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第二十二話 彩芽くん、身体計測に臨む

 普通の授業が始まり数日が経過して、今日は身体計測の日だ。


 身長や体重などを計測するので体操服に着替えればいいわけだけど、僕と楓さんを除きみんな体操服に不満があるようだ。


「うちの学校、何故か今どきブルマなのよね。恥ずかしいのよこれ」

「女子はまだいいだろ。男子なんて短パンだぞ? すね毛剃るの面倒だけど、やらねーと見苦しいし」

「僕はそれでも嬉しいけど」


 スタイルのいい名護山さんは恥ずかしがり、心節くんはすね毛の処理に悩んでいた。


 一方僕は生えてないので気にしない。


 むしろ短パンって男の子って感じするからいいよね。


「いや彩芽、お前ブルマじゃないのか?」

「僕男ですよ? 普通に間違えないでください」

「悪ぃ。でもまあ彩芽、お前の着替え場所はトイレか倉庫な?」

「どうしてですか!?」


 それいじめじゃない、と心節くんに抗議したものの聞き入れられないばかりか、何故か僕のせいにされた。


「だってお前の着替え、男が見たら駄目なやつだろ?」

「失礼ですよ!?」


 誰の裸が年齢制限対象ですか!


「ごめん、アタシも国重君に同意するわ。楓が真っ赤になってるもの」

「名護山さん!? 楓さん!?」


 上半身裸を見られた楓さんがいる時点で、この話題で僕の不利は確定だった。


 とはいえ引き下がるのも男としてどうかと思ったので、一度だけ普通に着替えてみたのだが。


「お前含めた男子十八名中赤面十七名はともかく、鼻血六名にちょっと言えないことになってる奴が三名、お前にセクハラかましたのが二名で襲いかかろうとしたアホ一名。この結果をどう思う?」


 どうって言われても唯々困るだけだ。


 でもあえてこう返そう。


「心節くんも赤面したんだね」

「あのな。お前の半裸は刺激強すぎなんだよ! 何で男子の体にくびれや脚線美があるんだよ!」

「「そうだそうだ!」」


 ある男子は顔を赤らめ、またある男子は鼻を押さえながら心節くんに同意する。


 これ、僕のせいかな?


「もう! わかりましたよ! 今度から皆さんが出て行ってから着替えますから!」

「それはそれで、覗かれそうな気がするな」

「もう、茶化さないでください!」


 なお、心節くんの懸念はあとで現実のものとなり、またからかわれることになった。


 さらに数日後、僕の着替えは健全な男子には大変危険なため、隔離部屋で着替えることと学校側から通達が来たのだった。


 それはともかく、身体測定の着替えた僕は他の男子と一緒に身体測定に臨んだのだけど、数値が出されるごとに僕の気分は落ち込んでいった。


「身長も体重も、増えなかった......」

「体型維持できてるってことじゃねーか。おっ、去年より大分伸びてるな」

「心節くんには僕の気持ちわからないよ」


 成長期のはずなのに伸びない身長とか、それなりに食べたり運動しているはずなのに増えないし減らない体重とか。


「女子からしたら羨ましがられるんじゃねーか?」

「そうでもない。おさ......友達の義妹のダイエットに付き合ったことあるけど、僕だけ減らないから裏で食べてるんじゃないかって疑われた」

「そっか。お前も大変だな」


 心節くんに同情された。


 ちなみにそのお......友達の義妹のダイエットは無事成功した。


(前に比べて少しは昔を思い出せるようになってきたけど、相変わらず頭が痛む。それに、楓さんのことは全然なんだよね)


 出来れば早く思い出したいけどそう上手くいかない。


「彩芽、大丈夫か?」

「ちょっと頭が痛くなっただけで、大したことないから大丈夫。次は何だっけ?」

「脈拍と血圧だな。何でんなもん測るんだか」

「異常があったらわかるようにするんじゃないかな?」


 この辺りは特に問題なく終わった。


 そして全ての計測が終わりクラス全員が合流すると、隣の席からすすり泣きが聞こえてきた。


「楓さん!?」

「はぅぅ......ぐすっ、何も成長して、ひぐっ、なかったです」

「楓さん泣かないで僕もだから」


 励ましてみたものの成果は芳しくない。


 どうしよう? なでなでしてあげようかな?


「ねえ、佐藤君の身長って何センチだった?」


 楓さんを撫でてあげるか悩んでいると、名護山さんが僕の身長について聞いてきた。


 唐突だったけどおかしな質問でも無かったので普通に答える。


「150センチちょうどだけどどうしたの?」

「ふぅん。そういえば知ってる? 男女の身長差のあれこれって」

「ナンパされるときによく聞くから、知りたくもないけど知ってるよ。キスするのには12センチ差が理想で、カップルだと15センチ差が理想だって。それがどうしたの?」

「何でもないわ。ただ、佐藤君が相手だと、高い方だと162センチか165センチ、低い方だと135センチか138センチの子が理想になるって思っただけよ。それじゃあね」


 そう言って去って行った名護山さん。


 どうしたんだろう?


 首をひねって考えていると、隣のすすり泣きが突然止んだことに気付き楓さんの方を向く。


 するとそこには顔どころか全身真っ赤になった楓さんの姿があった。


「わた、わたし、あやくんの......はぅぅ!!」


 そして一気に湯気が上がり、机に突っ伏した楓さん。


 ちょっと、大丈夫!?


「楓さん、何があったの!? 楓さん、楓さん!?」


 そんな楓さんを、僕はただ困惑して見ているだけだった。


「名護山、何したか知らねーがわざとだろ?」

「あのまま泣かれるよりはいいでしょ。ところで国重君の身長は何センチ?」

「177センチだ。そういうお前は?」

「......162センチよ」

「顔赤くなってるがどうしたんだ?」

「何でもないわよ!」


 だからもちろん傍観者二人が、こんな会話を繰り広げていたことなど知る由もなかった。

お読みいただきありがとうございます。

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