第四十九話 楓ちゃん、内緒にする
楓視点です。
あやくんと別行動をとったわたしは、スーパーの二階にある100円ショップを訪れました。
(あやくんにはバレてないですよね?)
今日の行動が知られたとしても問題はありませんが、念には念を入れます。
たまに後ろを振り返りながら、飾り付け用の小物やパーティーグッズをいくつか選びます。そう、すべては五月五日、あやくんのお誕生日を祝うためです。
きっかけは四人で遊ぶと決めた日、ゴールデンウィーク中の予定を聞いたことでした。偶然お二人の予定がその日だけ空いているとわかったわたしは、あやくんのお誕生日だということを伝え、せめてお祝いメッセージだけでもお願いしますとお伝えしました。
そうすると、せっかくだからちゃんと祝おうという話しになり、本人も全く気にする素振りを見せないので、自然とサプライズパーティーを行うという流れになりました。
(あやくんに知られないように準備するのが大変でした)
家でも一緒なのも、こういうときは考えものですね。その後百合さんと牡丹さんにもご協力いただき、五日はあやくんを外に連れ出し、その間に準備をすることになりました。
(まさかあやくんを連れ出す手段が、心節さんとのお出かけになるとは思いませんでしたけど)
そのおかげで、今日デートにこぎ着けたので結果的には助かりましたけども。下手するとあやくんの初めてのデートが同性の方になっていたということに、若干の寒気を覚えました。
(いえいえ、お家やお買い物、登下校デートはわたしが先ですから。それに昔デートしましたし!)
あやくんとの初デートは、いくらお友達でも譲れませんから。
ともかく、これでパーティーの準備が一つ終わります。お料理やケーキについては問題ありません。お料理はわたしと芹さんが、ケーキはお菓子作りが得意な百合さんと牡丹さんが担当しますので。材料費はもちろんわたし持ちです。
(そうです、菖蒲も買いましょう)
あやくんのお誕生日は五月五日、その日の誕生花は資料によって異なりますが、基本的には菖蒲です。そして菖蒲の花言葉は良い便りやメッセージなどです。
(あやくんと再会できたこと自体がわたしにとっていい便りです)
個人的にも好きなお花の一つです。花瓶に挿してあやくんのお誕生日を彩るつもりです。もちろん花菖蒲の方ですけど。
あやくんと恋人繋ぎで自宅に帰ったわたしは、改めて感謝のメッセージを皆さんに送りました。
『気にすんな。あいつの驚いた顔を撮ると思えば、このくらい大したことじゃねーよ』
最初に返信してきたのは心節さんでした。実はわたしもちょっと楽しみにしてますから、お写真くださいね?
『手伝えなくて悪いわね。当日はその分協力するからね』
芹さん、予定があるのですからお気になさらず。それに、細かい内容を決めたのは芹さんですので、とても助かりました。
『楓たん、当日は期待しててね』
『彩姫の誕生日、一緒に祝えて嬉しいわ』
お二人が加わらなければ、あやくんにバレていたかもしれませんし、実現できなかったと思いますから、すごく感謝しています。
(後は当日を迎えるだけ......と言いたいですけど、わたしはまだ重要なものを買っていません)
それはあやくんへのプレゼントです。何を買うかは決めていますしお店も見つけています。ただ、今の時期に一人で出掛けると何かありますと言うようなものです。
(はぅぅ、わたしとろいです)
四月のうちに買っておけばと後悔していると、携帯電話が鳴りました。かけてきた相手はなずなちゃんのようなのです。
「もしもし、楓です」
『カエデちゃん。明日リンにいとそっち行くから』
なずなちゃんに唐突に告げられ、わたしはとても驚きました。
「えっ、えっ、あの、明日って? それにカラスさんも!?」
『そう。出来れば泊まりたいけど、それは親が許してくれなかったから日帰り』
「そうじゃなくてですね、突然どうしてですか?」
『会いたいと思ったから。それにアヤにいの誕生日もすぐ。カエデちゃんは覚えてる?』
「はい。五月五日ですよね」
『正解。それでプレゼントを渡したいけど、直接手渡しはしないからカエデちゃん預かってて。きっとアヤにいのことだから、誕生日のこと忘れてる』
なずなちゃんの一言で、あやくんが気にしていない理由がわかりました。忘れているなら、気にしませんよね。
『カエデちゃんが祝うなら、アヤにいはすごく喜ぶ。カエデちゃんが離れてからの誕生日、アヤにいはちょっと寂しそうだったから』
「そうだったんですか......」
『だから、よかったら祝って欲しい』
もちろんそのつもりといいますか、サプライズパーティーを企画していて、あやくんが気付いていないこともなずなちゃんに話しました。
『わかった。リンにいにも言わないように強く言っておく』
「お願いします。あっ、一つお願いがあるのですが」
『カエデちゃんのお願いなら聞く』
「あやくんへのプレゼントをまだ買えていないので、一緒にお出かけしていただけますか?」
『わかった。それじゃあ明日。それと駅の迎えには話したいこともあるからアヤにいをよこして欲しい』
そう言って、なずなちゃんは電話を切りました。あやくんにお二人が遊びに来ることを伝えると楽しそうに笑みを浮かべ、迎えに来て欲しいと付け加えると笑みの種類が変わりました。
あのお顔は何か企んでいるお顔です。あやくん、一体何をするおつもりでしょうか?
お読みいただきありがとうございます。




