第十八話 彩芽くん、説明する
前々話で注意していた、同居についての話し合いが早速無駄になります。
教室に着き、すでに登校していてクラスメートと会話していた名護山さんと挨拶を交わす。
「おはよう、佐藤君に桜井さん」
「名護山さんおはよう」
「おはようございます、名護山さん。あの、同じクラスになれましたね」
名護山さんは制服をキッチリ着ていて、黒のニーソックスがよく似合っていた。
相変わらず美人だなこの人。
「そうね。どっちかと同じクラスになれたらって思ってたけど、これは幸先いいスタートが切れそうね」
「はい。あの、名護山さんは学校でのお昼ってどうされるおつもりでしょうか?」
「どうって、普通にお弁当だけど? 桜井さんは?」
「いえ、わたしもお弁当です......」
「それなら、お昼は一緒にするわよ」
楓さんと名護山さんは女の子同士で仲良く話していた。
家事が得意な二人なので、話が合うのだろう。
墓穴を掘りそうなので会話に混ざるわけにもいかず、手持ち無沙汰になり何となく呟く。
「国重さんも、同じクラスなら気が楽なんですが」
「おっ、呼んだか?」
「ひぁっ、おどかさないでください」
国重さんがいきなり背後から声かけてきたので、驚いて変な声が出た。
僕とは違い、男らしい見た目で制服も似合っていた。
イケメンってずるい。
「お前な、そういう声出したら女子って勘違いするっつーの」
「何度も言うように僕は男ですよ」
「それはわかってるって。でも、どっか疑ってんだよな」
髪も短いし男子の制服も着てる、さらに少しだけどのど仏も出てるのに、どうして疑われるのか。
「何ならこの場で上くらいは脱いで証明しますけど? あなたに指示されてって言いますが」
「それやったらどのみちオレが変態扱いされるだろ!?」
バレちゃったか。
別に指示されなくてもするけど、何度も説明してるのに女の子って疑われたから、仕返しだよ。
「冗談です。国重さんが信じてくれない罰です」
「お前、可愛い顔していい性格してるのな」
伊達にいじめから復学して、無視に耐え続けたわけじゃありません。
それに可愛くて性格悪い子って、普通にいるからね。
「絶対に仕返ししてやるからな。あとで覚悟しとけよ?」
「ええ。陰で何かしてくるのでなければ、楽しみにしてます」
「その余裕な顔、果たして持つかな?」
国重さんが何をしてくるのかわからないけど、いじめの類でなければ問題ない。
そう思い席に着いた僕だったけど、早速後悔する羽目になる。
それは、教室に若くて体格のいい男性教師が入ってきたのがきっかけだった。
「あー、これから一年間お前らの担任になる海崎行成だ。早速だがお前ら、これから入学式があるので体育館に移動だ」
「はいせんせー、入学式の前に気になって仕方ないことがありまーす」
海崎先生に国重さんが手を上げて質問している。
「何だ国重、聞いてやるから手短にな」
「ありがとうございまーす。うちの教室に、男装女子がいるんですけどー?」
「男装、ああ佐藤のことだな。実は俺も気になっていたんだ。男子とは聞いているが、実際に見ると疑わしいな。どうなんだ佐藤?」
海崎先生から僕に質問が投げかけられ、クラスメートほぼ全員が僕に注目した。
国重さん、仕返しってこれですか!?
羞恥に顔が熱くなるのを自覚しつつ、国重さんを睨むも当人は涼しい顔をしている。
(もう、見世物じゃないんだからね! 腫れ物に触れるような扱いよりはマシだけど!)
衆人環視の中、いつまでも沈黙しても仕方がない。
覚悟を決めて僕は立ち上がる。
「見ての通り僕は男です。別に男装しているわけでも化粧しているわけでもないですよ」
「リアル男の娘キター」
「はい。僕は男の子ですよ。何なら上を脱いで証明しても......楓さん、どうして真っ赤になってるんですか?」
僕の発言の最中、楓さんがトマトのように赤くなっていた。
その様子で僕は、一度寝間着の前を全開にしたことがあったのを思い出した。
「あの日のあやく......彩芽さんのはだかが」
「あれは僕がうっかり肌着着るの忘れてただけですからね!?」
「はぅぅ、すごく、せくしーでした......お風呂上がりもでしたけど」
あの朝のことを思い出し動揺し自白、いや自爆する僕と楓さん。
当然注目しているクラスメート達がこの発言を聞き流すことはなく、追及に晒されることとなる。
「肌着って、ちょっと佐藤君!?」
「しかも風呂だと? 何があったんだよ!?」
「おいおい、どういうことだ? 佐藤、桜井、説明しろ。気になって入学式どころじゃないぞこれは」
海崎先生も、教師として見過ごせないようだった。
隣を見ると目がぐるぐるしている楓さん。
これは、僕が説明するしかないみたい。
笑顔で、落ち着いて言えば大丈夫なはず。
「事情があって、楓さんの家に下宿させていただいているんです」
「それって同棲ってやつ?」
「同居、もしくは居候です。他にもルームシェアとかハウスシェアとも言いますね」
男女二人きりで生計を一にしているけど、今のところ恋愛関係にないので同棲ではないと断言できる。
「じゃあ二人の関係ってなに?」
「今のところ友達、ですかね。複雑な事情がありまして」
幼馴染だけど、幼馴染とは心情的に言いにくいので、わざと深入りしにくい言葉を使いはぐらかす。
こうやって言えば、勝手に誤解してくれるだろうし。
「それより海崎先生、入学式まで時間ないですよね?」
「お、おう......」
「さて、皆さん参りましょう。遅れたら大変ですからね」
クラス全体を見渡して、にっこりと笑顔で呼びかけた。
「「「イエス、マム!!」」」
すると、狼狽している楓さん、呆れている名護山さんの二人を除いた全員が声を揃えてそう答えた。
僕は男子だって!
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