第四十八話 彩芽くん、楓ちゃんとデートする
映画が終わり、エンドロールが流れる。僕はそれをぼんやりと眺めていた。
(なんか、女の子の方に共感できたな)
男としてそれはどうかと思ったけれど仕方ない。内容を見れば見るほど、僕とかえちゃんの関係と類似点が多かったのだから。違うのは離れてもなお想いつづけた幼馴染が男の子で、その幼馴染から向けられる好意に戸惑い、真剣に向き合おうとしたのが女の子という点だ。
(ちょっとは参考になったから、見てよかった)
自分とどこか重なる境遇のため、資料として見ていた僕。一方かえちゃんは隣で泣きじゃくっていた。
「ほら、いい加減泣き止んで」
「だって、幼馴染の方の想いが......」
「やっぱり感情移入したんだね」
終盤、自身の気持ちに気付いた女の子が、男の子が抱いていた強い想いに応えるように情熱的に告白した。男の子は女の子を抱いて、生涯共に歩いて行くと誓って終幕となった。
幼馴染とのハッピーエンドとなると、かえちゃんが大泣きするのも無理なかった。泣き止むまで撫でてあげると、周囲のカップルから生温かい視線を送られたので、いたたまれなくなりかえちゃんを連れて映画館を出た。
外ではところどころで鯉のぼりが揺れていた。そういえばそろそろこどもの日か。五月の爽やかな風を受けつつ隣に目を向けると、かえちゃんが申し訳なさそうに頭を下げてきた。
「はぅぅ、すみません」
「いいよ別に。たまには映画もいいものだね。あとこの作品って原作あるみたいだから、今度買って二人で読もうか」
「はい」
コミック版と書籍版があるらしいので、是非両方とも読んでおきたい。映画とは違う部分もあるだろうし、詳しい描写を読めば恋愛について少しは理解できるかもしれないから。
映画館の中では切っていた携帯の電源を入れると、表示された時刻は十二時を過ぎていた。
「さてと、いい時間だからご飯にしようか」
「そうですね。どこに行きましょうか?」
「気軽に入れる店にするよ。あそこなんかよさそうだね」
向かいの通りにある、巨大な鯛の看板が目印のレストランに入店し、僕は海鮮丼を、かえちゃんはボンゴレを注文した。
「あの、何故どんぶりを?」
「何となくだよ。それにこういう場所では普段作らないようなもの食べたいから。かえちゃんだってそうだよね?」
「そうですね」
ただ、少なくとも海鮮丼はデートで選ぶメニューじゃないと、注文してから気付いた。
(失敗した。どうせなら食べさせられるもの選ぶんだった)
先程の映画に、デート中お互いに食べさせ合うシーンがあり、あれをかえちゃんにしてあげたら可愛らしい反応が見られたかもしれないのにと、僕は後悔した。
(注文したものは仕方ない。それに、したくなったら家でしてもいいか)
考えてみればいつも一緒にいるので、焦ってする必要もなかった。運ばれてきた海鮮丼を食む。
新鮮な魚介と米の味が口全体に拡がり、刻み海苔や僅かに添えられたわさびの風味も加わって、想像よりも美味しかった。
(ちょっと量が多いけど、このくらいなら大丈夫)
中学時代に胃を痛めた影響で、あまり多くは食べられない。たださすがに男なので、どんぶり一杯も食べられないということもなく完食した。
僕以上に食が細いかえちゃんも、ボンゴレをどうにか食べきったようだった。ただ本当にギリギリだったらしく、ちょっと苦しそうだった。
「はぅぅ、お腹いっぱいです」
「動けないなら少し休む?」
「はい......」
少し食休みを挟んだがまだ辛そうだったので負ぶって歩くことにした。かえちゃんは申し訳なさそうだったのだが、ここは強引に背負って歩くことにした。
「はぅぅ、すみません」
「いいって。それよりも、本当に次の行き先はスーパーでいいの?」
「はい。行かないと今日のお夕飯が困りますし」
デートの行き先としては所帯じみていると思ったものの、同居している僕達らしいといえばらしいので、気にせず向かった。
おんぶしたままスーパーの入り口に到着すると、かえちゃんから別行動したいので下ろして欲しいと言われた。
「珍しいね。いつもは一緒に買い物して欲しいって言うのに」
「ちょっと用事がありますから。あの、これ必要なものを書いたメモです」
「ありがとう。かえちゃん、用事終わったら連絡してね。迎えに行くから」
「わかりました。それでは、また後でです」
そう言い残し、かえちゃんは二階へ上がるエスカレーターのある方へ向かっていった。たしか上には100円ショップがあったはずだけど、そこで買い物するならわざわざ別行動する必要はないだろう。
(気になるけど、まあいいか。それよりせっかくの機会だから、食材の善し悪しを見分けられるようになろうか)
いつもはかえちゃんがしているので、たまには僕もしてみたかったのだ。もし見分けられたら、一人で買い物しないとならなくなったときに役立つだろう。
(えっと、野菜の見分け方はこんな感じかな?)
いくつか見てから比較し、一つ一つ吟味していく。もちろん値段や量も判断材料に加えている。
楽しんで選び抜き、リストに書いてあるもので残ったのはお菓子類だけになった。どれも大人数用と書いてあるので、心節くん達が来たときのためだろうと考えた。
(かえちゃん以外の好みがわからないから、いろいろなものが入っているやつにしよう。どれか一つくらいは食べるよね?)
僕の独断でいくつか見つくろい、清算する。当然バッグを持ってきていないのでレジ袋も頼んでおく。
(買い物に慣れてないと袋入れで失敗するらしいけど、僕は大丈夫)
完璧な配置に一人ドヤ顔するも、見せる相手がいないので虚しくなりそそくさと立ち去った。その五分後にかえちゃんから連絡があり、迎えに行って二人で手を繋いで帰宅しこの日のデートは終わったのだった。
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