第四十四話 彩芽くん、からかう
祝日の朝、起きた僕達は掃除をしていた。
「やっぱり最低限しかしなかったのが響いてるね」
「そう、ですね......」
思っていた以上に汚れがたまっていたため、ちょっと時間がかかってしまった。
「そうだかえちゃん、食材も足りなかったよね?」
「はぅぅ、そうでした。お買い物、一緒に行ってくれますか?」
「もちろんだよ」
スーパーに向かう道中、心節くんと芹さんが一緒に歩いているのを見かけたので、声をかけようとしたら行ってしまった。
「どうされました?」
「心節くんと芹さんを見かけたから、話しかけようと思ってたんだけどいなくなってた。どうしたのかな?」
僕が呟くと、繋いだ手がビクンと震える。何があったのかと視線を隣に向けると、かえちゃんが明後日の方を向いていた。
「......きっとお二人にも予定があったんだと思います」
「ゴールデンウィーク前半は暇って言ってたと思うけど、まあいいか。二人で遊びたいときもあるだろうし」
疑問もあったけど、友達同士だからおかしくないと考え、気にせずその場を立ち去った。
それから、かえちゃんがちょこちょこ誰かとメッセージのやりとりをしていたけれど、これもよくあることなので別にいい。内容はプライバシーに関わるので干渉もしない。
(僕と心節くんのやりとりも見せろって言われたら恥ずかしさで僕が死ぬ)
いかにかえちゃんが可愛いかを心節くんを筆頭に男子連中に布教しているので、本人に見られて引かれたら立ち直れない。
あとは心節くんから、芹さんの無自覚な行いに悶々としているという悩み相談を受け、気持ちを素直に伝えてみてと返したこともあった。
(二人とも妙に意地っぱりだからね。世話が焼けるよね)
困ったものである。さて、それよりも買い物だ。スーパーに着き、いつも通り買い物カゴを持ちながらかえちゃんと買い物を楽しんだ。
荷物はそれなりに重かったが、どうにか持ち帰ることは出来た。
午後、芹さんが昨日のノートのコピーを持ってきたのだけど、何故か心節くんも一緒に連れて来たのだった。仲良くしているようで何よりと思い楽しく見ていると睨まれた。
「何だよ。なんか文句でもあるのかよ?」
「ううん別に。それよりさっき二人を見たけど、何してたの?」
「ちょっとな」
「なんだ。デートじゃなかったんだね」
「い、いきなり何言ってるのよ彩芽君!?」
「ち、違ーよバカ!」
僕のカマかけに、二人は面白い反応をしてくれた。これは案外脈ありじゃないかと考えていると、二人が何かに気付いたようで反撃してきた。
「一緒に出掛けるのがデートなら、お前と楓なんて家の中含め常にデートしてるじゃねーか!」
「しかも手を繋いだりおんぶしたりと、デートって言うならそっちの方よ!」
「はぅぅ///」
かえちゃんは恥じらっていたけども、僕は動じない。
「一緒に暮らしてる幼馴染なんだから普通だよ」
「「普通じゃねーよ!!(ないわよ!!)」」
全力で否定されてしまったので、今度リンに確認してみようと思う。義妹という条件を除けば大体僕達と同じだから。
後で確認したところリンからは「君ってやつは本当に、そういうところだよ」とよくわからないコメントをされ、なずなちゃんは一言「アヤにいのバカ」とばっさり切られた。解せぬ。
「はぁ、話戻すわね。とりあえず体調も心配なさそうだし、明日から出られるわね」
「そうですね。ご心配おかけしました。明日から頑張りますね」
「あと二日しか無いけどな」
「心節くん、それをいうならまだ二日もある、だよ。休み前に心節くんにはしっかり勉強教えないとね」
ニッコリ笑う僕と、渋面を作る心節くん。
「つーかオレと楓だけ辛いのが納得いかねー。お前らもキツい目に遭え」
「キツい目って?」
「そうだな、うちの学校は上位三十位まで名前と五教科の合計が貼り出される。それに載ってないならお前ら罰ゲームだ」
「いいけど、それじゃ甘すぎない? もっと厳しくしていいよ」
「いっそ十位以内とか言ってもいいのよ? そのくらいの方が努力しがいあるし」
僕も芹さんも自信があってこう答えているわけじゃない。二人にあれだけ勉強させたのだから、厳しい目標を掲げるのは当然だと考えたからだ。
「よし、言ったからには十位以内に入れよ。ああ、もう一つ条件足すぞ」
「「条件?」」
「ゴールデンウィーク中はしっかり遊べ。勉強だけして過ごしたら問答無用で罰ゲームだからな」
心節くんの発言で僕は固まった。芹さんの方はノーダメージみたいだけど。
「アタシは四日までは実家に戻って家族と過ごすから、元々そういうつもりなかったし。何なら証拠写真を心節くんに送ってもいいわ」
「そうして貰えると助かる。んで、彩芽は何で固まってるんだよ。まさかお前、勉強漬けで過ごすつもりだったのか?」
「失礼な! かえちゃんとのんびり過ごしたり、木彫りもして過ごすつもりだったよ!」
ジト目で見られたが仕方ない。そもそも僕もかえちゃんも外に出なくても平気なインドア派なのだから。
「ねえ楓、退屈しないの?」
「わたし、学校とお買い物以外でお外出るの苦手ですから」
「まあ楓は前髪のこともあるからわからんでもねーよ。だが彩芽のその引きこもり体質はどうにかしねーとな」
「いや僕も理由あるよ。下手に出るとナンパされるっていうのが」
理由を告げると微妙な空気になった。本当のことだからね!
「別に疑ってないわよ。彩芽君ますます可愛くなってるから無理もないし」
「仕方ねーな。五日の午前中オレに付き合え。ゴールデンウィークの過ごし方を聞きがてら色々教えてやる」
「いいよ。別に暇だし、いっそかえちゃんも一緒に一日中でも構わないよ」
あれっ、なんかさらに変な空気になった。みんななんでそんなに驚いてるの?
「楓、彩芽君ってまさか」
「あのお顔は本気でわかっていないお顔なので、多分そうです」
「気付いてないならいいか」
「みんな、何話してるの?」
「大したことじゃねーよ。お前と出かける場所、どこがいいか相談してたんだよ」
それは楽しみだ。心節くんは一体どこに連れて行ってくれるのかな?
期せずして決まった最終日の予定を、僕は心待ちにするのだった。
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