第三十八話 彩芽くん、焦る
かえちゃんに靴下を履かせるという、僕自身にも深刻なダメージが及ぶお仕置きを行った翌日の日曜日、僕とかえちゃんは家の中で心節くんと名護山さんを迎える準備に追われていた。
「二人と遊ぶのはいいけど、ゲームとか持ってないよね?」
「トランプくらいならありますけど」
「よし、それにしよう」
遊ぶための道具としてトランプをテーブルに置こうとして、インパクトに欠けると思い三段ほどのタワーをいくつか作ってみた。
(いやいや、時間ないのに僕は何してるのかな!? ええと次は、スリッパを出しておかないと!)
自身の行動に突っ込みつつ、次に何をするか考えながら玄関へ向かう。
何故ここまで準備にバタバタしているかというと、僕もかえちゃんも基本的にぼっち気質で遊びなれていないためだ。ただ、二人と遊ぶことは前々から予定として決まっていた。
それはお花見をする数日前、心節くんがこんなことを言い出したのがきっかけだった。
「次の日曜......は花見か。その次の日曜にお前らの家に遊びに行ってもいいか?」
特に断る理由もなかったけど、何故花見の直後は駄目なのか気になったので聞いてみた。
「いや、例の写真をお前らに提供するついでに、花見でも写真撮るからそれも見せようと思ってな。直後じゃ整理できてねーから」
「わかったよ。それならせっかくだし名護山さんも来る?」
「じゃあお呼ばれしようかしらね」
「だったら、名護山と桜井がメシ作ってくれ。女子の手料理って楽しみだからな」
「お花見でも作るのに。まあ、材料費を出してくれるならいいわよ?」
「そのくらいならいいぞ。出前よりは安いだろ」
こうして、あの写真がきっかけとなり四月の最後の日曜に二人を家に招くことに決まった。ついでにその日付がゴールデンウィーク前の休みだったので、その辺りの予定も話題に出た。しかも珍しいことにかえちゃんからの発信だった。
「あの、皆さんはゴールデンウィークはどうされるのですか?」
「別に僕は何もしないよ。楓さんが一人になっちゃうし」
「そう。佐藤君はこっちにいるのね。アタシは実家に顔出すから二日から四日はいないわ。国重君は?」
「多分四連休は家の手伝いと写真の編集作業をするだろうから、そこまで暇じゃねーな。最終日は一応空けてるがな」
「わかりました」
そう言ってから教室を出たかえちゃん。その不可解な行動に疑問符を浮かべていると、心節くんと名護山さんの携帯にメッセージが送られてきたようだ。
「楓から?」
「普通に言えっての。何々……ああ、そういうことか」
「なるほど。だから予定を聞いてきたのね」
「二人とも何かあったの?」
僕には何も送られていないので、何の話がまったくわからなかったので聞いてみたのだけど、はぐらかされてしまった。
「彩芽は知らなくていいことだ」
「大丈夫、変なことじゃないから安心して」
「それならいいけど」
戻ってきたかえちゃんにも一応聞くだけ聞いてみたが秘密にされたので、その当時は気にしなかった。
(そういえばあの時、かえちゃんは二人になんて送ったんだろう? まあいいか。それよりも準備を早くしないと)
回想を終わらせた僕は、玄関で来客用のスリッパを用意してから、リビングに四人分座布団を敷いた。かえちゃんの方はお茶とお菓子、さらに筆記用具を準備している。それを見て、僕は重要なことを思い出した。
(そうだ、お昼から勉強会するから、参考書も出さないと)
当初の予定では写真を見たり遊んで一日過ごすはずだったけど、今から数日前のホームルームで、ゴールデンウィーク後にテストがあることが判明し、勉強せざるを得ない状況になったのだ。
(特に赤点やそれに近い人は大変なんだよね)
何故今回赤点やそれに近い点を取ると大変かというと、期末テストとの合計点が百点未満ならば夏休み、補習授業に参加しなければならないからだ。それも、点数が低ければ低いほど長引くという話なので、勉強が苦手な人達は戦々恐々としている。
(僕も人のことは言えないけど。何せ中学時代に零点を取ってしまったのだから)
名前を書き忘れる、解答欄を間違える、問題用紙にしか解答を書いてないなど、今どき漫画ですら見ないようなミスが重なった結果、全教科零点という恥ずべき記録を打ち立ててしまったのだ。当然、うちの学校のテストの仕様だと零点を取った時点で補習が決まるので、見直しは念入りにしなければならない。
(こんなこと心配してるのは僕くらいだろうけど。かえちゃんにこの話したときは苦笑いされたし)
見直しをし過ぎて名前だけしか書いていなかったこともあったので、笑われて当然だと思うけど。中学三年間の試行錯誤の結果、三回見直すのが理想的とわかり受験のときに実践した。ちなみに僕自身は合格したことしか気にしてなかったので、何点取ったかは知らないし興味も無い。
(その話を二人にしてもいいかな? 勉強の息抜きにもなるし)
特に心節くんは遠慮なく笑ってくれると思う。テスト関連での失敗エピソードには事欠かないので、僕みたいにならないようにという教訓めいた話にも持って行けるし。
そういうミスがあったときはリンにも伝えていたんだけど、その度に『アヤって本当にもったいないよね。というか君、失敗ばっかり俺に伝えてるけど、普通に俺より合計点高いからね!?』と最終的に僕が怒られる流れになる。何でだろうか?
確かに失敗した部分以外は正解していたけど、だからって足し算間違えたりしてたら充分恥ずかしいミスだと個人的に思う。
(まあ、今はそれよりも準備だよね。参考書はこれとこれと......)
適当に数冊リビングへと運んで、僕は一息ついたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
実はこの話ですが、元々は学校を舞台にする予定だったのですが、昨日読み返して、時系列がおかしいことに気付いたため、前話も含め突貫で修正したものです。回想という形にしなければ一週間が八日になってしまっていたのでこれはまずいと焦りました。




