第五十二話 楓ちゃん、プレゼントを選ぶ
楓視点です。
撮影会は終わったのですが、わたしはそのままなずなちゃんに玄関の前まで引きずられました。
「カエデちゃんとお出かけ」
「はぅぅ、せめてお着替えさせてください~!」
「着替え、手伝う」
ようやく解放されたわたしは、なずなちゃんと一緒にお部屋まで行きました。着替えは、その、手伝ってくださったといいますか着せ替えられたといいますか......はぅぅ。
「こっちの、白ニーソ履いたカエデちゃんも可愛い」
「わたし、くすん......年上なのに、ひぐっ、子供みたいに......」
「泣かないの」
「はぅぅ~」
なずなちゃんになでなでされて、段々落ち着いてきました。そんなわたしの様子に安心したなずなちゃんは、木彫りのうさぎのアヤメくんや、ぬいぐるみの彩を見て一言。
「カエデちゃん、うさぎ好き?」
「はい。そっちの木彫りがアヤメくんで、ぬいぐるみが彩です」
ぬいぐるみの方が呼び捨てなのは、昔一度彩くんと呼んでしまい、寂しさの方が強くなったからです。
「本当にカエデちゃんは、アヤにいのこと好き。離れてても想いつづけてたの、誰が見てもわかる」
「そんなにわかりやすいですか?」
「アヤにいがにぶちんじゃなかったら気付かれてるレベル」
あの、それは喜んでいいのか反応に困るのですけど。
「カエデちゃんもにぶちん」
「はぅぅ!」
「同じにぶちんで、似た者同士だからきっと上手く行く。幼馴染のワタシが保証する」
「あ、ありがとうございます」
「でも焦りは禁物。アヤにいは自分の気持ちに答えを出さない限り、付き合うとか考えられない人だから」
なずなちゃんの出した結論は、まるであやくんが言っていたかのように説得力がありました。ですので、わたしは目の前にあやくんにいると思いながら答えました。
「でしたら、わたしは待っています。これまで再会を待ち続けましたから、少しくらい待つのは変わらないですから」
「アヤにいを迷わず信じられるカエデちゃんは強い」
「我慢強いのが取り柄ですから」
あやくんがお側にいて、離れないという前提が付きますけど。
「それだけ信じてるなら、ワタシが言うことはない」
なずなちゃんは彩を置いて立ち上がり、またわたしの手を取りました。
「今からプレゼント買いに行く。大丈夫、アヤにいはリンにいが足止めしてくれるから」
「あっ、ありがとうございます」
階段を降り、リビングでくつろいでいるお二人に声をかけます。トランプが並んでいたので、多分スピードをしていたのでしょう。あやくんがちょっと悔しそうなお顔だったのが印象的でした。
「あの、なずなちゃんとお出かけしてきます」
「お昼までには戻るから」
「うん。楽しんできてね」
「その間俺はアヤと罰ゲーム付きの神経衰弱でもしながら遊んでるよ」
「リン、聞いてないですよそんなこと」
「今言ったからね。そういうわけだから行ってきていいよ」
カラスさんに促され、わたしとなずなちゃんはお外に出ました。あやくんとカラスさん、ちゃんと仲良く出来てるみたいです。なずなちゃんも同意見のようで、口角が少し上がっていました。
「リンにいとアヤにいがああして遊ぶのは、一昨年の四月以来。ワタシもアヤにいも色々あったから」
いじめのことはわたしも聞いていたので、なんと返していいのかわかりませんでした。
「そう......ですか。すみません、わたし」
「居なかったカエデちゃんは何も悪くない。むしろいじめに巻き込まれたと思うから、離れてて正解」
そう言われましても......何も出来なかったのが申し訳なくて、気付けば一筋の涙が頬を伝っていました。
「ワタシ達のために泣いてくれる、それだけで充分」
「ですけど、わたし」
「それにあの経験で、みんな強くなったから悪いことだけじゃない。何よりカエデちゃんと再会できた。帳消しどころかお釣りが来る」
「わたしなんかとの再会が、ですか?」
「なんかとか言わない。お仕置きのなでなで」
「は、はぅぅぅ!」
往来でわたしはなずなちゃんに頭を撫で続けられました。はぅぅ、あやくんもそうですけど、なでなではお仕置きじゃなくてただのご褒美ですから!
ひとしきり撫でられたあと、髪を整えてくださったなずなちゃんが目的のお店について聞いてきました。
「どこに買いに行くの?」
「えっと、このままついてくればわかります」
なずなちゃんを連れてあるお店へと入り、あやくんへのプレゼントを購入しました。
わたしがそれをプレゼントに選んだことが、なずなちゃんには意外に映ったようで、お店を出てから質問してきました。
「なんでそれを買ったの?」
「あやくん、実はその趣味って木彫りなんです」
「そう。ところでカエデちゃん、アヤにいの作品持ってる?」
「はい。一番最初に作り上げたのをいただきました。お部屋にあったアヤメくんがそうです」
アヤメくんがあやくんの手作りと知り、なずなちゃんはびっくりしていました。
「あれ、アヤにいが作ったんだ。あとでじっくり見てもいい?」
「もちろんです。他のものはあやくんのお部屋にありますから、頼めば見せていただけますよ?」
この言葉で、なずなちゃんの歩く速さが一気に早くなり、わたしはまたしても引きずられるようにして、家まで帰ることになったのでした。
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