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第五十話 彩芽くん、幼馴染と再会する

ようやく幼馴染との再会です。

 五月三日、今日はリンとなずなちゃんが遊びに来る日だ。すでに僕は出掛ける準備も終わっていて、今は連絡待ちの状態だ。


「ずっと昔に会って以来ですから、どんな風になっているか楽しみです」

「それなんだけど、かえちゃんはショック受けると思うよ」

「どうしてですか?」

「あの頃以上に、なずなちゃん大人っぽくなってるから」


 いじめのことで疎遠になっていたこともあり、僕が覚えているのは約二年前のなずなちゃんだけど、それでも僕と同じくらいの身長はあったと思う。


 四人で遊んでいた頃でさえかえちゃんは一番年下に見られていたのだ、今どうなっているかは想像に難くない。


「はぅぅ、覚悟してましたけどやっぱりそうですか?」

「うん。あっ、ごめん電話鳴ってる。相手はリンみたい」


 一応かえちゃんにも聞こえるようにした上で通話を始める。


「もしもし」

『アヤ、もう十分くらいで着くみたいだから迎えに来てくれないか?』

「もちろんです。ちょっと時間がかかりますので、その間にお買い物をしていてください」

『じゃあ駅に着いたら電話してよ。それまで買い物しておくからさ』

「了解です」


 通話を終え、かえちゃんに準備を任せて駅へ向かった。その間数回ナンパされたが全てあしらい、今度は僕から電話をかける。


「リン、今どこにいますか?」

『駅前の噴水にいるよ。このまま待ってたらいいかな?』

「はい。すぐ行きますから」


 宣言通りに噴水前で待っていたリン。優しげで整った顔立ちは、記憶より少しだけ男らしくなり、身長も伸びて見上げないと目線が合わなくなった。


 僕は女の子っぽいままで背も伸びてないのに、なんだかズルい。


 モヤモヤした感情を抱えたまま、リンに近付き再会の挨拶を交わす。


「リン、久しぶりですね」

「もしかしてアヤ......なのかい?」

「そうですよ。ふふっ、リンのそんな顔初めて見ましたけど、なんだかいい気分です」


 声をかけられたリンは僕に見とれているようで、優しげで整った顔を赤くしていた。わざわざ女装してきたかいがあった。


「君が女子じゃなくて本当によかったよ。ところで女装は趣味なのかい?」

「違います。ご近所さんへの偽装工作です。どうも女の子と思われてるらしいので」

「それで女装したら本末転倒だと思うけど。まあ、若い男女が二人で暮らしてるなんて知られるよりはいいのかな? よかったね。君が女の子にしか見えなくて。可愛いよアヤちゃん」


 僕が女装している本当の理由に行き当たったリン。ただ、いきなり頭撫でてくるのはウィッグがずれるからやめて欲しい。


「そういうことです。ところでビンタしていいですか?」

「まあ君にはする権利あるから、してくれて構わなぶべっ!」


 全力で振りかぶった右手でリンの左頬をぶつと、とても景気のいい音がした。


「これで気が済みました。改めてリン、久しぶりですね」

「ああ、久しぶりだね。早速だけど場所を変えないか? ビンタの音で人が集まってきたからさ」

「それもそうですね」


 噴水から駅内部の土産物屋の前に場所を移し、リンとの会話を続ける。


「そちらは背も伸びて格好良くなりましたね」

「君も前に比べたらいい顔してると思うよ。女装抜きでもナンパの回数増えたでしょ?」

「嫌なこと思い出させないでください。こないだなんか仏像シャツ着てても普通にされたんですよ? 挙げ句怪しいスカウトまで声かけてきましたし」

「うわ、それは災難だったね。それで、断ったんだよね?」

「当たり前です」


 女の子向けファッション雑誌のモデルなんか引き受けるわけないし、仮に引き受けたとしてもかえちゃんやリン達に知られたら恥ずかしすぎるので絶対に教えない。


(まあ、そうなったらバレそうだけど。特にかえちゃんには間違いなく)


 初見で成長した僕をあやくんと結びつけたのだ。女装程度でわからなくなるとも思えない。


「ところでなずなちゃんはどこにいるんです?」

「手土産忘れたからって、この店で物色中だよ。そろそろ出て来ると思うけど――」

「リンにい、その女誰?」


 背筋が凍るような冷たい声で、僕とリンは固まって動けなくなった。しまった。僕は入り口に背を向けてるから、なずなちゃんから見たら知らない女がリンに近付いてる風にしか見えないか。


 ぎこちなく振り返ると、先程までの冷たい空気は霧散し、なずなちゃんが背後から僕に抱き付いてきた。


「な、なずなちゃん!?」

「アヤにい可愛い。女装に目覚めた?」

「違うからね。二人を驚かせたかっただけだから。というかウィッグが落ちちゃうから!」


 後ろから僕に抱き付いてきたなずなちゃんはやっぱり背が伸びていて、美人になっていた。感情の起伏が少なそうな表情だけど、幼馴染である僕から見ると、最上級に喜んでいることがわかった。


 五分ほど撫で回され、ようやく満足したのかなずなちゃんが僕を離した。


「全く、この服明後日も着るんだからね?」

「なら、着替える前に後で写真撮らせて。出来ればカエデちゃんとのツーショットで。だめ?」

「わかったから、そんな顔しないでよ」

「はは、三人揃ったしそろそろサクラちゃんの家に行こうか」


 リンの先導でこの場を離れるも、どっちに行けばいいかわからず立ち止まった。


「リンってば、わからないから僕に案内を頼んだのではないですか? もう、こっちですからついてきてください」

「いつも悪いねアヤ。なずなちゃんもほら、おいで」

「ん、わかった」


 なずなちゃんの手を引くリンを見て、僕は懐かしんだ。


(そういえば前はこんな感じで遊んでたね)


 ひさしぶりに幼馴染三人での雑談を楽しみながら、かえちゃんの待つ桜井家へと帰るのだった。

お読みいただきありがとうございます。


デニムパンツとはいえ、女装姿で堂々と外出してもなんとも思わないのが彩芽の彩芽たる所以です。

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