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第五十話 彩芽くんと楓ちゃん、誓いのキスをする

二人の視点です。

 ドレスに身を包んだ僕は、合図があるまで一咲義父さんの部屋に待機するように言われた。ごっこ遊びの延長線上とはいえ、結婚したい相手とするのは本気で緊張してくる。


(そういえば、結婚式の誓いの言葉って何を言えばいいのかな?)


 待っている間手持ち無沙汰なのもあって、リンが出ていく前に置いていった携帯で誓いの言葉をいくつか調べ、今の僕達の状況に合っている、人前式でよく使われる言葉を元に文章を作り出した。これでいいかどうか、かえちゃんに送って確認してみた。一瞬かえちゃんが携帯持っているか心配だったけど、返事が返ってきたので杞憂だったようだ。


『いいと思います。はぅぅ、気が回らなくてすみません』

『気にしないで。せっかくだから楽しもうよ』


 とりあえずおかしくなかったのでひと安心だ。欲を言えば読み上げる練習もしたいけど、残念ながらここで扉がノックされたため時間切れとなった。部屋に入ってきたのは心節だった。


「意外だね。リンが来ると思ってた」

「アイツらは司会進行だからな。んで、お前らを連れ添うなら男女がいいだろってことで、俺と芹がすることになった。時間も押してるからとっとと行くぞ」

「わかったよ」


 心節の差し出した手を取り、僕は部屋を後にした。ちょうど同じタイミングで隣の部屋から芹さんがかえちゃんを連れて出て来る。


「「あっ///」」


 僕とかえちゃんはお互いの着飾った姿を初めて目にし、その美しさに目を奪われた。かえちゃんは白無垢姿で、角隠しもしっかり頭にしていた。僕もベールを被っているので、お互い顔はよく見えないが、それでもよく似合っていることだけはわかった。


「かえちゃん、すごく綺麗だよ」

「あやくんも、素敵です」


 短く言葉を交わし、それぞれ僕は心節に、かえちゃんは芹さんに手を引かれて一階に降り立ち、会場となっているダイニングへ入場した。


「彩姫も楓たんも可愛い♪」

「ドレスと白無垢、どっち着ようかこう見ると悩むわ。どっちも綺麗だから」


 純粋な参列者役の百合さんと牡丹さんから、そんな呟きが聞こえてくる。女の子が多いから、こういう話題になるのは自然と言えば自然か。テーブルの前まで僕達を案内すると心節と芹さんは椅子に座り、代わりにリンとなずなちゃんが傍まで近寄ってきた。


「さてと、早速始めようか。ほら、挨拶して」

「えっ? 誓いの言葉を言うだけじゃないの?」

「それだけじゃ盛り上がらないから、雰囲気作りのためだよ」

「しょうがないな。えー、本日は僕とかえちゃんの結婚式にお集まりいただき、ありがとうございます」

「あの、皆様ありがとうございます」


 こんなのでいいのかと思ったけど、意外と悪くなかったようで「お幸せにー」とか「おめでとう」と声援が送られてきた。


「まあ及第点かな? この次は新郎新婦の紹介だけど」

「リンにい、今さら。だったら来賓の言葉の代わりに、預かった手紙を読む方がいい」

「それがあったね。アヤ、実は樹さんから今回の式に関して、手紙を受け取ってるから読むね」


 って、父さんも協力してるの!? リン、適当でごっこ遊びみたいなものと評した割には、各所に本気度合いがうかがえるよ? 僕にジト目で見られていても構わずに、リンは手紙を読み上げ始めた。


『彩芽、この手紙を読んでいるということは、無事に竜堂君達がそちらに辿り着いたのだな。それにしても、お前達に内緒で結婚式を企画していると聞いて驚いたぞ。その真剣さと、お前達の気持ちを鑑みてお祝いの言葉を送ることにした。なお、これは俺こと佐藤樹、妻である佐藤撫子、さらに桜井一咲、桜井紅葉の四人から送る祝いの言葉だ。結婚、おめでとう』


 前置きが長く本文が一言という、ある意味で父さんらしい手紙だった。しかも父さんだけじゃなくて母さんとかえちゃんの家族まで全面協力してるとは思わなかった。いや、嬉しいけどね。


「子供の遊びって断じないって、いい両親じゃない」

「だな。まあそうでもなければ婚約なんて許さねーか」

「こういう大人って憧れるね、牡丹」

「そうね。お互い結婚しても親友でいたいわね、百合」


 家族からの手紙はみんなから高評価を受けた。確かに子供の恋愛に本気で向き合ってくれるのはいい両親だって僕も思うよ。でもさすがにこれはかなり恥ずかしいんだけど。かえちゃんも真っ赤になってるし!


「さてと、あまり時間もないことだし、そろそろ誓いの言葉といこうか。準備はいいかな? 出来てなくてもさせるけど」


 強引な進行だったけど、言うべきことは決まっているので僕は頷いて、かえちゃんの手を取り誓いの言葉を紡ぎ始めた。


「「今日のこの良き日に、わたし達は、皆様の前で夫婦の誓いをいたします。常に二人寄り添い、力を合わせて、暖かく幸せな笑顔の絶えない家庭を作っていきたいと誓います。まだまだ未熟な二人ですが、これまで通り見守ってくださると幸いです」」

「新郎、佐藤彩芽」

「新婦、楓」


 誓いの言葉をかえちゃんと声を合わせて言い終えると、いよいよキスをすることになる。僕は深呼吸して覚悟を決め、かえちゃんへと向き直った。




 誓いの言葉を無事に終え、いよいよキスすることになりました。神様に頑張ると宣言し、さらに願掛けとしてあやくんとの特別なときに履いているルーズソックスを履きましたけど、それでも不安と緊張ですごくどきどきしています。


「はぅぅ、ファーストキスがこういうのって、緊張します」

「へっ?」

「えっ?」


 わたしの質問に、不自然な反応を示したあやくん。それを見て、何故か心節さんが渋面を作り天を仰ぎました。


「彩芽。お前自爆してんじゃねーよ」

「いやそっちのことじゃなくて、昨日の夜の......あっ!」

「昨日の夜、ですか? それにそっちって」


 とても気まずい沈黙がこの場を支配します。やがて、耐えきれず観念したあやくんが釈明を始めましたが、その内容はわたしにとって驚くべきものでした。


「その、実はキス、初めてじゃないんだ。寝ぼけてキスしたのと、寝ぼけたかえちゃんにしたので合計二回」

「はぅぅぅぅぅぅ!? 今朝のあれ夢じゃなかったんですか!?」


 夢だと思っていたことが実際にあったのは嬉しいですけど、記憶が朧気でキスした感触をまったく覚えていないので総合的に考えると悲しいです。


「彩芽、無意識でやらかしただけならまだしも、襲ってんじゃねーよ」

「そうだよ。ヘタレの君達がせっかくキス出来るように整えたのに」

「いや、そのかえちゃん寝ぼけてたけど、キスして欲しいって言って目を閉じてたからつい」

「明らかに誘ってるわね。楓たん、キスのことで頭いっぱいだったんじゃない?」

「はぅぅ!」


 た、確かにお参りしてからずっとキスをしたいと思ってましたけど、わたし、あやくんにそんなこと言ってたんですか?


「あたし的には情状酌量の余地はあると思うよ」

「とりあえず彩芽君、誓いのキスはしてあげなさい。フリなんて逃げは許さないから」

「キスをみんなで撮影する。この辺りが落としどころ」


 そういうわけで、みなさんにカメラを向けられたまま誓いのキスをすることになりました。


「あやくん、お願いします」

「わかったよ、かえちゃん。んっ――」


 わたしもあやくんも真っ赤になりながら唇を重ねて、みなさんの前で結婚の誓いを立てたのでした。唇を離すと同時に気絶しちゃいましたけど、それも含めていい想い出になりました。目覚めたあとでおめでとうと祝福され、なずなちゃんとカラスさんもとい竜堂さんが慌ててタクシーに乗り込んで行ったのがきっかけとなり解散になりました。


「結婚式、よかったですね」

「グダグダだったけどね。でも、わざわざ僕とかえちゃんのために開いてくれたから、いい想い出になったよ。ただ、今度自分達でやるときは、もっと入念に打ち合わせしていいものにしよう。何なら今からでも調べて数年後の本番に役立てよう」

「あの、つまりそれって」

「結婚式はいつにしようって相談だよ。でも、その前に――んっ」

「んんっ!!」


 いきなり、あやくんがキスしてきました。はぅぅ、また気絶しそうなくらいどきどきしてます。


「キスに慣れるところからだね」

「はぅぅ」


 この日をきっかけに、あやくんからことあるごとにキスされるようになりました。最初は緊張したりしていましたが、次第に慣れてきて、卒業後に行われた結婚式ではしっかりキス出来ました。

お読みいただき、ありがとうございます。残り一話です。

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