第三十三話 彩芽くん、クラスメートと交流する
コメディ回、別名彩芽いじり回です。
昼休み、食事を終えた僕は朝から気に待っていた疑問を心節くんにぶつけた。
「朝から僕とかえちゃん、なんか見られてる気がするけど気のせいかな?」
そう、クラスメートからの視線が集まっている気がするのだ。最初は自意識過剰と思ったが、どうやらかえちゃんも気付いているらしいので気のせいではないっぽい。
「気のせいじゃねーよ。お前ら手を繋いで教室入った上、昨日までと違ってあだ名呼び。気になって会話に聞き耳を立てれば甘すぎて胸焼けを起こす。気にならない方がおかしいっての」
「いやそれ前半はともかく後半!」
「ともかく、事情聞いたオレら以外はクラスメートとして説明が欲しいんだよ。わかったらとっとと前に出て説明しやがれ」
あまりの言い草だったけど、名護山さんも同意するように首を縦に振っていた。お弁当も食べ終わっていたので、かえちゃんと手を繋いで教壇へ立つ。
「あっ、彩姫と楓たんが前に立ったよ?」
「何か発表があるのか?」
「みんなー、ちょっと注目だよ!」
それまで雑談していたり遊んでいたクラスメート達が、誰かの号令をきっかけに慌ただしく席に座り、僕達二人の一挙一動を見逃すまいとしていた。
(ええっ、何でこんなにまとまりあるのみんな?)
その様子に内心引きながら、深呼吸して視線を受け止め話し始めた。
「皆さんと同じクラスになってまだ一ヶ月も経っていませんが、重大な発表がありますので、少しお時間をいただきたいと思います」
「彩姫ー、重大な発表ってなーに?」
「今から話しますが彩姫は止めてください。えっと続けますね。実は僕と桜井楓さん、かえちゃんは昨日から幼馴染に戻りました」
「「「「は?」」」」
心節くんと名護山さん以外の目が点になる。まあ普通こういう形で発表するなら、付き合い始めたとかだよね。質問も文句も出なかったので続ける。
「実は僕達幼馴染だったんです。ただ僕の側で幼馴染という言葉に忌避感を抱く事情がありまして、それが解決したので昔と同じように接するようにしたんです」
「楓たん、本当なの?」
「本当です。あやくんはずっと昔に離ればなれになった幼馴染なんです」
「幼馴染にしても仲良すぎだな」
「そんなこと言われましても、僕とかえちゃんの間ではこれが普通ですし。むしろ学校だから抑えてる方ですよ?」
「「「「それで抑えてるってどんだけ仲いいの!?」」」」
またしても驚かれた。学校では呼び方以外はこれまでと大差ないはずなんだけど。
「あー、呼び方が変わった以外は、コイツら前からこんな感じだぞ?」
「アタシ達はいつも一緒だからそれなりに慣れてるけど、あまり関わってない人はやっぱりそう思うわよね」
これまで沈黙していた心節くんと名護山さんがフォローに入った。けど二人とも僕達を何だと思ってるの?
「何って、大切な友達だけど?」
「友達じゃないならこんなこと言わねーよ」
「二人とも、その、ありがとう」
「「「「彩姫がデレた! しかも照れた顔が可愛い!!」」」」
友達とサラリと口にした二人にお礼を述べたら、どうしてかクラスメートがざわついた。
「彩姫じゃありませんから。まったく!」
「あの、わたしはあやくんのこと男の子ってわかってますよ?」
「僕の味方はかえちゃんだけだよ」
「はぅぅ///」
慰めてくれたかえちゃんの頭を撫でてあげる。そうするとかえちゃんは顔を耳まで赤くして恥じらうのだった。
こうして照れながら喜んでくれるのが嬉しくて、つい撫でてしまうんだよね。
そうやってかえちゃんを撫でていると、いつの間にか喧噪が止んでいることに気付く。照れるかえちゃんを見ていた目線をクラスメート達に向けると、ほぼ全員が虚ろな目をしていたので、僕は大声で呼びかけた。
「みなさん大丈夫ですか!?」
「「「「はっ!!」」」」
「よかった。何があったかと思いましたよ。じゃあかえちゃん、もうちょっと撫でますね」
「お、お願いします」
「「「「やめろぉぉぉっ!!」」」」
「わわっ!」
「きゃぁぁっ!」
クラスメート達の声を揃えた絶叫に驚き、僕の手は止まりかえちゃんは僕の後ろに隠れた。
「ヤバい甘すぎだよこんなの耐えられないって」
「お前ら無事か! 生きてる奴は返事しろ!」
「国重に名護山! 何でお前らだけ平然としてやがんだ!!」
「無糖のコーヒー飲んでたから」
「それでも口の中が甘ったるくて仕方ねーが」
「ちくしょう、このままじゃ甘さで死人がでちまう!」
「みなさん、大袈裟ですよ」
ただかえちゃんの頭を撫でていただけなのに、どうしてここまで言われないといけないのか。
「大袈裟じゃないよ! 彩姫はわかってない!」
「そう言われても。ダメージ与えたのは事実だから、申し訳ない気持ちはありますが」
「だったら、もうちょっとみんなと仲良くすること! ついでに彩姫のあだ名を受け入れること!」
「はぁ、わかりました......って、元はと言えば彩姫って呼ばなければこんなことにならなかったですよね!?」
「「「「あっ、バレた?」」」」
ここでやっとみんなが僕とかえちゃんをだしに遊んでいることに気付き、僕は抗議した。
「もう、からかったんですね!」
「わー、彩姫が怒った」
「誰が彩姫ですか! もう許しませんからね!」
残りの昼休みは逃げ惑うクラスメート達と鬼ごっこをする羽目になった。
特に、初日から僕を彩姫と呼ぶ女子が妙に絡んでくるので、執拗に追い回した。
「彩姫って、結構足速いね。追いつかれそう♪」
「だ、れ、が、彩姫ですか!」
「あはは、怒ってても可愛いね♪」
結構本気で走って追いかけるも、中々捕まらない。
「捕まえられるものなら捕まえてみてよ」
「ふぅん、じゃあ捕まえるわね」
突如聞こえた声の主が、矢のような速さで僕を抜き去りそのまま彼女を捕まえた。その正体は名護山さんだった。
「ちょっと、彩姫と遊んでたのに、芹ちゃん邪魔しないでよ」
「もう昼休み終わりだから止めに来たのよ。このまま授業中も追いかけっこするの?」
「仕方ない、一時休戦だよ。彩姫って意外と体力あるよね」
「彩姫って呼ばないでください」
「馬鹿やってないで戻るわよ。こんな理由で遅刻したら恥ずかしいわ」
「「はーい」」
この件で、僕達はクラスメートとさらに仲良くなれた。ちなみに僕と鬼ごっこした女の子は三代百合という名前で、外にハネたセミロングの髪と人なつっこそうな笑顔が特徴の美少女だ。
教室に僕と名護山さん、三代さんが戻ると、かえちゃんの傍から女の子が離れた。どうやら僕が戻るまで話していたらしい。
「楓たん、また色々聞かせてくれると嬉しいわ」
「はぅぅ」
かえちゃんとお話ししていたのが南条牡丹という女子で、普段は三代さんと二人で行動している。南条さんはショートヘアの眼鏡美人なので、三代さんとは正反対に見えるが意外と馬が合うみたいだ。
「かえちゃん、南条さんに何か聞かれた?」
「はぅぅ、すみません......家でのことを」
「まあそのくらいならいいか」
南条さんから話を聞いた三代さんが、ニヤニヤしながら僕とかえちゃんを見ていた。
あれっ、冷静に考えてみれば家でのことって、二人っきりで同居してるってことだよね。それなら三代さんのあの顔の意味がわかる。
「かえちゃん」
「はい......」
「お仕置きだからね」
「はぅぅ」
この日のお仕置きは、教室を出てから下校後買い物をして帰宅するまで、手を繋いで離さないというものにした。それもただ普通に繋ぐのではなく、より深く繋ぐ繋ぎ方を調べて選んだ。
確か恋人繋ぎとか書いてあったけど、別に仲良しなんだから幼馴染でもしていいよね?
お読みいただきありがとうございます。
百合と牡丹は急に生えてきたキャラですが、今後もちょくちょく登場する予定です。