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第零話その二 楓ちゃん、待ちわびる

何となく書いてしまったので投稿です。

 二月も中頃となり、わたし、桜井楓はあとひと月で中学校を卒業します。


 それと同時に、小学校入学からずっと過ごしてきた我が家を離れ、家族で遠くに引っ越す予定になっています。


 正直寂しいですけど、わたしはお友達がいないのでいなくなっても多分誰も気にしません。


(はぅぅ、悲しいです)


 体が強くないため、保健室登校が多かったのも理由の一つだとは思いますけど、そもそも引っ込み思案でいつも前髪で顔を隠している小さな女の子とは、誰もお友達になろうとは思わなかったみたいです。


(はぅぅ、もう少し背が高ければ)


 ですけど、わたしは負けません。幼馴染の男の子、あやくんといつか再会するまで挫けたりしません。


(あやくん、覚えていてくれますか?)


 真っ先に思い出すのはあやくんとの別れの場面で、結婚の約束をしたことです。


『あやくん、さよならはいやです......』

『僕もいやだよ。だから、再会したら結婚しよう』

『えっ......!?』

『だから、それまで前髪伸ばしててよ。今度会ったとき、前髪上げて誓いのキスをしてあげるから』

『はい!』


 それは子供の頃の淡い約束。ですがこの約束を信じて今まで頑張ってきました。


(前髪を伸ばしているのも、あやくんが自分以外の男の方に見せたくないって言ってくださったからですし)


 だからこそ、わたしは前髪で目元を隠したままこれまで過ごしてきました。切って顔を晒してしまうと、あやくんと二度と会えない気がしたのです。


 あやくんのために、いい子で待っていました。ですが、待っているだけでは駄目だと思い、離れたあと、住所を教える意味でお手紙を出しました。写真は同封せず手紙のみで内容は近況報告でした。


 すると約一ヶ月後、あやくんから近況報告のお手紙が届き、楽しそうなのが文面から伝わってきました。


 わたしもさらにお返事を書いて送ると、一ヶ月以内にはまたお手紙が届くという流れを、中学校まではしていましたが、今年の春辺りから全く届かなくなりました。


 何かあったのかと思い、こちらからお手紙を出そうとしたのですが、お父さんに止められました。


「今はそっとしておいてあげてほしい。出来れば手紙ももう出さないでくれないか?」

「どうしてですか!?」

「わかってくれ、彩芽君のためなんだ」

「あやくんの......わかりました」


 心配ではありましたが、あやくんのためならと引き下がりました。


 それからは何の音沙汰もないまま今に至ります。


(そうです、引っ越すのならばあやくんに新しい住所を教えませんと)


 引っ越してしまえば、あやくんとの繋がりが絶たれてしまうと考えたわたしは、新居の住所をお母さんに訊ねました。


「お母さん、引っ越し先の住所ってどこになりますか? あやくんにお手紙を出したいのですが」

「楓ちゃん~、それはちょっと待ってください~。実は~、一咲さんに相談が来まして~、それ次第で引っ越さなくてもいいかもしれませんので~」

「本当ですか!?」


 今までの人生の半分以上を過ごした家を離れないで済むという情報は、わたしにとって朗報でした。


 しかし、よい知らせはこれで終わりませんでした。


「本当ですよ~。しかも~、その相談してきた人は佐藤樹さん~、つまり彩芽くんのお父さんですよ~」

「!?」


 あまりに驚いて、言葉も出ませんでした。


「うふふ~、驚きましたか~? でも本題は別にあるんですよ~」

「本題、ですか?」

「一咲さんに樹さんが相談したのは~、彩芽君のことなんですよ~」


 あやくんの名前が出た瞬間、わたしの目から涙がこぼれました。


「あらあら~、楓ちゃん。泣いちゃいましたね~」

「だって、あやくんのこと......ひぐっ」

「せめて内容聞いてから~、泣いてくださいね~」

「そんなの、ぐすっ、むり、です......ふぇぇ」


 お母さんにそう言われましたが、勝手に涙が溢れてくるんです。どうしようもないんです。


「仕方ないから~、このまま続けますね~。実は彩芽君は~、こっちに越してくるかもしれないんですよ~。また会えますね~」


 お母さんのこの言葉を聞いて、わたしは大声で泣きました。会えなかった寂しさや、一人だった辛さを全て吐き出して、あやくんと笑顔で再会するために。


 そしてその夜、お父さんから改めてそのことを伝えられ、ようやくわたしは実感しました。


「楓ちゃん、まずは受験を頑張ろう」

「はい!」


 あやくんと一緒の学校に通えるかもしれない可能性に、わたしは一念発起し一ヶ月間受験勉強を頑張りました。結果は無事合格、あやくんも合格していたらしく、こちらへ越してくるそうです。


「楓ちゃん、おめでとう。実は揃って合格したのなら、彩芽君を下宿させる約束をしていたんだ」

「これで一緒に暮らせますね~」

「えっ、えっ、えええええっ!?」


 いいことは重なるみたいで、わたしの家にあやくんが下宿することになりました。


(大好きなあやくんと一緒に暮らせるなんて、嬉しさでどうにかなっちゃいそうです)


 嬉しさのあまり、うさぎのぬいぐるみを抱いてお部屋の中を転がり続けましたが、誰にも見られず助かりました。


 それにしても、あやくんを下宿させるのはいいとして、お父さんの異動のお話はどうなったのでしょうか?


 その疑問の答えは数日後、あやくんとの再会の日に出るのでした。

お読みいただきありがとうございます。

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