第三十九話 彩芽くん、友達と遊ぶ
準備が終わり、二人で玄関で待っていると、呼び鈴が鳴った。ドアを開けて出迎えると、心節くんと名護山さんの姿があった。
「二人とも一緒だったの?」
「外で合流した。しかし彩芽、その服はないわー。仏像って」
開口一番、心節くんは僕の服に駄目出ししてきた。
「これ着てるだけでナンパ避け率五割超えなんだよ? 神通力って本当にあるんだって思うよ」
「むしろその服着てる奴をナンパしようとする野郎が勇者だな」
「大抵しつこいし変態率高いよ?」
何せボディタッチくらいなら平気でしてくるのだ。
そういう相手は全力で平手打ちするけど。
「お前の話って闇が深いよな。まあ、その話は後にして邪魔するぞ?」
「おじゃまします」
二人をリビングに招き入れる。
心節くんは無地Tシャツとジャケットにジーンズ、名護山さんはカーディガンとフレアスカートというファッションで、少なくとも僕よりはお洒落だと感じた。
「二人で暮らしているだけあって、掃除も行き届いてるわね」
「まあ、便利な道具も使ってるし。ホームセンターとかよく行くから」
「今度オススメの掃除道具とか教えてくれると嬉しいわ」
「あの、わたしもお掃除で芹さんに伺いたいことが」
「いやお前ら三人おかしくねーか?」
早速家事の話で盛り上がっていると、心節くんからツッコミが入った。
「高校生の男女が集まってする話が家事とか、色気なさ過ぎだろ」
「そうかな? かえちゃんとはよくするよ?」
あとは勉強の話とか、ネットで見た動物動画の可愛さとか。
僕もかえちゃんもテレビをあまり見ないので自然とそういう話が多くなるのだ。
「それはお前らが同棲してるからだろ。ああ、名護山も一人暮らしだから親と暮らしてるオレが少数派なのか。言っとくが自分の部屋くらいは掃除するし手伝いもしてるからな」
「別にしてなくてもお説教なんてしないわよ。でも、ちょっと意外ね」
「デジカメがメインとはいえ、カメラ使ってるからな。道具の手入れのために部屋を綺麗にするのは当然だろ?」
会話の端々から、心節くんの写真に対する真摯さが読み取れた。
「そうそう、カメラといえばあの写真なんだけど」
「パソコン使わせてくれ。コピーしてやるから」
かえちゃんに許可を貰い、心節くんがデジカメからパソコンに画像データを取り込んだ。
「わぁ、何度見ても綺麗ですね」
「大きな画像で見るとこうなってたんだね」
「何これ、すごすぎない? コンクールとかには出さないの? いいとこ行きそうだけど」
名護山さん、それは僕とかえちゃんが恥ずかしいから勘弁して。
一方心節くんは名護山さんが評価したことに少し照れながらも、真剣な表情でこう答えた。
「そう言ってくれるのは嬉しいが、盗撮は盗撮だからやめた。このレベルの写真を、被写体の許可を得て撮れるようにならねーと」
「......国重君のそういうとこ、素直に格好いいと思うわ」
「惚れるなよ?」
「そういう、茶化したりするところがなかったらね」
どうも心節くんは自分から三枚目になろうとするので、ちょっともったいないと思う。
そう考えているうちに話題は趣味に移る。
「アタシ、国重君みたいに打ち込める趣味って無いのよ。いつも家事ばっかりで」
「いいじゃねーか別にそれでも。そういや彩芽の趣味って木彫りだっけ? 後で作ったの見せてくれよ」
「いいよ。一つはかえちゃんにあげたけど、他のは残ってるから。何ならいくつか持ってくるけど?」
「おう」
アヤメ以外の製作物は別に見せて恥ずかしくないので、部屋からいくつか見繕い持ってくる。
見せた結果心節くんにも名護山さんにも割と好評だった。
「ほー、中々よく出来てるな」
「こういうの飾るのも悪くないわね。ねえ佐藤君、よかったら売ってくれない?」
「別にただでいいよ」
売るために作った訳でもないので、無料でも別に構わない。
「それはちょっとどうなのよ?」
「趣味の範囲だから。それに友達からお金取るのもね」
「ならせめて材料費出させて」
それくらいならいいかな?
代わりにリクエストに応えるとかで。
「じゃあこの猫を貰うわね」
「じゃあオレはライオンな。つーかこの動物なんだよ?」
「マレーバクだよ。さすがに彩色しないとわからないかな?」
マレーバクだけど、実は個人的に好きな動物だったりする。
白黒ハッキリしてて、子供の頃は縦縞が入ってて可愛いから。パンダよりも気に入ってるので、人気が出てほしいと願っている
木彫りを一通り観察した心節くんは、それを僕に返してきてこんなことを聞いてきた。
「彩芽の美的センスはともかくとして、お前美術部に入らねーの?」
「さっきも言ったけど趣味の範囲だからね。自分と周りの人を楽しませればそれでいいんだ。それに、今は家事と勉強で精一杯だから」
言葉にはしなかったけど、部活になると成果が要求されるだろうから、そういうのが入ると楽しめなくなるという理由もある。
「あの、家事ならわたしがしますよ?」
「いいんだって。部活に入ったらかえちゃんと一緒に下校出来なくなるからね」
「はぅぅ」
かえちゃんとの下校時間に、夕飯をどうするとか些細な会話を交わすのが最近の楽しみだ。
なのでわざわざ別行動する理由がないので、今後も所属しないだろう。
そんな感じのことを説明すると、心節くんも名護山さんもどうしてだか暑がっていた。
「なあ、もう夏だっけ?」
「今年は暑くなりそうね。いえ、熱くなりそうね」
何故名護山さんが言い直したのか、どうしてもわからなかった。
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