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第五十六話 彩芽くん、カラオケに行く

幼馴染編の最終イベント、彩芽の誕生日が始まりました。

 五月五日、こどもの日というのが一般的な印象だろう。男の子の健やかな成長を願う、そんな日に僕は女装していた。それもリン達を迎えに行ったとき以上に徹底して。


 この姿を見たかえちゃんの感想は「大人っぽくてすごく綺麗です」だった。嬉しいけど、男に対する評価じゃないと思う。


 僕の女装姿に見とれていたかえちゃんと、いつの間にか玄関に飾られていた菖蒲の花に見送られ、駅までの道を女の子走りで急ぐ。時間に余裕はあったけど、出来たら待ち合わせには先に着いておきたい。


(心節くんは多分ギリギリか遅刻するだろうから、いじって遊ぼうかな?)


 そう考えながら駅に着いたのだけど、すでに待ち合わせ場所に心節くんの姿があったため、近付いて待ち合わせの定番である台詞を口にする。


「ごめん、待った?」

「いいや、今来たところだ」

「「ぷっ!!」」


 僕と心節くんは同時に吹き出し、さらに近付き小声で応酬した。


「まるでデートだな。しっかし、お前本気で女にしか見えねーぞ?」

「心節くんこそ、ずいぶん格好良くなってるよね。そんなに僕とデートしたかったの?」

「それはこっちの台詞だっての。化粧までしてるじゃねーかよ」

「これは念のためだよ。それっぽくするために口調も変えようか?」

「そこは好きにしろよ」


 そう言いながら携帯をいじっている心節くん。ふーん、そう言う態度取るんだ。


「わかりました。ではこの口調でいきますね。それと心節くん、誰かと二人で出かけるときに、携帯を操作するのは控えた方がいいですよ? 印象が悪くなりますから」

「わかってるっての。ただな、三代から証拠写真送れってメッセージが来ててな。最低でも始めと途中、あと終わりの三枚寄こせだとよ。送らないと乱入して引っかき回すって脅迫付きだ」

「ああ、それは責められないですね。なら早速撮りましょうか」


 納得した僕を見て、何故か申し訳なさそうな顔をした心節くん。どうしたんだろうか?


「あとで三代に詫び入れねーとな。そんじゃま、撮るとするか」

「あの、なんで僕一人なんです? そばに来ないんですか?」

「スポンサーの望みは、お前の女装写真だからな」

「そういうものですかね?」


 パシャリと一枚。噴水の縁に腰掛け、上目遣いで心節くんを見つめる僕の姿が撮られた。


「お前撮ると自然とこういう感じになるな」

「なんか誘惑してるようでやだね。それで心節くん、今日はどちらに連れて行って貰えるんですか?」

「ゲーセンとカラオケだ。今回のテーマはお前が普段行かない場所に連れて行く、だからな」

「確かに一人でも、かえちゃんを連れても行きませんけど」


 僕もかえちゃんも人混みや騒がしい場所は苦手なため、先日のデートでも選択肢にすら入らなかった。


「お前ら、高校生っぽくねーよ。いつもどう過ごしてるんだよ?」

「基本的に家事と木彫りとかですね。あとネット動画見たり二人で日なたぼっこしたりしてます」


 自分で口にして、なんとなくおじいさんとおばあさんの過ごし方っぽいと思った。心節くんも同じ印象を抱いたようで、肩をすくめていた。


「それ、子供っぽいんだか年寄りじみてんだかわからねーよ。ああ、だからお前ら一つ屋根の下で二人きりでもやっていけてるのか」

「どういう意味ですかそれ?」

「自分で考えろ。それよりも、ゲーセンとカラオケのどっち先に行きたいか選ばせてやる」


 そこは心節くんがリードして欲しいんだけど。でも、強いていうならカラオケかな? ちょっと相談したいことあるし。


「決まりだな。行くぞ」

「もう、待ってください!」


 先導する心節くん。こういうグイグイ引っぱっていくやり方もあるのかと思い僕はついていった。


 案内されたのは二十四時間営業のカラオケボックスで、そのうちの一室に入った。長椅子に二人で腰掛けたけど、何すればいいのかな?


「お前、本当に来たことないんだな。それで、早速歌うか?」

「何を歌えばいいかわかりませんし、その前に相談したいことがあるんですが、いいですか?」

「別にいいが、相談で終わるなら代金はお前持ちな?」


 そのくらいなら別に構わない。一度息を整えて話し始める。


「実は僕、かえちゃんのこと好きみたいなんです」

「今さらか」

「それで告白しようと思ってるんですけど」

「まだしてないのかよ」

「どうやって告白しようか迷っていまして」

「適当でいいんじゃね?」

「もう! 真面目に聞いてください!」


 茶々を入れてきた上、適当とまで言われたので僕は声を荒らげた。


「これでも真面目に返してるぞ。楓がお前をどう思ってるか、わからんわけじゃねーよな?」

「それはその、わかってますけど......だからこそ迷ってるんです。僕と再会するまで約束を守り通したかえちゃんに、ただ好きとか付き合ってとかじゃ足りないかなって」

「お前は難しく考えすぎだ。もうちょっとシンプルでいいんだよ。大体、想いを伝える手段は言葉だけじゃないだろ?」


 シンプルに言葉以外でも。うん、だったらあれで行こう。


「決まったみたいだな。よし、歌うか!」

「そうですね」


 心節くんは最初に男性アイドルグループの歌を入れ、盛り上げながら歌いきった。結構歌が上手かったのでちょっと意外だった。


「慣れてるからな。次はお前だな」

「ちょっと待ってください。えっと、これでいいか」


 僕は歌いたい歌を思い付かず、童謡を入れたのだけど、大変不評だった。


「お前の歌い方滅茶苦茶怖えんだよ! 上手い下手以前の問題だ!」

「ちょっともの悲しい童謡を歌っただけじゃないですか! なんでそんなに言われないといけないんですか!」

「見ろ、鳥肌立ったじゃねーか! とにかくお前童謡禁止な」

「それ駄目だと、歌えるもの少ないんですけど」


 結果、僕は練習すれば上達するタイプの下手さという評価に落ち着いた。


 余談だけど、かえちゃんに童謡を聴かせたところマジ泣きされた。なんでだろう?

お読みいただきありがとうございます。

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