしですが、あやくんへ抱く想いの強さは誰にも負けません。


(あやくんがどこかへ行かないように、わたしが頑張りませんと!!)


 あやくんが離れていかないようにもっと勇気を出そうと決意します。具体的に言うならば、あやくんとファーストキスを交わせば離れないはず。そう考え、あやくんとキスしている自分をイメージします。少し上を向いたわたしは、何かを期待するようにあやくんの綺麗な顔を見つめます。すると頬を朱に染めたあやくんがわたしの肩に両手を置いて引き寄せ、お顔を近付けて――。


(......はぅぅ!)


 恥ずかしくなり倒れそうになるところを、何とか踏みとどまります。お顔が熱くて動悸もするので、お風呂にこれ以上いるとのぼせそうになるので脱衣場に移りました。もし浴槽でのぼせて気絶した場合、色々な意味でアウトですから。


 柔らかいバスタオルで濡れた体を拭きながら何故気絶しかけたかを考え、すぐに答えが出ました。


(あやくんとのファーストキスを想像して、近付くあやくんのお顔にどきどきして気絶......はぅぅ)


 あまりにも情けない結果に嘆き落ち込みます。ですが、気絶したのはキスはまだ早いからなのでしょう。経験を積めばいつか出来ると考えたわたしは、腰まである長い髪をドライヤーで乾かしながら別の目標を立てました。


(まずは、あやくんのお顔を間近で見て、お話が出来るようにしませんと)


 あやくんとした検証で、顔を見て近付ける限界が五十センチということがわかりました。多分それより近いとお互いどきどきしすぎて倒れてしまいます。日常生活を送るならその距離でも問題ないのでしょう。


 ただ、わたしとあやくんは恋人同士です。それも、仲のいい幼馴染から恋人になったので、付き合う前から距離が近かったりします。例えばこれまでにあやくんがわたしに行った、お仕置きという名のご褒美を思い返します。


(ほっぺたぷにぷにも、今されたと想像するだけでわたし――)


 妄想の結果三秒ほど意識が飛んでしまい、それによりわたしは前髪を伸ばしていた頃には出来ていたことが今は出来なくなったということを確信しました。ですがそれはあやくんのお顔を見ながら行うことだけで、それ以外は妄想しても照れるだけに留まりました。


(よかったです。膝枕をしてあげたり、後ろから抱き付いたりも出来そうです)


 顔を見さえしなければ恋人らしいことが行えそうなので、ひとまずは安心です。それが本当に恋人らしいかどうかは別として。


(さっきあやくんとした練習を毎日頑張れば、きっとお顔を見てお話出来るようになります。そうすれば頑張ったご褒美にほっぺにちゅーを......はぅぅ)


 考えただけで顔から火が出るくらい恥ずかしいですけど、幼い頃にした結婚の約束を現実のものとする足がかりと思えば、どうにか頑張れそうです。


(あやくん、喜んでくださいますでしょうか?)


 小さかった頃と比べて、わたしだって成長しているんです。そう思って鏡を見て、そこまで変わっていないことに再び落ち込みました。


(はぅぅ、お子様です)


 鏡に映るわたし。幼い顔立ちに低い身長、さらには貧相な体つきはどこからどう見ても小学生で、女性としての魅力に欠けていることを強く再認識させられます。この上数時間前までは顔を前髪で隠していたのだから、誰も選ぼうとは思わないはず。


(ですが、それでもあやくんはわたしを恋人にしました)


 それは変わりようのない事実です。それに樹お義父さんが言っていたことが事実なら、わたしの見た目がお子様ではなかった場合、あやくんが優しくなるまで時間がかかっていたでしょう。そうなると、子供みたいな見た目に育ったことを感謝したくなります。


(ですけどあやくん、わたしは同い年の女の子なんですよ?)


 そこだけは、あやくんに忘れて欲しくないです。わたしも、あやくんの見た目が美少女で、男の子ということをたまに忘れそうになるのでお互い様だと思いますが。


 などと、脱衣場で長々と考えていたのがいけなかったのでしょう。いつもよりも入浴時間が長く、不審に思い、わたしがのぼせたのではと疑ったあやくんが扉を開け、その顔を間近で見てしまいました。


「はぅぅ......」

「わぁぁぁっ、かえちゃんしっかりして!!」


 卒倒したところをあやくんに助けられました。はぅぅ、わたしって本当に駄目な子です。

お読みいただきありがとうございます。

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