第四十七話 彩芽くん、楓ちゃんと待ち合わせする
忘れてしまい遅れました。
かえちゃん達に迷惑をかけた挙げ句、とても恥ずかしい本心を暴露せざるを得なくなった日の翌日、僕は駅前までの道を急いでいた。
(待ち合わせまで時間あるけど、かえちゃんを一人で待たせたくない!)
傷つけてしまったことのお詫びが、心節くんとのデート(笑)を楽しむではかえちゃんに得がなさ過ぎるので、僕からデートに誘った次第だ。
ああいうことがあった手前、デートに誘っても断るだろうと思ってたけどまさかの快諾。
内容は相談の結果映画館で映画を見たあと、ご飯を食べてからいつもの買い物に移るという、微妙なものとなった。
「お買い物に出掛ける機会は活かしませんと。せっかく一緒に暮らしているわけですし」
「まあ僕達揃ってインドア派だから、下手すればゴールデンウィーク中一切外に出ないで、食材が尽きそうになるだろうからね」
僕とかえちゃんの休日の過ごし方が、買い物に家事、あとは木彫りと家でのんびりするの四つだけだったから。
それに今回初めてデートが加わった。今回はちょっとでもそれっぽくするため外で待ち合わせすることになったため、待ち合わせ場所は噴水のある駅前広場になった。
個人的にはナンパスポットなので近寄りたくないけど、かえちゃんとのデートならどういうわけか気にならない。
広場の噴水が見えるところまで来ると、待ち合わせしている男女の姿がチラホラ確認できる。
その中で、目的の人物を見つけた。シスターに似た服を纏った彼女は、行儀よく静かに佇んでいた。目元さえ隠れていなければ絵になるのだけど、今の僕は彼女が何故前髪を伸ばしているかを知っている。
(でも、それを告げるのは僕の気持ちが定まってからだ)
恋を知らない僕が、恋してるってわからないで約束に触れるのは、かえちゃんに失礼だから。とはいえ、デートすればわかるだろうという安易な考えで誘うのもいかがなものかと思うけど。
(いい加減、声をかけてあげようか)
時計を確認しながら不安そうにしているかえちゃんに近付いて、定番らしい台詞を言う。
「ごめんね、待ったかな?」
「いえその、いま来たところです」
「ぷっ、あははっ! かえちゃんも定番の台詞で返さなくってもいいんだよ。それに、待ちぼうけなんてさせないから不安そうにしなくても」
「その、やっぱり無しとか言われたらショックですし」
「いやいや、そんなこと言ったら今後の生活が破綻するから! かえちゃんがいない生活なんて想像できないし、一日持たずギブアップするからね!」
本音である。胃袋は掴まれているし、昨日かえちゃんを避けて一人で家事をしていたときでさえ、何度呼びかけてしまったことか。
それを伝えるとかえちゃんがクスリと笑った。
「そんなことがあったんですね。あやくんもわたしがいないと駄目になっちゃったんですね」
「そうだけど、あやくん『も』?」
「昨日のことでわかっていただけたと思いますけど、わたしは嫌われてもいいので、あやくんのおそばにいたいんです」
「嫌わないよ。少なくとも同居人としても、友達としても、幼馴染としてもかえちゃんのこと好きだから。女の子として好きかはまだわからないけど」
「はぅぅ///」
我ながら最低だと思う言い分であったが、かえちゃんは喜んでくれたようだった。かえちゃんがこういう子だからこそ、真剣に向き合わないと。
いつまでも話していても始まらないので、恋人繋ぎで手を繋いで近くの映画館へと向かうことにした。
いつも以上に手のひらから緊張が伝わってきたので、少し強く握ることで安心させる。
「ところで、どうして買い物を最後にするの?」
「何となくです。それに荷物持ってデートするのも、一度家に帰るのもどうかと思いますし」
「それもそうか。突貫で考えたデートプランだから、相談してよかったよ」
「正直に言いますと、スポーツ施設でのデートじゃなくて安心しました」
かえちゃんは運動が苦手なので、そこは初めから除外していたのだ。
「あまり歩き回らないようにはしたいし、疲れたらおんぶでもお姫様抱っこでもしてあげるからね」
「嬉しいですけど、あまり気を遣われすぎるのもちょっと」
「僕が触れたいっていうのもあるよ。かえちゃんに触れると、ドキドキするけど安心もするから」
「はぅぅ///」
昨日の反省から、なるべく思ったことは素直に伝えるようにしたのだけど、どうもかえちゃんを赤面させる回数だけが増えているようだ。何とか気絶していないのは、かえちゃんも頑張っているからだろう。
そんな会話を繰り広げながら辿り着いた映画館だけど、さすが連休初日だけあって大分混雑していた。
「そろそろ上映時間の映画で、満席になってないのはどれかな?」
いくつかピックアップしてみた。子供向けのアニメ、恋愛映画、スプラッタホラーの三つだ。選択肢が無いように思うけど一応かえちゃんにも聞いてみる。
「その、子供向けのはわたしやあやくんがいたら子供が見づらいと思いますし、怖いのは苦手ですので恋愛映画をお願いします」
「まあそうなるよね。よし、大人二枚お願いします」
特に年齢制限のある映画じゃ無かったのだけど、かえちゃんの年齢について何度か確認された。
僕の分と合わせて学生証を見せて、やっと納得してくれた。
「はぅぅ、ご迷惑かけてすみません」
「別にいいよ。それより、何か食べたり飲んだりする?」
「わたしはいいです」
「僕もいらないからいいか。うわ、カップルだらけだよ」
「恋愛映画ですからね」
席に座り、隣のかえちゃんの手を自然に握りながら、僕は上映を待ったのだった。
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