第四十三話 楓ちゃん、看病する
楓視点です。
わたしが風邪を引いた翌日、今度はあやくんが風邪を引きました。
(はぅぅ、どう考えてもわたしが原因ですよね。せめて責任持って看病しませんと)
わたしは風邪を引いたあとなので、多分移らないというのが不幸中の幸いでした。あやくんが風邪を引いたことを芹さん達へ連絡したのですが、何故か笑われました。それと本日の授業のノートは明日渡すとのことなので、今日は看病と治療に専念してとも言われました。
そういうわけですので、あやくんのお部屋に入ります。
「情けないね、ずびっ、風邪引くなんて」
「わたしの看病を一日中していましたから、仕方ないですよ。あやくんは鼻水が辛いのですね」
薬を用意しながらお粥を作ります。実はわたし、不謹慎ではあるのですがちょっと嬉しかったりするんです。
(あやくんのお世話、存分に出来ます!)
普段のあやくんは基本的にしっかりしているので、家事で世話を焼く機会が少ないので、もっとお世話したいです。
ティッシュペーパーの箱に冷感シート、さらに用事があるときに鳴らすベルと、準備も万端です。
「あやくん、何かして欲しいことはありますか?」
「ずびびっ、あー、とりあえず寝るから、かえちゃんは家事してくれるかな?」
「家事、ですね。わかりました。あやくんはゆっくり休んでいてください」
あやくんに頼まれる、ただそれだけでいつもより頑張れました。特にお洗濯は、いつもならあやくんの下着に触ることさえ出来ないのに、今日はドキドキしながらも干すことが出来たんです。
(いつも出来るようになれるまでふぁいとです、わたし!)
一つ屋根の下に暮らしている方、それも大好きな方の下着に触れないというのは印象よくありませんから。
家事を終わらせてあやくんのお部屋に戻ると、あやくんは子供みたいにあどけない顔で寝ていました。
(起きませんよね?)
ぐっすりと眠っているようなのでわたしは前髪を上げて、あやくんの寝顔をじっくりと観察することにしました。
お顔が熱くなり、胸のどきどきが強くなるのを感じます。
はぅぅ、いつもは見とれるくらい綺麗なあやくんの、無防備な顔がとっても可愛いです。
(あやくんの寝顔、ずっと見ていたいです)
一緒に暮らしていますが、お部屋は別々なので中々見る機会がないので貴重です。
お昼寝するとき、今度からはリビングでしましょうか。わたしが眠っていたら、つられてあやくんも寝てくださるかもしれませんし。
ちょっと発想が子供っぽいでしょうか?
そんなことを考えながら寝顔を見ていると、あやくんのまぶたが動きました。
(は、はぅぅぅぅ!)
お顔の熱と胸のどきどきがさらに高まってきます。急いで前髪を下ろし、あやくんを直視しないようにしました。
(はぅぅ、わたし悪化してます!)
少し前に前髪無しであやくんを見られるかを心配していましたけど、その通りになっちゃいました!!
前髪越しなら見られそうなのがまだ救いでした。このことは芹さんとなずなちゃんにあとで相談しましょう。
とりあえず今はあやくんです。考え事をしている間に目を覚ましたあやくんは、わたしに微笑みかけて挨拶をしました。辿々しい返事しか出来なかったわたし、やっぱりだめです。
「かえちゃん、どうしたの?」
「いえ......あの、はぅぅ......あの、あやくん体調大丈夫ですか?」
「ゆっくり寝たから大丈夫」
そう言って元気さをアピールするあやくん。確かに大丈夫そうですけど、まだ安静にしていてください。
「わかってるよ。でも起きてかえちゃんと話すくらいはいいよね?」
「それは、わたしもお話したいですけど」
「決まりだね。看病してくれてありがとう」
「いえ、わたしこそ昨日はありがとうございました」
わたしとあやくんは、お互いにお礼を言い合いました。はぅぅ、本当ならわたしから言うことなのに先に言われてしまいました。それならせめて、謝るのは先にしませんと。
「あの、移してしまい、すみま」
「謝らないでね。風邪を引くのも移るのも悪くないし、言いだしたらきりがないからね。迷惑なんてお互い様だし、もし悪いって思うなら夕飯、頑張って作ってね」
はぅぅ、確かにしばらくお粥系が続いてますから、あやくんが元気なら別のものを作ろうと思っていましたけど。
「あやくんがそう言うのなら、腕によりをかけて作りますから、召し上がってくださいね?」
「うん。楽しみにしてるよ」
あやくんの期待に、精一杯応えようと思います。
「何か食べたいものはありますか?」
「お粥以外なら何でも」
「あの、それちょっと困ります。冷蔵庫の中に残っている食材で何か作りますね」
確かめてみると豚肉さんにベーコンさんと卵さん、あとお野菜がたくさん。明日の朝ごはんとお弁当の分を差し引きして、作れそうなものは卵とベーコン入りの野菜スープですね。アスパラガスもあるので肉巻きも作りましょう。
どちらもあやくんから美味しいと言われたので、安心しました。食べていただく瞬間はいつも緊張しますが、その分喜んでいただけると嬉しいです。
夕ご飯が終わり、昨日のことが話題になりました。
「そういえば昨日かえちゃんが眠っている間に、心節くんと芹さんがお見舞いに来たよ。昨日のノート貸してくれたからあとでお勉強だよ」
「はぅぅ、頑張ります」
一緒なのはいいんですが、お勉強中のあやくんは間違えると問題を追加してきますので、ちょっと厳しいです。
代わりに正解したら撫でてくれるので、やる気が出ますけど。
「大丈夫、今回は前みたいに厳しくしないから」
「はい」
そう言っていたあやくんでしたが、やっぱりちょっと厳しかったです。
「はぅぅ......」
「頑張ったね、かえちゃん」
「はぅぅ///」
終わったあとのなでなでで、その不満もどこかへ行きましたけど。
「明日からまた学校頑張りましょう、あやくん」
「かえちゃん、明日は祝日だよ。だからゆっくり休もう」
「あっ、はぅぅ///」
今日が何日かすっかり忘れていたことに恥じ入りながら、数日後のある予定を思い出したので、あやくんには内緒で芹さんと心節さん、さらにはなずなちゃんにもメッセージを送るのでした。
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