第四十九話 彩芽くんと楓ちゃん、プレゼントを受け取る
二人の視点です。
リンのあとを着いて訪れた一咲義父さんの部屋、その中心には一着の純白のドレスが飾ってあった。ベールもあるため、一目でウエディングドレスだとわかった。問題は何をどうすればこれが僕へのプレゼントになるのか、見当がつかないということだった。
「なんだこれ?」
「ウエディングドレスだよ。アヤが着る分のね」
「どうして僕の着る分がドレスになるの!? というか結婚式なんてまだ先だよ!?」
リンの言っていることがこれっぽっちも理解出来ず、半ば悲鳴にも似たツッコミを放つ。それに対し、リンは一つずつ説明していった。
「まず、結婚式のことについてだけど君、サクラちゃんとの約束で、再会したら結婚するって言ってたじゃない」
「確かに言ってたけど、まだ僕達学生だよ?」
「知ってる。だから今からするのは、お手製の結婚式だ。といっても結婚式に詳しくないし、時間もあんまりないから、ごっこ遊びに近いけど。そうそう、誓いの言葉は君達で考えてね」
「おいおい、こんなものまで用意しておいて、式自体は適当かよ。だが、面白そうだから乗ってやる」
話を聞いた心節が軽くツッコんだものの、最終的にはリンの案に賛同した。二対一と不利になったのだけど、別に結婚式そのものに反対する理由はないことに気付く。
(いや、別に結婚式はしてもいいよね? 誓いの言葉をやるのならキス出来る機会もあるだろうし)
最初は寝ぼけて、二度目は寝込みを襲ってと、とても他人どころかかえちゃんにすら言えないキスしかしていないので、このチャンスは活かしたい。ただ一点、どうしても引っかかることはあるけど。
「まあ、たとえごっこ遊びに毛が生えたものでも、結婚式をしたら想い出に残る誕生日になるだろうし、リンとなずなちゃんの気遣いを無駄にするのもどうかと思うからやるのは構わないよ? でも、それならどうして僕の衣裳はドレスなのかな?」
これまで何度か女装してきたけれど、さすがにウエディングドレスは一線を越えている。正確にはウエディングドレスっぽいものだろうけど、指摘するのは野暮というものだ。僕の疑問に対するリンの返答は、ある意味身も蓋もないものだった。
「いや、君サクラちゃんとの結婚式では、どうあったってドレスは着ないでしょ? だから、その代わりに今着て貰おうと思ってね。それとなずなちゃんが、コスプレ以外の男物の服は作っても面白くないってさ」
「どっちも理由になってないよ! しかもなずなちゃん、それ酷すぎない!?」
「いいんじゃねーの? そこは企画した奴の悪ノリを通したって。この演出を思い付かなかった時点でお前の負けだ」
確かに、女装とはいえウエディング衣裳を用意して、そのまま誕生日パーティーに結婚式を組み込むなんてアイデア、欠片も思い付かなかった。僕は敗北を悟り、がっくりとうなだれ投げやり気味に吐き捨てた。
「わかったよ。着ればいいんでしょう?」
「ありがとう、心節。このままアヤを着替えさせるの手伝って」
「おう。さあ彩芽、観念するんだな」
「せ、せめて下着だけは自分で――ひゃぁぁぁぁっ!!」
とりあえず下着は許してくれたのだけど、僕含め男子しかいないため着せ方がわからず、無理矢理力ずくで着せられ、僕は悲鳴を上げたのだった。ちなみに、ドレスは僕の身長に合わせて作られていて、裾がギリギリ床に着かなかった。これを作ったなずなちゃんのドヤ顔が目に浮かぶ。これでかえちゃんを見とれさせたら、キスもしやすいかな?
そして、あやくんがお父さんのお部屋に入った頃、わたしはお母さんのお部屋で、なずなちゃんからの贈り物に目を丸くしていました。それは結婚式で着る白無垢でした。わたしに合わせたからかサイズは小さいですけど。既製品かと思いきや、まさかの手作りで二度驚きました。
「写真とかを参考にして自作した」
「はぅぅ、すごいです」
わたしも裁縫は得意な方ですけど、さすがにここまでは出来ません。他のみなさんも、その再現度に驚いていました。
「うわっ、すごっ!!」
「......器用ね」
「ねえなずなちゃん、これ楓に贈るために、ここまで来たの?」
「理由の三割。あとは着てるところを生で見たいのと、カエデちゃんとアヤにいに、結婚式をさせたかったから」
「はぅぅ!?」
芹さんからの問いかけに、なずなちゃんはとんでもない理由を答えたのです。わたしとあやくんの結婚式!?
「何それ、面白そうじゃない!」
「いいね。すっごい楽しそう♪」
「年齢的に出来ないとか野暮な話はいいとして、その結婚式って何するの?」
芹さんが質問しますが、なずなちゃんは明らかに目を逸らしました。
「......誓いの言葉以外はノープランで、グダグダになるの確定」
「それでよくやろうって思ったわよね。でも、考えてみたらアタシもケーキ入刀と誓いの言葉、あとお色直しくらいしかイメージないから、学生に出来るのはそれくらいかも」
「誓いの言葉と言っても、キリスト教式、神前式、人前式で異なるんですけどね」
ノープランということは、今回は人前式の、参列者に対して新郎新婦が行うものになるでしょう。その場合、内容はオリジナルのものが多いそうなので、そのときまでに内容を考えないといけません。
(はぅぅ、いい内容が浮かぶでしょうか? 一度あやくんと打ち合わせしないと)
そんな心配をしていたわたしでしたが、牡丹さんの一言でそれどころではなくなりました。
「誓いの言葉をするなら、キスもするの?」
「やります!」
「さすがに人前だから、キスはフリでも――カエデちゃん?」
キスと聞いて、わたしは即答しました。なずなちゃんをはじめみなさんが怪訝そうな顔で見ていましたけど、このチャンスは逃せません。
(あやくんと、キスしてみせます!)
そう決意して、一度お部屋に戻り肌襦袢を持ってきて、お着替えしました。あとはみなさんに着付けしていただき、白無垢に着替えます。ただ、あとちょっとの勇気が欲しかったので、みなさんが部屋から出たあとにこっそり足袋の代わりにルーズソックスを履いちゃいました。なんだか頑張れそうな気がしてきました。
お読みいただき、ありがとうございます。残り二話です。