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第二十六話 彩芽くん、お花見する

 お花見の場所は相談の結果、学校近くの公園になった。葉桜になった木も多かったが、まだ花が残っている木もあったのでそこにレジャーシートを敷いた。


 僕と楓さんは食材の買い出しと料理を準備した。


 まあメインは名護山さんが準備するらしいので、こちらが用意したのは大量のおにぎりなのだけど。


「本当、分担できて助かったわ」


 とは名護山さんの弁だ。


 三人で待っていると心節くんがやって来た。


「おっす」

「心節くん、こんにちは」

「あの、こんにちは」

「国重君、こんにちは。全員揃ったことだし、ささやかだけど始めるわよ」


 名護山さんの号令でお花見が始まった。


「飲み物だけど、最初はお茶で乾杯しねーか?」

「いいわね。音頭は言い出しっぺの国重君で」

「おう。新しい出会いに乾杯!」

「「「乾杯!」」」


 心節くんの乾杯の音頭はありきたりだったけど、別々の場所から来た僕達には相応しかった。


 まずは並べられた料理を食べることにした僕達。


 唐揚げは名護山さんが用意したものだ。


「おっ、うめーじゃん!」

「美味しいです」

「名護山さん、美味しいよ」

「褒めたって何も出ないわよ。でも、ありがとう」


 名護山さんの照れた顔は、珍しくて綺麗だった。


「おにぎりは二人が用意したって聞いたけど、これどっちが作ったの?」


 キッチリ正三角形になったおにぎりと、俵型のおにぎりの二種類がある。


「正三角形が僕の手作りだよ」

「じゃあ、安全なのは俵型だな」

「心節くん、どういう意味ですか?」

「お前のことだから何か仕込んでねーかと思ってな」

「仕込んでません!」


 心節くんのあまりの言い草に、僕は猛抗議した。


 失礼な、楓さんや名護山さんも食べるものにそんなことしないから!


「本当に大丈夫かしら?」

「名護山さんまで......」

「冗談よ。楓が食べてるんだから安全に決まってるじゃない」


 楓さんを見ると、名護山さんがいうように正三角形のおにぎりを食べていた。


(まあ、楓さんは僕が作ってるところまで見てたし)


「あの、ちゃんと美味しいですよ。お塩も利いてますし」

「楓さんの教え方がいいからね。いつもありがとう」


 お礼を言いながら楓さんを撫でると、とても気持ちよさそうな顔をしていた。


「お前ら仲いいな。つか付き合ってねーのか?」

「違うよ。僕と楓さんは友達だから」

「んな友達がいてたまるか。桜井、彩芽との関係はどうなんだ?」

「その、お......友達です」

「お前らな」


 楓さんは悩んだ末に友達と回答した。


 心節くんは納得いかなかったようだけど、名護山さんは何か思い当たる節があったようで仲裁に入ってくれた。


「まあまあ、そこは人それぞれなんだから。でも佐藤君、あんまり待たせたら駄目だからね。楓を泣かせたら許さないから」

「うん。頑張るよ」


 烏丸竜堂に対する複雑な感情さえどうにか出来れば、楓さんと幼馴染に戻れるはずだ。


 そうしなければ友達より先には進めない。


「そうか。そういえば気になってたからこの際聞くけど、桜井は前髪何で伸ばしてるんだ?」

「はぅぅ、ちょっと事情がありまして」

「国重君、そこは触れないであげて。楓なりに真剣な理由があるの」

「わかった。変な噂が流れたら訳ありとでも言っておく」


 楓さんの前髪について、名護山さんは何か聞いているらしい。


 伸ばし始めた理由は知ってるけど、何故今もそうしているかはわからない。


「噂といえばコイツらの家庭事情だな。同居は入学初日に公表したわけだが、どうも二人暮らしなんじゃねって話が流れてるがどうなんだ?」

「あはは、それは本当だよ」

「......」


 心節くんのいう噂話を肯定すると、彼は絶句したのち僕に説明を求めてきた。


「簡単にいうと不登校になって地元で進学したくない僕が、遠くに進学するにあたって下宿することになったんだけど、その家の人が仕事で転勤せざるを得ず、とはいえ僕を一人に出来ないからこうなった」

「想像以上に重かったな」

「ええ。これ正直に話した方があらぬ噂が流れそうよね」


 自分で話しててなんだけど、確かにこれ重いし絶対に誇張して広まるタイプの話だと思った。


「そういうわけで、いい隠れみのはない?」

「一応お父さん達から、義理の兄妹ということにしていいって言われました」

「正直気は進まないけど」


 義理の兄妹と聞くと烏丸竜堂を連想する。


 彼の妹の方はいじめに関わってないとはいえ、疎遠になったのは仕方ないことだった。


「現状一番いい案だから、最悪佐藤君の意思は無視するわ」

「そこまでしなくとも家庭の事情で充分だろ。一応事実だろ?」

「そうかもしれないけど、楓の前髪の件を事情ってはぐらかす以上、せめてこっちは説得力のある説明した方がいいわ」

「確かにそうだな」


 心節くんと名護山さんが僕と楓さんのことについて真剣に議論していた。


「「あの、どうしてそこまでしてくれるの?(してくれるんですか?)」」

「「友達がいじめられる可能性は、早めに潰したいだからだ(だからよ)」」


 綺麗に質問と答えがハモった。


 友達想いな二人の優しさに、僕と楓さんは同時に頭を下げて、「「ありがとう、ございます」」と同時に感謝の意を述べたのだった。


 そのあと二人にどれだけ息ピッタリなんだと、笑われたけど。


 真剣な話も終わり、お菓子も食べ終えたので、あとは撤収作業だけだ。


 ゴミを纏めたりしながら、ふと心節くんが隣で呟く。


「改めて思いかえしてみると、オレ一人ハーレム状態だったよな」

「そんなハーレムの主としては、誰が好みなんですか?」


 それが聞こえた僕は先程の仕返しとして、心節くんを困らせる質問をしてみた。


 普通に考えればこういうのが小悪魔系の女子が聞くことで、男子の僕が聞くようなことじゃないと思うけど。


「お前な。どう答えてもオレを弄ぶつもりだろう?」

「もちろん。あ、消去法という回答は無しだよ」

「ひでぇ悪女がいたもんだなおい。が、好みというなら名護山だ」

「......バカなこと言ってないで片付け手伝いなさいよ!」

「「はーい(へーい)」」


 僕達のアホな会話を片付け中の名護山さんが咎める。


 ただ、どういうわけかその顔は赤かったけど。

お読みいただきありがとうございます。

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