第二十三話 彩芽くん、庭掃除をする
今回はいつもより早めに投稿します。
今日は土曜日、僕達は入学してから初めての週末を迎えていた。
「授業は昼までであとは休みだね。昼から掃除をしようかな? それとも木彫りでもしようかな?」
「お掃除はわたしがしますから、木彫り見せていただけませんか?」
「それはちょっと。家事は分担する約束だから」
あくまで木彫りは趣味なので、やらないとならない家事や勉強を後回しにしてまですることじゃない。
「でしたら一緒にしましょう。彩芽さんによく助けられてますから、そのくらいしても罰はあたりません」
「そんなに見たいの?」
「はい!」
目元が前髪で隠れていても、期待する視線はしっかり刺さっているわけで、僕は折れるしかなかった。
「わかったよ。楓さん」
「ありがとうございます!」
「日曜も家事が終わったら木彫りをするから」
「佐藤君に楓、おはよう。何話してたの?」
名護山さんが合流し、週末の予定について話してみた。
「なるほどね。楽しめる趣味があるならいいんじゃない? あっ、そういえば日曜日にクラスメート数人がお花見するらしいわ。アタシは今週末は予定があるから断ったけど、二人とも行ってきたら?」
お花見はいいけど話したこと無い人達の輪に入るのはちょっとね。
「遠慮しとく。それにどうせお花見するなら名護山さんとしたいし。楓さんもそう思うよね?」
「はい。初めて出来たお友達とお花見したいです。来週なら芹さんも大丈夫ですよね?」
「アンタ達って、恥ずかしげもなくそういうこと言うのね。まあ来週なら空いてるけど、肝心の桜は大丈夫かしら?」
「この感じなら大丈夫だよ」
少しだけ緑が混じり始めているが、まだ桜の花は残っているので来週末までは余裕だろう。
「わかったわよ。もうせっかくだから国重君も入れて四人でするわよ。佐藤君も男の子一人じゃ居心地悪いでしょうからね」
「そうだね。助かるよ」
こうして、登校中に粗方決まった。
ただ、心節くんは勝手に話を進められたことに文句を言っていたけど。
「お前ら、オレがいないとこで決めるなよ。しかも今週じゃなくて来週かよ。もちろん行くけど今度からメールでもしてくれよな」
「わかった、今度から気を付けておくよ。あと料理はこっちで用意するからね」
これには心節くんがいない間に話を進めてしまったことへのお詫びの意味もある。
「菓子と飲み物くらいなら持参するぞ」
「助かるよ。楓さん、荷物は僕が持つからね」
「わたしも持ちます」
「とりあえずこのくらいにして、今日の授業を乗り切るわよ」
こうして今週最後の学校が終わり、帰宅して掃除を行うこととなり、二人で担当箇所を相談する。
「僕は庭の草むしりをしておくから」
「家の中はわたしですね。洗濯物が乾いていたら言ってくださいね」
「わかったよ」
そうして草むしりを開始し、雑草を抜きながら庭を回ると新たな発見があった。
(家庭菜園もしてるんだ。収穫が楽しみだ)
日当たりのいい場所にプランターが並び、ニンジンやキュウリが植えられている。土に触れてみるとまだ湿っているので、どうも水やりは朝の内に済んでいたようだった。
(空いてるところもあるからミニトマトも植えてみようか。時期的にもうちょっとだろうから)
木彫りをしていた関係からホームセンターに買い物に行く機会が多かった僕は、母親からしばしば野菜の種を買ってくるよう命じられていた。
そのため、ほんの少しだけど種蒔きの時期や育て方、収穫時期に詳しい。
(まあ、野菜そのものへの知識が抜けているから、調理法とかはさっぱりだけど)
一人暮らしだったら育てる意味はないけど、そちらの方は楓さんが頼りになるのでこの知識を活かせそうだ。
ただ、この家庭菜園の主が誰かわからない(多分紅葉さんっぽい)ため、使っていいかあとで楓さんに確認しておこう。
今度ホームセンターに買い物に行くとき、種を買って植えるつもりなので許可取りついでに注意点も教えて貰うつもりだ。
(家庭菜園のことはこのくらいにして、別のところ掃除しよう。あの倉庫とかいいね)
庭の端にある、恐らく百人乗れそうな倉庫を開けると中には肥料にスコップや鍬、さらには非常時のためのさすまたなどが無造作に置かれていた。
「いくら普段使わないものだからって、こういう置き方してると危ないよね......って、鎌の刃も出しっ放しじゃない!」
このままだと掃除する僕が危険なので、一旦収められたものをすべて外に出し、中をハタキと箒で徹底的に掃除する。
その後に用途、形状、材質別に分類した収蔵品を使用頻度順に奥から収納していき、終わる頃には大分日が傾いていた。
(まさか倉庫の整理までしないといけないとは思わなかった。楓さん、ここまで手が回ってないのかな?)
小柄かつ非力、さらにドジっ子な楓さんが倉庫整理をするのは、さすがに苦行にしかならないだろう。
幸い、一度取り出したことで倉庫の中身は全部把握したので、楓さんが倉庫に入ることにはならないはずだ。
倉庫から出たゴミと雑草を一カ所に集め袋に詰めて、口を縛っておく。
これで終わりかと思ったら、最後にムカデが出現した。
駆除しようとほうきを構えた瞬間、上空から黒い影が急降下してムカデを仕留めそのまま捕食した。
「カァァ!」
その捕食者、ハシブトガラスは勝ちどきの声を上げた。
(カラスってムカデ食べるんだ、知らなかった)
驚いている間にカラスは何処かへと飛び去っていった。
仕留めた瞬間が格好よくて、その光景が脳裏へと焼き付いた。
(まるでヒーローみたいだ。それにしてもカラスでヒーローか、昔の彼も僕にとってはヒーローだったんだけどね)
どうしてもカラスという言葉が烏丸竜堂を連想させ、傷口に塩を塗り込められたような痛みが伴うのだけれども、最近は口内炎のときに酢の物を食べる程度の痛みまで和らいでいる。
彼との決着はそう遠くない時期につけられるだろう。
(まあ、今はそんなことよりも早く手を洗わないと。こんな泥だらけじゃ洗濯物には触れないし)
手洗い場で手を洗い、いつも通り二人で洗濯物を片付けるのだった。
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