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第四十一話 彩芽くん、楓ちゃんを心配する

 月曜日、先週行ったスポーツテストの結果が出たので四人で確認することになった。三代さんと南条さんは他の女子達と話しているみたいなのであとでいいだろう。


 まず僕の結果だけど、筋力系は低く柔軟系が高い。総合的には普通かそれ以下で、男子より女子の傾向に近かったので地味にショックを受けた。


「お前見た目以外も女子っぽいんだな」

「そういう心節くんはどうなの?」

「オレはこの通り男子でもトップランクだぞ。カメラが趣味だと撮影するのに動けて損はねーからな」


 心節くんの結果と僕の結果を比べると、筋力と持久力で大きく差が付いていた。フィジカル面では欠点無いんじゃないかな?


「もしかしたらアクション映画みたいな動きとか出来るんじゃない?」

「おう。パルクールも出来るぞ。カメラ持ってはやらねーけど。落としたらヤベーから」

「ねえ、それって危なくないの? ほらパルクールって飛び降りたりとかするし」

「受け身をしっかり取るところから始めれば大丈夫だ」

「なるほど。棒高跳びみたいなものね」


 説明にもなっていない説明だったけど、芹さんは理解したようだった。


 その芹さんのスポーツテストの結果は極めて優秀で、一応男子の僕より筋力以外は上だった。


「元とはいえ陸上部のアタシより低くても別に落ち込むことじゃないわよ、彩芽君」

「そう言われても男子としてのプライドが......かえちゃん、どうして落ち込んでるの?」

「わたし、お勉強もスポーツもだめだめです」


 かえちゃんについては全競技最下位、いっそサボった方がまだマシなのではないかと思う結果だった。そもそも、生きていけるかが本気で心配になってくる運動能力だった。


「ねえかえちゃん、僕と離れてからこれまで、どうやって生きてきたの?」

「どうやってと言われましても......体育の時間は倒れてよく保健室のお世話になっていました。元々体も強くありませんし」


 僕の疑問に、衝撃的な返答をするかえちゃん。それを聞いて心節くんと芹さんは絶句し、僕は少しだけ寂しかった。僕はそんなに頼りないかな?


「かえちゃんそれ先に言って。そうならそうで気を遣ったのに、何で言わなかったの?」

「最近はちょっと体力付きましたし、出来れば普通に扱って欲しかったですから......」


 かえちゃんの言葉に僕はハッとした。そうだよね、腫れ物に触るように扱われるのは嫌だよね。


「ごめんなさい。かえちゃんの気持ちを考えてなかったですね」

「いえ、わたしのほうこそちゃんと伝えなかったので......すみませんでした」


 お互いに謝って許し合う。ただ、かえちゃんの体が強くなく体力も低いのは事実。


 しかし、これまでを思い返すと日常生活に支障はなかった。体育の後は消耗しているものの授業に参加は出来ている。


 だったら、こういう結論になるかな?


「基本的には今まで通りだけど、調子が悪いときは遠慮なく僕に言うこと。倒れたら心配だから」

「はい、わかりました。あまり心配なさらなくても、しばらく風邪も引いていないので大丈夫ですよ」


 そういえば僕が来てからかえちゃん、気絶はよくしてるけど寝込んだことはなかったよね。なら安心かな?


「フラグにならねーといいけどな」

「今日の夜は少し寒いみたいだから、気を付けなさいよ?」

「わかってるって。ね、かえちゃん?」

「はい。大丈夫です」


 と、そう笑っていたもののフラグというのは立ってしまうと折れないわけで。その翌日、いつもより早い時間に目が覚めた僕はかえちゃんの部屋の前にいた。


「かえちゃん、起きてる?」


 返事がなかったので部屋へ入ると、布団から上半身だけ這い出たままうつぶせに倒れていた。助け起こすとその身体はとても熱かった。


「かえちゃん!?」

「あっ......こほっ、あや、くん。おはよう......けほっ、ございます」

「かえちゃんいいから寝てて!」


 あからさまに風邪を引いているとわかったので、起き上がろうとするかえちゃんを無理矢理寝かせ熱を測る。


「こほっ、けほっ!」

「三十八度。これは休まないと駄目だね。薬飲んでゆっくり寝てて」

「はぅぅ、こほっ!」

「朝食は用意してあげるから」


 確か冷蔵庫にゼリー飲料があったはず。探しながら自分のすべきことを頭の中で整理する。


(まずは風邪薬と濡れタオル、おでこに貼る冷感シートも要るね。僕のご飯はゼリー飲料でいい。とりあえず学校への連絡は家事が終わってから。遅刻して良さそうならお粥だけでも作ってから行こう)


 心節くんと芹さんへの連絡もしようか悩んだけど、どうせ僕は登校するのでそのときでいいと判断した。


 ゼリー飲料を手に部屋に戻ると、布団の中でかえちゃんがうなされていた。


「あや......、どこ......ひとり......やです」


 ほとんど聞き取れなかったものの、弱々しく伸ばされた小さな手と濡れた頬で、寂しいと泣いているように思えた。


 僕はその手を握ることで、一人じゃないのだと伝える。


「ぁ......」

「大丈夫だから、ゆっくり休んで。僕がそばにいるから」


 もう片方の手で頭を撫でながら呼びかけるうちに、かえちゃんは再び眠りにつく。


 身体は相変わらず熱いものの、聞こえてくる寝息は安らかだった。


(さてと、さっき立てた予定を組み直さないと)


 かえちゃんを置いて学校に行く予定は破棄して、かえちゃんの看病を新たに今日すべきことに決める。


(そうなると、みんなに迷惑かけるけど仕方ない)


 僕は持っていた携帯で学校や心節くん、芹さん達に連絡を取るのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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