第零話その一 彩芽くん、回想する(※閲覧注意です)
彩芽が過去に受けたいじめの話です。胸糞展開なので苦手な方は注意を。
プロローグ部分が読みづらいと感じたため、一度削除し再投稿しました。
目的地へ向かう電車の中で、僕、佐藤彩芽は微睡んでいた。
薄ぼんやりとした意識の中で、思い返すのは過去のいじめのこと。
(何故、今思い出したのかな? ああ、新生活への不安があるんだね)
僕はきっと不安なのだろう。中学校のときと同じ末路にならないかと。
(ううん、きっと大丈夫。いじめられたって不登校にはならないし、反撃する強さも持った)
ただ思い返すことは悪くないと考え、このまま明晰夢を見ることにした。
中学校に上がったばかりの僕は、烏丸竜堂とクラスが離れて、不安の中で過ごしていた。
今もそうだけど当時はもっと人付き合いが苦手で......幼馴染以外とはあまり話さなかった。
そんな僕は最初の中間テストで全教科0点、学年最下位という不名誉な記録を樹立してしまう。
そのため僕の立ち位置は非常に低い位置にあった。
失地を挽回しようとそのあとの期末では努力と見直しを徹底したところ、順位が極端に上がったのだけど、今度は不正を疑われることとなり先生から追及を受けた。
この件に関して、その当時仲が良かった烏丸竜堂へと相談した。
「先生にまで疑われるとは思わなかった」
「アヤ、今度呼ばれたら問題用紙と解答用紙を持っていったら?」
「えっ、なんで?」
「だって君の0点の理由って、名前書き忘れに解答欄への誤記入、さらに問題用紙だけに答えを書いたことだから」
結果的に中間テストの、問題用紙と解答用紙を持参し、疑惑は偽りだったと証明したんだけど、思えばこの時点でいじめを受ける下地は出来ていたのかもしれない。
女みたいな見た目で何の取り柄も無い駄目な奴が、カンニングで順位を急激に上げたという噂話を聞けば、まあ普通に叩いて当然だよね。ましてや、呼び出しを受けているのだから信憑性は高い訳だし。
ただ、このときは陰口と消しゴムをぶつけられる程度で、何も無かったんだけど。
問題は一年の三学期辺りから、男子の間で嘘告白という訳のわからない遊びが流行ったことだった。
それは手紙で呼び出し、嘘の告白を行い答えた相手を嘲うという遊びだった。
その標的となったのは目立たない女子が主だったらしいけど、何故か外れ枠扱いで僕への告白もあった。
その頃の僕は今よりも素直だったから、同性とはいえ告白されたときは必死に悩んだ。
それで友達から始めませんかと返したところ『お前みたいなオカマ野郎とは友達にもならねーよバーカ』という返答をいただき、潜んでいた他の男子も嘲笑した。
それで僕のあだ名はオカマ野郎になり、僕に嘘告白して嘲うという行為が日常化した。
「それ、普通にいじめだから。した奴らの名前と顔くらい覚えてるよね? ちょっと殴りに行くから」
「そんなことしたらリンが停学になるからやめて。別に気にしてないから」
「そう? だったら俺は手を出さないよ」
そう、僕は別に気にしていなかった。それはそれとして、心は傷付きストレスも貯まっていたらしい。
この日から、たまに吐き気を催すようになった。
春休み、いかにもモテそうなイケメンがナンパをしてきたので、思わず「僕は男です。貴方見た目いいのに見る目は無いんですね」と暴言を吐いてしまった。
顔を真っ赤にした相手を見て、少し溜飲は下がったけれど、これが間違いであったと気付くのはすぐだった。
二年生へと進級したものの、烏丸竜堂とは相変わらず別のクラスで、僕の立ち位置も遊びも特に変わらなかった。
女子からの、上履きに画鋲や机に制汗剤をぶちまけられるという嫌がらせが加わっただけで。
この辺りで吐いたものに、赤いものが混じるようになった。
どうも暴言を吐いた相手は学年一のイケメンだったらしく、プライドを傷付けられ、女子を使って僕への嫌がらせをさせたようだった。
女子の中には、イケメンに告白されたことに嫉妬して僕を攻撃していた人もいた。
烏丸竜堂に相談しようと思ったけれど、何故かこの時期から距離を取られ、烏丸竜堂の一つ下の義妹、なずなちゃんの顔も見なくなった。不登校になる前に一度だけ会ったけど、どうしてだか辛そうな表情をしていた。
相談出来なかった以上、僕が考えた解決法はこちらからの謝罪だった。
髪を丸刈りにして、土下座で謝った。踏みつけられても謝り続け、一晩校庭でし続けるなら許すと言われれたのでそうしようとしたのだけど、八時くらいで宿直の先生に見つかって追い出されたため、約束は果たせなかった。そのことが彼の逆鱗に触れ、いじめが加速した。
学校側も僕が何も言わなかったために、加害者側の言い分を丸呑みにして、いじめは黙認された。僕を疑った教師は学年主任になっていたから、自分のミスを隠すために放置していた。
ひどくお腹が痛む。その痛みは火傷した痛みに近かった。
そうして、中学三年になり久しぶりに会った烏丸竜堂に、こう告げられた。
「君って本当にバカだよね。そんなだから誰も君を必要としないんだよ」
「えっ、リン......? 君は僕と幼馴染だよね?」
「幼馴染じゃ無かったら、とっくの昔に離れてるよ。大体、君のせいでな――」
僕の意識は、ここで途絶えその後目覚めたのは病院だった。
そこで重度のストレス性胃炎と診断された。今はどうにか胃も治ったけど。
退院して登校しようとしたら、激しい吐き気に襲われ通学路を歩くことすら出来なくなっていた。
あとはもう、僕が黙っていた胃炎の原因を察した両親が学校へ抗議し、僕は精神が安定するまでの間休学することになった。
ちょっとしたきっかけで木彫りと出会い、心の中に貯まっていたものを吐き出すように、一羽の兎を作り出した。
これがきっかけとなり復学する強さを得られたのだけど、待っていたのは存在の無視だった。
仕方が無いのでこちらも無視しながら噂話に耳を傾けると、どうやら烏丸竜堂も休学していたらしい。
烏丸竜堂のことを思い出すだけで気持ち悪くなるし、過去を封印したので最早他人でしかないから、休学の理由に興味は無かった。
けれど、いじめの元凶扱いされていたことには腹が立った。いじめを行った生徒や指示した生徒、教師さえも烏丸竜堂をスケープゴートにしていた。
確かにトドメを刺したのはそうだけど、すべての罪を着せて自分達はのうのうと暮らしているなんて間違っている。
そこで僕は、復讐を決意した。幸いにして元々記憶力はよかったので誰が何をしたのか克明に思い出すことが出来る。
あえて烏丸竜堂だけは省き、いじめの内容と名前、顔写真を列挙した上でこれまで向けられた悪意を返すように、記事を作成した。
それが終わると、高校受験のための勉強に集中し、無事に合格した。
(思えば、僕が弱かったから悪かったんだね)
拒絶するだけの強さがあれば、違った結果になったのかもしれない。あるいは、頼らないほど強くても違っただろう。さらに言うなら、八つ当たりしない強さがあったら。
(今の僕は強くなれてるかな?)
虚空に問いかけても答えるものは無く、僕は目的地に到着するまで深い眠りへと落ちていくのだった。
お読みいただきありがとうございます。