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第三十五話 彩芽くん、女物の服を買う

 かえちゃんと幼馴染に戻り、リンとのいざこざが解決したことで、学校生活だけでなく私生活にも変化が表れだした。


 例えば、ある日の朝。不燃ゴミをゴミ捨て場へ運ぶ際、近所の奥さん、須郷さんと遭遇した。


「おはようございます。これからゴミ捨てですか?」

「あら、桜井さんところの。おはよう。ちゃんと分別してる?」

「大丈夫です。捨てる前に確認していますから」


 これまでならただ挨拶を交わして終わりだったのが、多少世間話をするようになった。


「楓ちゃんは元気?」

「はい。家事を分担して頑張っています」

「あんなに小さいのに立派ね。彩芽ちゃんも若いのにしっかりしてるし、いつでもお嫁に行けるわね」

「あはは、まだ考えていませんから」


 僕としては想定外なんだけど、どうやらこの須郷さんを筆頭にご近所さんは僕のことを女の子だと勘違いしているようで、かえちゃんと僕は義理の姉妹ということになっているようだ。


「彩芽ちゃんも大変よね。事情があって女の子の二人暮らしをしながら、学校では男の子で通さないといけないんだから」

「あはは......」


 さらにややこしいのが、僕が男装して学校に通っていることになっていることだ。


 キッパリ否定して僕は男だと言いたいけど、それをすると未成年の男女が二人暮らししている事実が公になり、最悪かえちゃんとの生活が終焉を迎えてしまう。


 そのため、あえて僕は泥を被り女の子の振りをしている。仕草でバレそうだったので、身近な女の子であるかえちゃんを観察し自身に反映させている。


(またナンパされる頻度が上がったけど、仕方ない)


 全ては幼馴染との生活を守るためだ。なお、この事実はかえちゃんとも共有済みのため、かえちゃんは義理の姉が大好きな妹という設定になっている。


 幼馴染に戻って呼び方が変わったけど、ご近所さんにはこれまでの「彩芽さん」と「楓さん」呼びで通すつもりだ。


 須郷さんと世間話をしているにも関わらず、こうして長々と考えていた理由は単純、旦那の愚痴やテレビの内容など、全く興味のない話だからだ。


 ひとしきり話し終えた須郷さんと別れ、洗濯物を干していてふと思う。


(擬装用に下着も買うべきだろうか?)


 学校で男装している設定なら、干してある女性物の下着がかえちゃんのしか無いのは不自然かもしれない。


(それならコンビニで適当に買えばいいか。ちょっと小柄だけど合わないことも無いだろうし)


 ただ、かえちゃんに説明しないと誤解しか生まないので先に話しておく。


「かえちゃん、僕が女物の下着を買ってきても気にしないでね。ご近所で流れてる噂の対策用だから」

「あの、そこまでしなくても洗濯物を見る方はいないのでは?」


 かえちゃんの指摘はもっともだ。というかうちの洗濯物を見た人は女性物の下着の数より、異常に多い靴下に目が行くだろう。


 そういえばあの靴下って、どうしてあんなに長いんだろうか? さらにかえちゃん以外履いてる女の子見たことないんだけど。


 話が逸れた。ともかくほとんどの人は気にしなくても、ごく一部の観察力の鋭い人か悪意のある人なら多分気付くだろう。


「万が一でバレるのは嫌なんだ。不注意でこの生活を終わらせたくないから」

「あやくん///」

「そのためには、出来ることはしておきたい」


 格好付けたことを言っているものの、出来ることというのが女性物の下着の購入なのでギャグでしかないが。かえちゃんもかえちゃんで天然さんなので、僕を尊敬の眼差しで見てるし。


「あやくんがそうおっしゃるのでしたら、放課後二人で買いに行きましょう」

「いいの?」

「わたしたちの生活を守るためですしそれに、わたしが知らない下着が洗濯物にあったら驚いちゃいますし」


 僕が逆の立場なら絶対に質問攻めにするので、かえちゃんの一言は非常に納得できた。


 放課後、私服に着替えてからいつものスーパーの衣料品売り場を訪れる。


 コンビニでなくここにした理由は、擬装用の私服も充実させた方がいいという、かえちゃんからのアドバイスからだ。


「クラスメートはいませんね」

「それ以前にここで服買う高校生女子って、かえちゃんと名護山さんしか見たことないけど」

「そうかもしれませんが、安心は出来ません」


 かえちゃんは周囲を警戒しながら服を選んでいる。一方の僕はあえて無警戒で探している。


「あやくん、うちの学校の人に見つかったら大変なんですよ? もうちょっと警戒した方が」

「かえちゃんの方こそ気を張りすぎ。不審者に見えるから自然体が一番だよ。店員さんに話しかけられても面倒だし」

「むしろあやくんはどうして落ち着いてるんですか?」

「あんまり言いたくないけど、ナンパされた経験が生きたってやつだね」


 落ちつきなくキョロキョロしている人って、暇そうにも不安そうにも見えるから声をかけたくなるらしい。


「なるほどです」

「まあ長居したくないから、早めに買って終わらすよ」


 何となく目についたのでフリルの付いたピンクのブラウスと水色のハーフデニムパンツをチョイスして、かえちゃんを連れて下着コーナーへ。


(これは、どれを選んだらいいのかわからない)


 そもそも僕は男子なので、自身の胸囲と臀部の大きさを気にしていないため、擬装用にしてもどれが合うのか見当もつかない。


「はぅぅ......」


 かえちゃんはかえちゃんで、自身の胸と下着を比べて落ち込んでるので相談するのも悪い気がしてくる。途方に暮れていると携帯から通知音がしたので確認してみる。


『佐藤君、何でアンタそこにいるのよ? 場合によっては大声出すわよ?』


 メッセージは名護山さんで、どうも僕が女性下着コーナーにいるのを見て警告として送ってきたようだ。


(近くにいるっぽいけど、この状態で声かけたら変態扱いだよね)


 携帯を持っていない手には下着があるため言い逃れ出来ない。仕方が無いので選ぶのを中断して弁解文を送った。


『待って説明させて。ここにかえちゃんもいるから危ない事情じゃないよ。変ではあるだろうけど』

『それなら順を追って説明して。楓がいても今はまだアウト寄りの判定だから』

『わかったよ。実は――』


 こうなった経緯を名護山さんにメッセージで送り、最後まで読んで一言『佐藤君慎重すぎ。手助けしてあげるからそこを動かないで』と返された。


 十秒後、肩を叩かれ振り返ると名護山さんがいた。


「ごめんわざわざ」

「いいのよ。佐藤君の体型的に、この辺なら仮に着けることになっても違和感無いんじゃない? ほら、とっとと楓連れてどっか行きなさい。男子がここにいると落ち着かないのよ」

「そうさせて貰うよ。かえちゃん、行こうか」

「はぅ、あれっ、芹さんいつの間に......こんにちは」

「いいから行けって言ってるのよもう!」

「「ご、ごめんなさい~!!」」


 名護山さんに怒られ、代金を支払いそのまま帰宅した僕達。これでミッション完了と安堵したが、最後に一つだけ後処理が残っていた。


「買った服と下着、どこに置こうか?」

「どちらもわたしが預かりますね」

「うん。仮に心節くんとかが遊びに来て、うっかり見つけちゃったら大問題だからね」


 というわけで、擬装用の私服はかえちゃんの元で管理することとなり、数日に一回の頻度で洗濯物として干されることとなった。

お読みいただきありがとうございます。


彩芽も楓もテンパると発想が斜め上にいきます。

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