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第五十三話 彩芽くん、罰ゲームを受ける

 かえちゃんとなずなちゃんが外出したときにした神経衰弱は、僕の圧勝で幕を閉じた。


「策士策におぼれるですね。罰ゲームは何にしましょう? やっぱりここは定番の恥ずかしい話ですね。リン、お願いします♪」

「君、見ない間に腹黒になったね。まあいいけど。恥ずかしい話か......最近だとなずなちゃんへの告白かな?」

「そういえば仲直りした日に告白したって言ってましたね。やっぱり恥ずかしいものなんですか?」


 近いうちにかえちゃんに何らかの告白を行うつもりなので、リンの経験談を参考にしようと思い詳しい話を聞いた。


「告白してるときに感じるのは緊張と不安なんだけど、あとになるとどうしてもね。なんであそこまで格好付けたのかとか、なんであそこまで恥ずかしいこと言ったのかとかね。でも実はなんだけど、俺ってなずなちゃんに告白するの二度目なんだよね」

「えっ、そうなんですか?」


 しかも同じ相手に二度ということは、まさかなずなちゃんがリンを一度フッたの!?


「うん。最初はなずなちゃんの心が癒えて日常の生活を送れるようになった、今年の誕生日に告白したんだ。その時の答えが『リンにいのことは好き。でも恋人にはなれない』って」

「どうして?」

「俺もそう思って聞いたよ。そうしたら『アヤにいと仲直りできてないのに、付き合うのはだめ』だってさ。確かにそうだと思って、その時は引き下がったんだ」

「別に気にしなくてもいいのに」


 その時にはもう僕とは疎遠になっていたのだから。僕との仲直りを理由にしたなずなちゃんも、それを受け入れたリンも、本当に何というか。


「それで、仲直りした日勢いで告白して、付き合うようになったわけだ」

「で、何が恥ずかしかったんですか?」

「一日デートして、夕暮れの公園で告白した時に、アヤのことを指摘されてフラれたことで、しかもそのエピソードを当の本人に伝えたことだよ!」


 投げやり気味に答えるリンを見て、僕は満足し次のゲームに移った。


「絶対に仕返しするからね」

「上等です。負けたリンが何するか決めていいですよ」

「言ったね? じゃあポーカーで勝負だよ」


 あっさり僕は負け、何度も再挑戦して五連敗という散々な結果に終わった。僕ってリンとの読み合いではどうしても負けるんだよね。


「さて、お返しに恥ずかしい話を、と言いたいところだけどさすがに可哀想だから、一問一答にしようか。ただし嘘は駄目だからね。早速だけど一問目、君の初恋はいつで誰と?」

「それ二問だと思いますけど......解答します。初恋はまだです」


 僕のこの言葉に、リンは僕のおでこに手を当て熱を計ってきた。いや、別に元気だけど?


「君が正気を疑う発言したからさ。いくらなんでも初恋くらいは終わって――いや、でもまさか、アヤならあり得るか?」

「ちょっとリン、何ブツブツ言ってるんですか?」

「ああ何でも無いよ。次の質問をどうするか考えてただけだから。そうだね、次は君の好きな人を答えて貰おうか。難しく考えずに、思いつく限り」


 この質問に僕は、かえちゃん、心節くん、芹さん、なずなちゃんの四人の名前を挙げた。


「俺の名前が入ってないのは別にいいけど、挙げた基準は何か答えられる? これが三問目」

「そうですね、今のあなたに対する好意を上回っているかどうかですね。リンへの感情は一応友達、ですから」

「思ったより高評価だね。じゃあ四問目、四人それぞれと二人でいる場面を思い浮かべてみて」


 リンに言われ、それぞれと二人きりになったところを想像してみる。まずは心節くん。勉強を教えたりバカなことをしてみたりなど、いかにも友達という場面が思い浮かぶ。芹さんも似たようなものだ。なずなちゃんは、僕が女装させられるところしか想像できない。


 最後にかえちゃんだけど、もう二人でいることそのものが僕の日常なので、浮かびすぎて逆に一人の日常が想像できないくらいだ。実際かえちゃんのことを避けていた日はすごく調子が狂ったのだ。


「どうだった? 特別だと思った相手はいたかな?」

「いました。かえちゃんでした」

「やっぱりね。じゃあ最後の問題、サクラちゃんが他の男、例えば俺と二人きりで仲良くしてくれたらどうする?」


 思い出すのは昨日のデートの、緊張で真っ赤になったり、楽しそうにしているかえちゃんだった。もしもそのデート相手がリンだったらと考え、置き換えてみたらなんか胸がチクチク痛くなってきた。


 さらに手を握ったり抱きしめたりするとか、考えただけで強い感情がこみ上げてくる。ああ、これは怒りだ。コノオトコガ、カエチャントナカヨク――。


「ちょっとアヤ、俺を瞳孔開ききった目で見ないでって! 君のそれ、なずなちゃんの数倍恐ろしいから! なんでたとえ話でここまでキレるんだよ君は!」

「あ痛ぁ!」


 リンに脳天をチョップされ僕は正気に戻った。


「君ってヤンデレの素質あるよね」

「ヤンデレってなんですか?」

「しらないならいいよ。それよりこの五問の結果なんだけど、君はサクラちゃんのこと――」

「ただいまアヤにい、木彫り見せて!」

「はぅぅ~、なずなちゃん速すぎます~」


 リンの言葉を遮るようなタイミングで、リビングに飛び込んできたかえちゃんとなずなちゃん。


「......これでよかったのかもね」

「ねえリン、何を言うつもりだったんです?」

「ヒントは出したからあとは自分で考えなよ。さてと、木彫りだけど僕にも見せてくれるよね?」


 ひとりごちるリンに訊ねたものの、はぐらかされてしまった。


 ちなみになずなちゃんに木彫りを見せたら欲しいとせがまれたので、本人の希望した犬と、せっかくだからカラスもあげた。


「なんでカラス?」

「なんとなくだよ。それにちょっとだけリンもモチーフになってるから、なずなちゃんにあげるにはうってつけだと思ってね」

「大事にする」


 はにかむなずなちゃんはとても可愛らしく、その破壊力でリンが崩れ落ちたのだった。


 そして蛇足だけど、なずなちゃんはかえちゃんの洗濯物を取り込む姿を、遊びに来た想い出としてバッチリ保存したらしく、満足げな表情を浮かべていた。

お読みいただきありがとうございます。

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