表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/156

第十二話 彩芽くん、お出かけする

 楓さんとの関係が変わって数日が過ぎたが、日々の生活に変化は無い。


 というか、未だに生活については手探り状態にもかかわらず、関係についてはスムーズに変わりすぎな気もするけど。


 昼食を終えた午後、僕はリビングで楓さんと向き合っていた。


 内容はシチューで、美味しかったとだけ言っておく。


「楓さん、そういえば食材そろそろ切れそうじゃない?」

「少しずつは買っていたんですけど、もうかなり危ないです」


 ほぼ毎日料理を手伝っているからわかる、冷蔵庫の中身が心許なかったのだ。


 見立てでは多分明日には危険水域になる。


 食事は基本的に楓さん任せなので、何が足りないのか僕には判断つかない。


 だったら、僕の出来ることは一つだ。


「じゃあ一緒に行こうか」

「はぅぅ、お買い物でーとです」


 真っ赤になる楓さん。

 

 いや、これはデートに入らないからね。


 もちろんこの間、町を案内してくれたことも入っていない。


 あっちは中断せざるを得なかったけど。


「そんな大袈裟な。まあ楓さん一人だと心配だし、僕も買っておきたいものあるからね。ホームセンターにも寄りたいんだけど、場所わからないから教えてくれると助かるよ」


 僕と楓さんという、小柄な二人なので掃除一つするのにも苦労している。


 だからこそ、掃除に役立つ便利道具をホームセンターで買っておきたい。


「でしたら、お着替えしてきますね」

「その服じゃ駄目なの?」

「はぅぅ......」


 僕の疑問に、楓さんは部屋に閉じこもってしまった。


 思わず聞いちゃったけど、確かにあの格好で外出たら完全に小学生に見えるよね。


 さて、僕も着替えよう。


 そう思い自室で服選びをする。


 そうだな、無難にシャツとジーンズにしよう。


 見た目に反してというか、ある意味見た目通りというか、僕のファッションセンスは良くない。


 そうハッキリ自覚しているので、攻めた格好すると自滅する。


「シャツの柄は、梵字と千手観音と七福神、どれにしようかな?」


 どう考えても柄が攻めたものだけど、ちょっと言い訳させてほしい。


 まず僕は普通に外出したら、割と男からナンパされる。


 実際この町に来てから何度かされた。


 ナンパ対策といえば男友達と出かけることだけど、生憎いじめの件でお......友達と離れたため、復学後は一人でどうにかするしか無かった。


 そこで目を付けたのがシャツの柄だ。


 明らかに変わった柄のものを着ているとあまり人が寄ってこないので僕にとっては大変ありがたく、気付けば結構な数が集まっていたのだ。


 個人的にも格好いいと思っているので、普段着にもしてるほどだ。


「さて、どうしよう?」


 問題はこれを着て楓さんと出掛けるのが是と言えるのかだ。


 梵字だけでも存在感があり、良い意味でも悪い意味でも人目を引きそうだ。


「友達と出かけるという意味なら問題ないと思う。でも女の子と出かけるという意味なら」


 ぶっちゃけ無いと思う。


 それに多分柄次第では楓さんが怯える。


 僕の持ってる服の中で一番迫力があるのは閻魔大王シャツだ。


 これを着た状態で泣いている子供を助けようとしたら、余計に泣かれたという逸話があるほどだ。


 だがほとんどそういう柄の服しか持っていないので悩む。


 仕方ないので、木工作業用に買ったサロペットと合わせて、柄を隠そう。


 ナンパされる確率は上がるけど、楓さんと出掛けるなら極力まともに見える格好で行こう。


 そうして服を選んで部屋から出る。


 すると楓さんも着替え終わったようで出て来た。


「わぁ、あやく......彩芽さん、すごくお綺麗です」

「ありがとう」

「あの、わたしはどうですか?」


 楓さんはケープの付いたシスター風の服に、白いニーソックスを合わせていた。


 コスプレっぽいけどすごく可愛い。


 前髪で顔を隠していなければもっとよかったと思う。


「うん。可愛いよ」

「あぅぅ///」


 照れたとき、顔全体が赤くなるからすぐにわかるんだよね。


「ところでそのニーソックスは外出用?」

「はい。似合いませんか?」


 正直、細い足にすごく似合っている。


 本当はすごく可愛いので、何を着ても似合うだろうけど。


「ううん。そっちの方も似合ってるよ。艶のある長い黒髪をストレートにしてるから、対比になっていいし」


 いつもうさ耳パーカーのフードを被っている上、二つにくくっているため、ここまで長い髪だったと改めて気付く。


「長い髪は好きですか?」

「うん。触りたくなるからね」

「あぅぅ///」


 楓さんの髪はさらさらして、触り心地いいんだよね。


 でも触るとまた気絶すると思うので今は我慢。


 帰ったあとで頼んだらいけるかな?


「彩芽さんは、髪伸ばさないんですか?」

「うぅ!」


 煩悩まみれの僕に、無自覚でクリティカルなひと言を言い放った楓さん。


 僕の髪は普通に短髪だ。


 それでもボーイッシュとか言われないのは、それだけ女の子っぽい顔なんだろうね。


「......今でも性別間違えられるのに、伸ばしたら本当に男って思われなくなるからね。でも正直この長さに保つのも面倒だから悩む」

「その、伸ばしたらどうなりますか?」

「ある程度の長さで癖っ毛になるけど、それ以上は怖くて伸ばしたこと無い」


 父さんと母さんの髪質や髪型から予測して、伸ばすと多分ゆるふわ系になると思う。


 いっそアフロになるならまだ男っぽいのだけど。


「その、彩芽さんには悪いんですけど、見てみたいって思います」

「機会があればね。さてと、さっさと買い物終わらそうか」

「はぅぅ、待ってください」


 買い物袋、いわゆるエコバッグを片手に持ち、靴を履く楓さんを待つ。


 玄関を出た直後、ちょっと強引に袋を奪い取る。


「あっ」

「このくらい持つよ。これでも僕の方が力持ちなんだから」

「......ありがとうございます」


 こうして、僕と楓さんは家を出た。


 ご近所さんに見られていなかったのは僥倖だった。

お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ