表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/156

第四十六話 楓ちゃん、避けられる

楓視点です。

 五月が始まり、明日からの連休をどう過ごそうか考えながら、わたしは目が覚めました。


 いつも通りにあやくんのお部屋のドアをノックしましたが反応がありません。心配になりお部屋に入りましたが、あやくんの姿はありませんでした。


(あれっ、あやくん?)


 それなら起きているはずと思い家中を探すと、お父さんのお部屋を黙々とお掃除をしているあやくんがいました。


「あやくん、おはようございます。ごはんできてますよ?」

「おはよう。もうちょっとで終わるから先に食べてて。洗濯は終わらせてるから今日はのんびりしてていいよ」


 あやくんは一切わたしを見ずに答えました。お掃除に集中しているのだと思って、この時は特に気にしませんでした。


 異変に気付いたのは登校時でした。いつもなら楽しく会話しながら行くのですが今日は無言で、わたしが話しかけても気のないお返事しか返ってきませんでした。


(あやくん、どうされたのでしょうか?)


 そして、決定的だったのが芹さんが合流したときでした。


「二人ともおはよう。今日はなんか静か」

「芹さんおはようごめん先行くからかえちゃんのことよろしくね!」

「あっ、ちょっと!? もう、何なのよ一体?」


 慌てて走り去っていたあやくん。朝からの様子と併せて考え答えが出ました。


(はぅぅ、わたし避けられてます......)


 多分ですが間違いありません。ですが、理由は全くわかりません。昨日おやすみなさいを言ったときはいつもと同じでしたし、一体なにが――。


「楓、しっかりしなさい!」

「えっ!?」

「よかった。呼んでも返事無いから、何かあったって思ったわよ。それで、彩芽君もどうしちゃったのよ?」

「それが、全然わからなくて」


 歩きながら昨日の夜から今朝のことまでをお話ししましたが、答えがわからず二人で首を傾げていました。


 教室に着いても、あやくんはいませんでした。鞄は置いてあるので来てるのでしょうけど、だからこそわたしが避けられていることが強く確信出来ました。


「楓たんに芹ちゃんおはよう。彩姫だけどどうしたの?」

「赤い顔しながら鞄だけ置いてどっか行ったのよ。出来たら聞かせて?」

「はい......実は」


 お二人にも経緯を伝えます。するとお二人ともなんだか呆れたようなお顔になったのですが、目と目を合わせ頷いてこう答えました。


「ごめん、ぜんぜんわからないよ」

「こういうのは自分で答えを出して、本人に聞くのが一番よ」

「はぅぅ、わかりました」

「ねえ、アンタ達それって」


 渋々ではありますが納得したわたしに対し、何か言おうとした芹さんの両腕をお二人が掴みます。


「芹ちゃん、ちょっと黙ってようね」

「これは彩姫と楓たんのため」

「ちょっ、わかったから離しなさいよ!」


 そしてそのままどこかへ連れて行きましたが、遅刻せずに皆さん戻ってきました。


 休み時間もそんな感じで避けられたままお昼までの授業が終わり、あやくんは急いで教室を出て行かれました。


「やっぱおかしいなあいつ。どうしたんだろうな?」

「心節くん、ちょっと耳貸して」

「んっ? ああ、そういう......それは楓には言えねーよな。まあ、捕まえたら家に戻るように行っておくからな」


 芹さんに何か聞いた心節さんは、あやくん以上の速さで走っていきました。


「アタシ達も帰るわよ」

「はい。あの、芹さんも理由わかったのですか?」

「百合と牡丹に可能性があるのを二つ教えられたのよ。でも悪いけどアンタには言えない」

「そう、ですか......」


 落ち込むわたしの頭を、芹さんは、撫でてくださいました。


「でも、楓と彩芽君なら大丈夫よ」

「......はい」


 芹さんと二人きりという初めての帰り道、わたし達はあるイベントの打ち合わせをしました。あやくんがいると話せない企画だからこそ、今話が進むのは皮肉だと思いますけど。


「アタシがこっちに帰るまでにちゃんと仲直りしておきなさいよ。せっかくの企画が駄目になるんだからね」

「わかってます」


 芹さんに背中を押されたわたしは、そのまま家へと帰りました。鍵が開いていたので、あやくんは帰っているようです。


 深呼吸してドアを開けます。すると外に出ようと靴を履こうとするあやくんにバッタリ遭遇しました。


 あやくんが行ってしまう――そう考えたわたしは溢れ出す感情に身を任せました。


「ごめん、今から――」

「あやくん、お昼ごはん一緒に食べてください!」


 自分でもビックリするくらい大きな声が出ました。それに驚いたあやくんは観念したかのように両手を挙げました。


「わかったよ」


 その一言で、わたしの限界が訪れ、瞳から涙がこぼれ落ちました。


「まったく、かえちゃんに泣かれたら僕はどこにも行けないじゃないか」

「どこにも、行かないでください......たとえわたしのことを嫌いになっても、おそばにおいてください」

「ああ、心節くんが泣かすなよって言ってたのはこういう......誤解させちゃってごめんね! ただちょっと思うところがあって、顔を合わせるのが恥ずかしかっただけだから!」


 えっと、恥ずかしかったですか?


「ああもう! こんなこというのも恥ずかしいけどそれ以上に、そんな理由でかえちゃんを泣かせた自分に腹が立つ!」

「わたし、すごい勘違いしてました......はぅぅ!」


 二人して顔を真っ赤にして大騒ぎしたあと仲直りして、今は一緒にご飯を食べています。


「本当にごめんね。何でも言うこと聞くから」

「でしたらその、心節さんとお出かけする五日ですが、なるべく時間をかけて楽しんできてください」

「そんなことでいいの?」

「大切なことですから」


 当日に準備時間が足りなくなるのは避けたいです。だってその日はあやくんの――。

お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ