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第二十一話 彩芽くん、学校生活を送る

学校での日常回です。

 入学式が無事に終わり、今日から普通に授業が始まる。


 昨日寝坊したので、今日は早めに起きた。


 楓さんも同じようで、キッチンから料理をする音が聞こえてくる。


「おはよう、楓さん。手伝えなくてごめんね」

「おはようございます、彩芽さん。あの、お気になさらないでください」

「せめてお皿とかの準備はするからね」


 食事の準備を終え、楓さんと朝食を食べ、洗濯と掃除を行って、干し終わったら制服に着替えた。


「この時間なら歩いても余裕だね。これからも頑張ろうね」

「はい」


 通学路を二人で歩いて行く。


 その道中、名護山さんと合流した。


「「おはようございます。名護山さん」」

「おはよう、二人とも。朝から仲いいわね。一緒に住んでるから?」

「ハモったのは偶然ですよ」


 クラスメートで友達なので、雑談しながら学校へ向かう。


「せっかく同じクラスだったわけだから、ちょっとお願いがあるんだけど」

「何ですか、名護山さん?」

「何でしょう、名護山さん?」

「呼び方と敬語が他人行儀なのよ。せめてどっちか変えてくれない?」


 楓さん以外の女の子を名前呼びはハードルが高いので、名護山さんには敬語で話すをやめることにする。


「わかったよ、名護山さん」

「それでいいのよ、佐藤君。それとも彩芽君の方がいい?」

「君付けならどっちでもいいよ」


 男の子っぽい呼び方をされるの好きなので。


「じゃあ佐藤君で。桜井さんはどっちがいい?」

「あの、わたしは楓でお願いします。芹さん」

「了解、楓」


 楓さんの呼び方も確定したようなので雑談に戻るが、いつの間にか桜の坂道まで来ていた。


「これ、綺麗だけど髪に絡むのよね」

「はい......」

「楓さんのは僕が取ってあげるから。名護山さんもどう?」

「それは楓の特権だから要らないわ。それより早く行くわよ」


 姿勢良く進んでいく名護山さん。


 僕と楓さんはそれについて行き、教室まで着いた。


「おはようございます」

「おはよう、ございます」


 教室に入った僕達に視線が集まる。


「本当に仲いいね。彩姫と楓たんは」

「彩姫~、ハンドクリーム持ってきてる?」

「誰が彩姫ですか。仲いいのは友達だからです。これ僕が使ってるものですけど」


 主に女子からの軽口をあしらいながら自分の席に着く。


 愛用のハンドクリームは結構好評だった。


「おっす」

「おはようございます」


 いつの間にか目の前に国重さんがいたので挨拶すると、敬語をやめて普通に話して欲しいと頼まれたのでそうした。


「こうして彩芽が普通に話してるの聞くと、敬語で話してるときはちょっと冷たく感じるよな?」

「それ、わたしもそう思いました」

「だそうだけど佐藤君、何か心当たりある?」

「もしかしたら、ナンパを断るときに冷たく聞こえるような敬語口調で話してたから、癖になったのかも」


 というか間違いなくそれだ。


 だとしたら早いとこ直さないとマズいかも。


 僕の返しに食いついたのは名護山さんだった。


「確かにナンパってウザいからどっか行けって思うわよね。丁寧に断るの面倒なのよね」

「わかります。急いでると言っても聞かない人っているし」

「三回言葉交わしても響かないなら、どうあっても無理ってわからないのかしら?」

「それより延々と自分語りする人だよ。あれナンパでする人意味不明なんだけど」


 名護山さんとナンパの迷惑行為あるあるで盛り上がった。


「わたし、女の子なのに加われません」

「あれは入らなくていいやつだ。前髪と彩芽に感謝しろよ?」

「はい......」


 しばらく雑談に興じ、チャイムが鳴ったので授業の準備をする。


 最初の授業は数学だった。


 僕は元不登校児だけど、勉強は出来るので特に問題なく終わった。


 楓さんはところどころで悩んでいたようだ。


「はぅぅ、ちょっと難しかったです」

「公式覚えれば大丈夫だよ」


 そのあとの授業でわかったことだけど、楓さんは記憶力がよくて比較的文系が得意らしい。


 なので、理数系は暗記すればとりあえずは大丈夫だと思う。


 そして四限まで終わり昼休みになった。


 クラスメートの行動は学食へ行く、購買にパンを買いに行く、そして持ってきたお弁当を出すという三つに大別される。


 僕は楓さんとお弁当を食べるので机をくっつけた。


 すると名護山さんも一緒に食べたいとのことで、三人で昼食を取る。


「心節くんが居ないからちょっと肩身が狭い」

「それ思ってるの佐藤君だけよ。むしろ悲惨なのは国重君よね。端から見ると女の子三人に囲まれたハーレム野郎にしか見えないし」

「はぅ?」

「楓は気にしなくていいのよ。それより早く食べましょう?」


 お弁当を広げ、三人でいただきますを唱和する。


 楓さん特製のお弁当は、野菜もしっかり摂ることが出来る健康志向のものだった。


 一方名護山さんのお弁当は傾向こそ僕と楓さんのものと似ているが、魚介類が多く入っていた。


「海鮮料理好きなのよ。捌くのはそこまで上手くないけど」

「すごいです......わたし魚捌けませんし」

「僕も興味はあるんだけど、手本が無いと中々出来ないよね。動画だけだとわからないし」


 食事中の談笑が所帯じみているのは、高校生として正しいのかと自問しつつほうれん草のおひたしを頬張る。


 うん、美味しい。


「楓と佐藤君のお弁当、体に良さそうね」

「それだけじゃ無くて、美味しいんだよ」

「はぅぅ、ありがとうございます」


 僕と楓さんのやり取りに、名護山さんは何か言いたそうな目で見つめてきたので聞いてみる。


「......アンタ達、そんなんじゃすぐバレるわよ? もうちょっと警戒しなさいよ」

「気を付けるよ」

「はぅぅ、すみません」


 どうやら名護山さん、僕達が二人だけで住んでることを察してるみたいだった。


 ちなみに、いつわかったので?


「買い物のときよ。食材の量が二人分だったから」

「それは確かにわかっちゃいますよね」

「まあアタシは噂を流したりしないから安心して」


 その辺は信用するしかない。


 話してみて誠実な人だとは思っているので、大丈夫だろう。


 お昼を食べ終わり心節くんが合流すると、話題は学食の話になった。


「うどん頼んだけど結構美味かった」

「ふぅん。値段はどんな感じ?」

「思ったよりは安かったぞ。ちょっと物足りねーけどな」

「そう。お昼のレパートリーに困ったら行くのもいいわね」


 名護山さんは興味あるらしい。


「楓さんのお弁当あるから利用しないと思うけど......楓さん、もし作るの辛くなったら言ってね」

「そんなことは......」

「それならいいけど。個人的に楓さんの料理大好きだから」

「はぅぅ!」


 瞬間的に楓さんの顔が赤くなった。


 念のためお世辞じゃ無いからね。


「いやさ、お前ら」

「言っても無駄よ。二人とも天然だから」

「わかってるって。それと名護山、これやるよ」


 心節くんが名護山さんに缶コーヒーを渡していた。


 よく見ると無糖の文字。何だろうか?


「ちょうど欲しかったんだけど、何でわかったのよ?」

「短い付き合いだけど何となくわかるって。オレもそうだしな」

「......ありがとう」


 よくわからないけど、二人の間ではこの会話で意思疎通できているみたいだ。


 そんな友人二人の謎の行動に疑問を抱きつつ、午後の授業が始まった。


 当然、昼食後は眠くなるわけでクラスの半数が眠っていた。


 僕はまだ耐えているけど、楓さんがちょっと怪しい。


(仕方ない。メモ書いて渡すかな?)


 そのメモの内容は眠ったらちょっと痛いお仕置き、起きてたらご褒美というものだ。


 さて、どうなるかな?


「はぅぅ......寝たら駄目です」


 楓さんは何とか頑張って放課後を迎えた。


「ねえ、寝てた?」

「オレは寝てた。この陽気は反則だろ」


 名護山さんは耐えたけど、心節くんは無理だったみたい。


 仕方ないよね。僕も危なかったし。


「よし、帰るぞお前ら」

「そうね。帰って眠るわ。アタシも限界だもの」

「はぅぅ」

「楓さん、もう少しだから」


 心節くんの号令で僕達は教室を出た。


「それじゃあまた」

「おう、また明日な」

「また......明日です」


 坂を下ったところで心節くんと別れ、さらに朝と同じ場所で名護山さんと別れ、そのまま帰宅した。


「着いたよ、楓さん。ご褒美は何がいいかな?」

「あやくん、なでなでしてください」

「そんなのでいいの?」

「はい。なでなでされるのだいすきですから」


 いつになく積極的な楓さん。


 多分半分寝てるのだろうと考えたが、珍しく意思表示してくれているので素直に頭を撫でる。


「えへへ、あやくんになでられてます~」

「嬉しそうだね?」

「はい。ずっとあやくんにこうされるのまっていましたから」

「そう」


 しばらく撫で続けると、楓さんは急に僕の方に身を預けてきた。


 最初は気絶したと思ったけれど、規則正しい寝息が聞こえてきたので眠っているみたいだった。


(あとで、ちゃんと起きてるときにも撫でてあげよう。その方が嬉しいよね、かえちゃん?)


 そう思い目覚めるまでの間、心優しい友達で、同居人でもある楓さんを膝枕してあげた。


 心の中とはいえ、かえちゃんと自然と呼べたことに気付くのは、もう少し後のこと。

お読みいただきありがとうございます。

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