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第二十九話 彩芽くん、真実を知る

友達編ですが、あと一話で終わります。

 みんなに心配されたものの別に体調不良でもなかったので一日授業を受けて帰宅、その後僕は父さんへ電話をかけようとして悩んでいた。


(過去と向き合うと決めたけど、まだ一つ答えが出てない) 


 それは烏丸竜堂との過去の件で、向き合った結果絶縁するか和解するかを悩んでいるのだ。


(悩んでる時点で、もう答えは出てるような気もしないではないけど)


 そもそも現時点でほぼ絶縁状態なのだから、普通に考えたら縁を切ることに悩みはしないだろう。


(昨日見たあの表情と、言おうとした言葉。それが気になってるから悩むんだ)


 真意を確認したいところだが、同じくらい僕にトドメを刺した言葉が本当だったのかどうかも気になる。


(楓さんなら、昔のリンのことも覚えてるかな? 聞いてみようか)


 そう決意し、息を整えて楓さんに話しかけた。


「楓さん、話があるんだけど、聞いてくれるかな? リンのことと言ってわかるかな?」

「......はい。わたしがカラスさんって呼んでいた、あやくんの幼馴染のことですよね?」


 僕が烏丸竜堂のあだ名を告げると、楓さんもあだ名で返してきた。


 そういえば、楓さんは烏丸竜堂をそう呼んでいた。


「やっぱり覚えてたんだ」

「もちろんです。カラスさんの義妹のなずなちゃんのことも覚えてますよ」

「そっか」


 楓さんがなずなちゃんと呼んでいるのは、烏丸竜堂の義妹、烏丸なずなのことだ。


 口数が少ないが物怖じしない性格で、年上にも関わらず体が小さな楓さんのことを妹扱いしていた、ちょっと変わった子だった。


「それで、どういったお話ですか?」

「リンがいじめに荷担していた件だけど、少し詳しく話すね。僕のこともリンのことも知ってるかえちゃんの、素直な意見を聞かせて欲しい」

「はぅぅ......あの、その前にお茶煎れますね。あやくんもわたしも、落ち着かないといけませんし」


 楓さんの煎れてくれたお茶を飲み一息つき、僕は烏丸竜堂もといリンがしたことを端折りながら語る。


「リンは最初は僕のことを庇ってくれていたんだ。段々味方が減っていっても、リンもなずなちゃんも僕と仲良くし続けた。だけど、急に距離を取り始めて、最後にリンが僕にトドメを刺した。そのときの台詞が『君って本当にバカだよね。そんなだから誰も君を必要としないんだよ』だった。その後聞き返したら『幼馴染じゃ無かったら、とっくの昔に離れてるよ。大体、君のせいで』って言ってる途中で倒れた」

「えっ!?」


 僕の発した言葉に楓さんはショックを受けたものの、すぐに首を横に振って否定した。


「そんなのカラスさんが言うわけありません! あやくんと本当に仲良しだったんですから!」

「でも現実にそう言った」

「それは......きっと何か理由があると思います。カラスさんって相談せずに一人で決めるところありましたから」


 確かに言われてみれば、昔からリンは一人で抱え込む悪癖があって、ずっと前になずなちゃんと義妹になったときもしばらく悩んでた。


「確かにそうだけど、だとしたらその理由って何だと思う?」

「......すみません、離れていたわたしには、そこまではわからないです。ただ、あやくんのせいでって言葉が引っかかります」

「やっぱりそう思うよね。リンは何を言うつもりだったんだろう?」


 例えば君のせいで僕は苦労してきた、とか?


 あるかもしれないけどお互い様と言えばお互い様だし、あの場面で発するには不自然だと感じるというか、その程度なら僕とリンの間では口論のネタにすらならない。


 口論になってもなずなちゃんに止められていたので、そこまで深刻なことにはならなかった。


「あの時なずなちゃんがいれば、あんなことにはならなかったのかも」

「あやくん?」

「いや、そもそもなずなちゃんと最後に会ったのはいつだ?」


 どうしても思い出せない。もしかしたら、なずなちゃんに何かあったのかもしれない。だからあの時リンは僕を責めた。そう考えるとつじつまは合う。


 そう考えるといても立ってもいられず、携帯で父親に連絡を取ることにした。


『彩芽、どうした?』

「そこにリンかなずなちゃんいる? いるなら話をしたいって伝えて」

『いるわけないだろう。だが、そう聞くということは何らかの覚悟は出来たんだな。どうするかは彩芽が決めることだが、二人に番号聞いたときに、彩芽が竜堂君にかけたら完全な絶縁、なずなさんにかけたら和解と伝えておいた』


 それ、二人に余計な負担かけてるよね、父さん。


「余計なことしないでよ。もしかしたらリンと和解する前提でかけるかもしれないのに」

『このくらいは受け入れてくれないとな。事情は何であれ俺達の子供に傷を負わせたのは事実だ。今から送ってやる。もし和解するなら、楓さんにもなずなさんの番号を教えるといい』


 そうして、通話が終わると父さんから二人の番号が送られてきた。


「あの、樹さんは何て言ってました?」

「電話番号を送るから、和解か絶縁かは自分で決めろって。もちろん、決まってるけどね」


 なずなちゃんの番号に電話する。知らない番号だろうから、出ないかなと思っていたけど、数回のコールののち繋がった。


『誰?』

「佐藤彩芽です。そちらは烏丸なずなさんでしょうか?」

『アヤにい? アヤにいなの!?』


 いつもテンションが低いなずなちゃんにしては珍しい大声だった。


『よかった、アヤにい。遠くに引っ越したって聞いたけど』

「いじめのことがあってね。あとは卒業式のやらかしもあって逃げたんだ」

『アヤにい、その卒業式のことだけど。まずはお礼を言わせて、ありがとう』

「えっ?」


 いきなり告げられたお礼に首を傾げる。


『やっぱり知らなかった。アヤにい、ワタシもいじめられてたの』

「......」


 衝撃の事実に言葉を失う。口数は少ないけどいい子のなずなちゃんがいじめられてたなんて、一体何があったの?


 いや、なずなちゃんの性格を考えると、原因は一つしか無い。


「それって僕のいじめが原因だよね? 先輩に意見して、それで逆恨みされた」

『正解。先に言うけど謝罪は要らない。卒業式の暴露で胸がすいたから』


 そう言われても、妹分のなずなちゃんがいじめられいたのになにもしなかったなんて、許していいことじゃない。


『それでも悪いと思ってるなら、リンにいと仲直りして。ワタシのお願い』

「うん。そうするよ。だから、そこにリンいる?」


 いるのなら問題ないが、いないならなずなちゃんに頼み事をしないといけない。


『この部屋にはいない。家にはいるけど代わる?』

「だったらいいよ。父さんのせいで、なずなちゃんにかけるより先にリンにかけたら絶交って伝わってるはずだから」

『なら、知らせずにアヤにいからかけて。リンにいにも反省必要だから』


 なずなちゃん、なんというか強くなったね。そんななずなちゃんにご褒美をあげようかな?


『じゃあ一旦切るから』

「ちょっと待ってなずなちゃん。今から教える番号から電話あったら取って欲しい。かえちゃんって言ったらわかるかな?」

『かえちゃんって、カエデちゃん!? アヤにい再会したんだ。絶対に取るから教えて』


 なずなちゃん、長く離れているのに楓さんのこと、まだ気に入ってるんだな。楓さんの電話番号を教えた後、電話を切った。


「なずなちゃん、大丈夫でしたか?」

「うん。元気そうだったよ。これからリンにもかけるから。それと、この番号を登録しておいてね。なずなちゃんと話したくなったら、かけてあげて」


 楓さんになずなちゃんの番号を教えた。


「あの、今からでもいいですか?」

「大丈夫だと思うよ。でも、かけるならお互い自分の部屋にしようか」


 幼馴染との和解なんて、楓さんに聞かせるには恥ずかしすぎるので。


 そうして、自室でリンに電話をかけたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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