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第五十一話 彩芽くん、幼馴染を歓迎する

 二人を連れ、今僕は玄関の扉の前に立っていた。呼び鈴を鳴らそうかどうか考え、結局そのまま普通に入った。


「サクラちゃんを呼んであげないのかい?」

「ここで呼んだらなずなちゃんがかえちゃんに飛びかかって怪我するからです」

「なるほど」

「リンにいもアヤにいも酷い」


 僕とわかった瞬間、外であるにも関わらず抱き付いてきたなずなちゃんに酷いと言われても、説得力はないと思う。リンも同意見だったようで苦笑いしていた。


「まあまあなずなちゃん、アヤがそれだけ警戒するってことは、サクラちゃんがそれだけ可愛いってことだから期待しようよ」

「それなら納得」

「まあ、かえちゃんが可愛いのは事実ですが」


 靴を脱いだ二人を案内すると、リビングからかえちゃんが出て来た。


「あっ、あやくんおかえ――きゃぁぁぁっ!」


 挨拶途中でなずなちゃんがかえちゃんを抱きしめ押し倒した。ああ、やっぱりね。


「カエデちゃん可愛いなんでこんなに小さいのお肌はすべすべほっぺもぷにぷにでやっぱり昔と変わってないとにかく可愛いからもっと強く抱きしめていい?」

「は、はぅぅぅぅ!?」


 その様は大型犬がご主人様にじゃれついているようにも見えて、止めるべきか否か僕は判断できなかった。


「ちょっとなずなちゃん、サクラちゃんが困って......」

「なに、リンにい邪魔しないで」

「ごめん、邪魔しないからその目やめて」


 なずなちゃんに感情のこもっていない瞳で見られ、すごすごと退散したリン。


「リンってもしかしてなずなちゃんの尻に敷かれてる?」

「ぐっ......アヤってば痛いところを突くね。自業自得だけどそうなっちゃったんだよ」

「どうしてですか?」

「なずなちゃんがいじめられてその傷が癒えてきた頃、君がいないことに気付いたなずなちゃんから詰問されてね。俺がトドメを刺したと伝えてからこうなった。実は二人で出掛けたりするのも最近になってからなんだよ?」


 どうやらなずなちゃん、僕と仲直りするまでリンと距離を取っていたらしい。それで、仲直りしたその日から付き合いだしたとのこと。


「えっ、二人とも付き合ってるって、恋人になったの!?」

「そうなんだよ。それにしても君の驚く顔って一々可愛いよね。実はアヤやなずなちゃんほどじゃないけど、俺もハーレム野郎とか二股男とか陰で言われてたんだよ?」

「それ、僕女の子扱いされてるよね? まあいいけど。それにしてもハーレム野郎ですか。こっちで出来た僕の親友もそう言われてましたね」

「そうなんだ。その彼とはいずれ会ってみたいね」


 心節くんにリンが興味を持ったようなので、心節くんにも伝えてみようと思う。個人的には二人とも仲良くなりそうな気がする。


「カエデちゃん。可愛い♪」

「はぅぅ」


 二人で話している間、なずなちゃんはずっとかえちゃんを抱きしめ続けていた。


 なずなちゃんから解放されたかえちゃんがお茶を用意している間、僕はこたつに二人を座らせてもてなした。


「アヤ、質問いいかい?」

「ワタシも」

「二人とも何かな?」

「「サクラちゃん(カエデちゃん)の前髪、なんであんなに伸ばしてるんだい(伸ばしてるの)」」


 二人から同じ質問が飛んできたので、ちょっと悩み小声で説明した。


「これから話すことはかえちゃんには内緒で頼めるかな?」

「いいよ」

「構わない。アヤにい続けて」

「僕との別れの時に再会したら結婚しようって約束したんだ。僕が思い出したら前髪を上げておでこにキスするって誓いも立てた」

「思い出してるよね、アヤ。それなら早くやりなよ」

「アヤにい、約束守ってあげないの?」


 約束の詳細を語ると、二人から約束の履行を指摘された。当然だ、今も待ち続けているかえちゃんに対する裏切り行為以外の何物でもないのだから。だけど僕にも言い分はある。


「思い出したのが最近だから。それに僕の気持ちが定まってないにも関わらず、思い出したからはいわかりましたっていうのは違うと思うんだ」

「確かに一理ある。義務感で付き合うなんて、カエデちゃんに失礼」

「君って本当に真面目だよね。まあ理由はわからないではないけどね。なずなちゃん、後でアヤと二人で話したいから、その時は席を外して欲しい」

「ちょうどよかった。ワタシもカエデちゃんとお出かけするから」


 あれっ、そうなんだ。女の子同士積もる話もあるだろうから構わないけど。


「あの、お茶を入れました」

「ありがとうサクラちゃん」


 かえちゃんも正座して四人での話に移ったのだけど、いつの間にやらかえちゃんのルーズソックスに話題が変わった。まあ知ってたらミスマッチって思うよね。


「ところで、今どきルーズソックスなのはどうして?」

「俺も気になってた。紅葉さんが履いてたのかな?」


 一瞬、うちの制服とルーズソックス姿の紅葉さんを想像して可愛いと思ったけど、一咲さんに恨まれたくないので急いで打ち消した。


「いえ、その......このくらい背が伸びたらいいなと思って、願掛けも兼ねて家の中で履いています」

「そうかい。でも願掛けならずっと家の外でも履いたら?」

「はぅぅ!」


 リンの指摘にショックを受けるかえちゃんだけど、ちょっと涙目になりながら答えていた。


「その、汚したくないですし、一足が結構お値段が」

「確かにルーズソックスは基本的に高い。コスプレ用で買ったからわかる」

「お金の話が絡むならしょうがないね。でもサクラちゃん、ご両親に知られたときどう説明したのかな?」

「それは先程と同じ説明です。頑張ってねと励まされました」


 その光景を思い浮かべた僕達。あまりの微笑ましさに揃って吹き出してしまう。


「皆さんひどいです」

「ごめんねかえちゃん。あまりにも可愛い話だったからさ。そうそう、かえちゃんとルーズソックスといえば、洗濯物を干すときなんかも背伸びして干すから可愛いんだよ?」


 踏み台を使ってもそうなるので、ちょっとハラハラしながら見ているけど。


「アヤにい、今度それ動画送って」

「干すときは無理だけど、取り込むのはお昼から見られると思うよ?」

「はぅぅ」

「君達、サクラちゃんが真っ赤になって困ってるよ? それとアヤ、君はいつまで女装してるんだい?」

「あっ!」


 今の自身の姿を思い出し、ごくごく自然に振る舞っていたことに気付きがっくりと肩を落とした。その僕の肩に手を置いたのはなずなちゃんだった。


「着替える前に、カエデちゃんとの写真」

「......逃げたらだめ?」

「その場合お仕置き」


 なずなちゃんから発せられる圧力に逆らうことが出来ず、僕はかえちゃんと一緒に撮影会に臨むのだった。


 言いたいこともあったけど、撮れた写真を見ながら満足そうに頷くなずなちゃんを見ると、僕は何も言えなかった。

お読みいただきありがとうございます。

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