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第五十九話 彩芽くん、プレゼントを貰う

これを含め、あと二話で終わりです。

 並べられた料理に口をつける。味付けが僕の好みなので、何となくかえちゃんが料理に参加したことは予想できた。案の定かえちゃんが真っ赤な顔で味の感想を聞いてくる。


「あの、お味はどうですか?」

「美味しいですよ。かえちゃん。それと、こっちの辛めな料理、美味しいけど誰が作ったのですか?」

「そっちはアタシよ。楓のじゃないってよくわかったわね?」

「かえちゃんって僕以上に辛いの駄目ですからね。かえちゃんも自分で無理せず食べられる、ギリギリの辛さを作るとは思えませんし」


 こういう場合、かえちゃんだったら自分が無理して食べられる辛さにして、他の人に合わせるだろうから。


「楓のこと、よくわかってるわね」

「幼馴染ですから」

「本当、美味しいわ。芹さん、今度教えてくれない?」

「いいわよ。その代わり、百合さんと牡丹さんにはお菓子作り教えて貰うわね」

「お安いご用だよ。その時は楓たんも呼んで女子会しようよ♪」

「はぅぅ、わたしもですか?」

「彩姫ー、いいよねー?」


 手で丸を作ると、女子四人は集まり楽しそうに計画を立てる。その間にあぶれた男子同士でこっそりと話し始める。


「ねえ心節くん、僕さっき勢いでかえちゃんに告白しましたけど、あまり変わらないですよね」

「あれだけ緊張してた上に気絶したから、夢扱いされてるんじゃねーか?」

「そんな、せっかく頑張りましたのに」

「まあ夢扱いでも覚えてるだろうから、今度は緊張してないときに試せ」

「わかりました」

「彩姫ー、ちょっと来てー!」


 百合さんに呼ばれ女子の集まりに入ると、いつの間にかケーキに蝋燭が十六本立っていて、それぞれに火が揺らめいていた。


「吹き消せばいいんですよね?」

「そうだよ。一息でよろしくね」

「大丈夫、彩姫の肺活量ならいけるわ」


 火を吹き消し、百合さんと牡丹さんの特製ケーキが全員に配られ、それを心節くんがまじまじと見つめていた。


「そういや百合と牡丹って料理作れるんだな?」

「意外だったでしょ?」

「確かにな。だが考えてみると彼氏持ちだし、出来てもおかしくはねーか」

「彼氏の方も料理頑張ってる。百合の彼氏は特に」

「一人暮らしの大学生だからね。不摂生な生活送ってたら押しかけるって脅してるし」

「......それ、脅しになるのですか?」


 好きな人との二人暮らしなら、喜ぶことはあっても脅しにはならないと思うけど。そう考えたのは僕とかえちゃんだけだったみたいで、他の四人から微笑ましい目で見られた。


「普通は好きな相手と二人暮らしなんかしてたら、理性が持たないわよ」

「ましてや、大学生と未成年じゃ下手すれば犯罪だしな。合法でも学校にバレれば親呼び出しだ」

「うん。だから脅しで留めてるんだよ」

「私は百合とは逆の立場だから、忍耐する側」

「言われてみればそうですよね」


 僕とかえちゃんみたいな、双方の両親が納得済みで高校生の二人暮らしを認めている例なんて、ほとんど無いレアケースだろうから、幼馴染という関係性に感謝したいと思った。


 料理とケーキを片付けると、かえちゃんは何かを取りに部屋へと向かった。戻ってきたかえちゃんは、三つの包みを抱えていた。三つ?


「あの、お誕生日のプレゼントです。カラスさんとなずなちゃんからのも預かっています」

「プレゼントって、リンとなずなちゃんも用意してくれてたんですね」

「はい。この間遊びに来たときに」


 そういえば一度リンとなずなちゃんだけにした時間があったけど、その時にプレゼントをかえちゃんの部屋に置いたのかな?


「彩芽が他人を呼び捨てしてるの初めて聞いたな」

「疎遠になったとはいえ、同性の幼馴染ですから。なんならあなたにもそうしましょうか、心節?」

「そうしてくれ。んで、その幼馴染からの贈り物、中身なんだよ?」

「待ってください、今開けますから」


 まずはこの場にいない、リンからのプレゼントに手を着ける。大きさと重さから、書籍っぽい。


「水棲動物写真集、リン覚えてたんですね」


 昔から僕は可愛いものと動物が好きだったので、動物写真集はたまに買っていた。海の動物のものも欲しかったけど後回しにしていたので、幼馴染らしいチョイスだった。さらに『アヤ、誕生日おめでとう。多分この中だとアザラシとペンギンを気に入ると思うよ』というメッセージも添えられていた。


「なんでリンに僕の好みバレてるかな?」

「お前意外とわかりやすいからな。写真繋がりで、次はオレのプレゼントだ。受け取れ」


 心節から渡されたのは木製の、何の飾りもない写真立てだった。


「他にもいくつか浮かんだが、これがお前にピッタリだと思った」

「そうですか。無地だから自分で彫っていいですか?」

「好きにしろ。初めからそのつもりで選んだからな」


 心節とリンのプレゼントで創作意欲が湧いたので、近いうちにやってみようと思った。


「あの、彫刻繋がりでわ――」

「楓のプレゼントは最後よ。アンタの後に渡せるの誰もいないんだから。彩芽君、楓以外から選んで」

「じゃあなずなちゃんの開けますね......手鏡?」


 なずなちゃんからは手鏡、それも飾り気のないものだった。こちらのメッセージは『アヤにい、誕生日おめでとう。あまり身だしなみに気を遣わないアヤにいにこれあげる。男の子が持ち歩いてもおかしくないよう、無地にしたから』とのこと。


「楓たん、本当なの?」

「はい。あやくん、寝癖そのままだったりしますから」

「これから髪伸ばすつもりだから、気を付けませんと」


 なずなちゃんのプレゼントはとても実用的だったので、かなりありがたかった。


「手鏡ね。アタシのは一応繋がってるけど、どうする?」

「私達も似たようなものだけど、先にさせて」


 百合さんと牡丹さんからは、なにやら見覚えのあるものを渡された。そう、化粧品とウィッグなどの女装グッズだ。


「百合さん、牡丹さん! どうしてこれなんですか!」

「こっちはちゃんと彩姫の肌に合ったもの選んだんだよ?」

「いつまでもお試しじゃよくないから。今度はそれ使ってみて」

「役に立ちますし必要なのでありがたく使わせて貰いますけど、何でしょうこの後戻り出来ない感覚は」


 男として大事な何かが削られている気がしてくる。あと残ったのはかえちゃんと芹さんのプレゼントだ。宣言通り芹さんが先に渡してきたが、一番用途がわからないものだった。


「芹さんは、ハサミ?」

「そうよ。それも美容院とかで使う、髪を切るためのものよ」

「それは見ればわかります。どうしてわざわざハサミを?」


 意図が掴めず悩んでいると、芹さんが耳打ちしてきた。


「楓の前髪の件で、わりとすぐにいると思ったからよ」

「えっ、それって」

「それ以外にも彩芽君が髪を伸ばすなら、ボサボサにならないように手入れを忘れないでって意味もある、というかこっちがメインね。ほら、楓もさっさと渡してしまいなさい」

「はぅぅ、あやくん」

「えっ......」


 かえちゃんから渡されたプレゼントに、僕は絶句した。何故ならば、そのプレゼントが彫刻刀だったからだ。最もよく使う平刃のもので、造りもしっかりしていて、さらに菖蒲の花があしらわれていた。


「あやくん、喜んでいただけましたか?」

「うん。すごく意外だったけど、嬉しいです」

「あっ、ありがとうございます!」

「いやー、みんな被らなくてよかったね♪」

「本当にそうね」

「ところでアンタ達、誕生日いつよ?」


 芹さんの問いかけで全員誕生日を答え、最後に芹さん自身も告げた。


「ということは、僕が一番年上になるんですね」

「次はあたしと、ちょっと後に牡丹だよ♪」

「その次は楓たん、あと芹さん、心節君と続くのね」


 個人的には、芹さんが冬産まれ、心節が三月産まれだったことに驚いた。一年近く早く産まれてるのに、この差は何なのだろうか?


(まあ、別にいいですけど。それより皆さん、覚悟していてくださいね?)


 サプライズで祝われた以上、しっかりお返しはするつもりだ。今はまだ、その時のために計画を練るだけに留めておくけど。


 無事に誕生日会が終わり、祝ってくれた友達を見送るため、僕とかえちゃんは家の前に出た。


「みんな、今日はありがとう」

「ありがとうございます」

「ところで、今さらだがいいか?」

「心節、なんでしょう?」

「お前いつまで彩姫モードなんだ?」


 心節の指摘で、女装のままだということに気付いた。そして、着替えられなかった理由についても。


「いつまでも何も、帰ってすぐに祝われたから着替えられなかったんです」

「一度抜けて着替えたらよかったじゃねーか」

「......部屋に戻って着替えたらその感動の余韻が薄れてしまいますから」


 ちょっと、いやかなり恥ずかしかったけど隠さず本音を語った僕。それに対し、かえちゃん以外の四人は目を点にしていた。


「なんか彩姫って、言うこといちいち可愛いよね?」

「あれ多分天然よ。彩芽くんが楓一筋でよかったわ」

「彩芽って素直なときが一番可愛いよな」

「楓たん、彩姫はいつもこんな感じ?」

「だいたいそうですよ? わたしにも、もう少し意地悪して欲しいんですけど」

「個人的にはしてると思うけど?」


 かえちゃんの要望は出来るだけ叶えてあげたいけれど、これに関しては正直言われても困る。基本的にいい子だからいじるネタが少ないんだよね。


(いや、あれならいじれるから、後に取っておこう)


 一つだけネタを思い付いたけど、意地悪して欲しいと言われてすぐにやるのは面白くない。どうせやるなら最大の効果があるときにしたい。


「さてと、そろそろ帰るぞ」

「そうね。名残惜しいけど、明日から学校だものね」

「芹ちゃん、嫌なこと思い出させないでよ」

「しかもすぐテスト。赤点取らないように」

「「ぐはっ!」」

「はぅぅ!」


 芹さんが事実を告げ、さらに牡丹さんの追撃でオーバーキルとなった心節と百合さん。虚ろな目をした二人の手を引いて行く芹さんと牡丹さんを見送り、魂の抜けたかえちゃんを家の中へ戻ったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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