第四十八話 竜堂くん、誕生日を祝う
竜堂視点です。
来客はどうやらアヤとサクラちゃんの友達で、誕生日を祝いに来たようなので、即座に意図に乗っかった。正解だったので一安心だけど、せめて来客があるなら一言欲しかったよ、アヤ。
「いきなり訪ねてきたリンにそれ言う資格ある?」
「あはは、細かいことはいいじゃないか。とりあえず飾り付けと簡単な料理は用意したよ」
「ケーキは持ってきてるよ。こっちで料理しながらやるつもりだったけど、あるのなら早く始めよっか」
「待って、その前にすることがあるわ」
なずなちゃんより少し小柄な女の子が、ケーキをテーブルに置きながら発した言葉を、背が高くて大人っぽい女の子が制した。
「あなた達彩姫と楓たんの幼馴染よね? 私は南条牡丹。こっちは三代百合。あそこの男の子が国重心節君で、その隣の子は名護山芹さんよ」
「教えてくれてありがとう。俺は烏丸竜堂、この子は義妹のなずなちゃん」
「彩姫から聞いてる。年下と付き合ってるもの同士、仲良くしたいわ」
「そうなんだ。じゃあ一度みんなと連絡先交換しようかな? 長い付き合いになりそうだし」
それにしてもアヤって、女子から姫呼ばわりされてるのか。まあ嫉妬されるよりはいいのかもしれない。ともかく、あまり時間もないことだし、このまま流れでサクラちゃんの誕生日会を執り行う運びとなった。
「はぅぅ、みなさん、ありがとう......ございます」
雑な感じで始まったものの、サクラちゃんは祝われたことが嬉しかったのか、涙を流しながらお礼を告げた。この子一人じゃ友達作れないタイプだから、こういう友達主催の誕生日パーティーとか、ずっとなかったんだろうな。
(これが前座って知ったら、どんな顔になるのかな?)
俺となずなちゃんが考えたネタは、誕生日プレゼントを渡す段になって公表するため、それまではこっちのみんなが企画した段取りをなぞることになる。まずはケーキに立てられた蝋燭の火を吹き消すお決まりのイベントを行ったのだけど、大方の予想通りサクラちゃんは一息で吹き消すことが出来なかった。
「はぅぅ」
「ゆっくりでいいから、焦らないで」
アヤのアドバイスのおかげで、時間はかかったものの無事に火は消えた。そこからはケーキと料理を全員で食べた。時間もあまりなかったのでキッシュを作ってみたけど、意外と好評だった。
「って、お前が作ったのかよ」
「うん。なずなちゃんは今のところ練習中だから」
「オレも料理覚えよう」
「僕もお粥くらいならなんとか」
「アヤ、せっかくの二人暮らしなんだから、もうちょっと料理を頑張りなよ」
「一応、練習してるんだよ?」
女性陣にレシピを聞かれたり、アヤの料理音痴っぷりを弄ったりしているうちに食べ終わったので、そのまま誕生日プレゼントを渡すことになった。先陣を切ったのはもちろんアヤだった。
「かえちゃん、誕生日おめでとう。これプレゼントだよ」
「あっ、ありがとうございます♪」
アヤは二羽のうさぎが彫り込まれた木製のマグカップと、何故か靴下を十足近く渡していた。見た感じ長そうなので、ニーソックスとルーズソックスだろう。まあサクラちゃんが靴下にこだわりあるのは見てとれるし、受け取ってすごく喜んでるからいいけどさ。
「普通にマグカップだけでよくない?」
「自作ならともかく、買ったものだからちょっとね。一応彫刻は入れたけど」
「それ充分手が込んでるって」
「はいはい、彩姫も竜堂君もその辺にしてテンポよく渡していくよ」
「私達からはこれ。肌に合わなかったら別のにするから」
百合さんと牡丹さんは、化粧品セットをプレゼントしていた。確かに高校生としてはサクラちゃんは化粧っ気がなさ過ぎる。なずなちゃんどころか、アヤよりも化粧の経験ないんじゃないかな?
「ありがとうございます。あの、仕方もわからないので今度教えてくれますか?」
「彩姫に教えて――最初から聞くのは酷か」
「そうだよ。好きな人にお化粧させられるのも悪くないけど」
気持ちはわからないでもない。デートに行くのに、彼女に服から髪型まで面倒見て貰うのは確かにちょっとね。プレゼント贈呈の方は、芹さんへと移ったようだ。
「楓、料理のときに役立ててね」
「ありがとうございます」
芹さんの贈り物はミトンとエプロンだった。どうやら彼女は一人暮らししているらしく、これからの季節に役立つものを選んだそうだ。美人で家事万能で気遣いも出来るとか、完璧すぎない?
(まあ、俺にはなずなちゃんがいるから、別に気にしないけどね)
そうして俺の番になった。みんなの贈り物に比べたらちょっと申し訳なくなるようなものけど、これしかないと考え一冊の本を取り出した。
(サクラちゃんには、絶対に必要なものだからね)
しかしここで事件が起きた。俺と同じ選択を行った人間がいた。心節だった。しかも彼の選んだ本も俺のと同じ『よい子の保健体育』だった。それも俺が下巻、心節が上巻と示し合わせたかのようなニアミスが起きていて、思わず心節と目を見合わせた。
「......お前とはいい友達になれそうだな」
「俺もそう思うよ」
「はぅぅ」
俺と心節はシンパシーを感じ固い握手を交わした。サクラちゃんが別な意味で涙目になったし、他の全員から白い目で見られたけど、ふざけているつもりはまったくないよ?
「言っておくけど、真剣に考えた結果あれにしたんだよ。アヤと疎遠になっていたのを結びつけた大恩人なんだから」
「オレだってそうだ。感謝の気持ちを込めてあの本を選んだんだぞ? どうあっても必要なものだしな」
僕と心節の言い分が真摯なものだったからか、サクラちゃん含め誰も何も言い返してこなかった。気まずい空気になったので、俺は二人の両親から託されたプレゼントを出した。
「これは、アルバムかな?」
「そう、アヤにいとカエデちゃんの過去のアルバム。カエデちゃんの両親はさらに新品のアルバムも贈ってる」
「アルバム三冊とか、結構重かったんだよ? 誕生日パーティーが終わったら、アヤと二人で見てね」
「あっ、ありがとうございます」
ちなみに二人の過去の写真を収めたアルバムには、当然恥ずかしい写真も含まれている。あとでアヤ達が悶絶するところが目に浮かぶ。残念ながらそのイベントを見る時間はないんだけど。
「最後はワタシ。女子全員ワタシに着いてきて。男子はリンにいに着いていって」
「はぅぅ?」
「アタシ達も?」
「そう」
そうして、最後に残ったなずなちゃんからのプレゼントだけど、別室に用意してあるため、なずなちゃんは女子を連れ二階に上がり、紅葉さんの部屋へと入っていった。
「何企んでるの、リン?」
「まあすぐにわかるよ。そうそう、君にもプレゼントがあるから、着いてきなよ。せっかくだし心節もおいでよ」
「おう」
二人を連れ立って、一咲さんの部屋――今は空き部屋の扉を開くと、心節は驚愕、アヤは困惑の表情を浮かべていた。うん、大成功だね。
お読みいただき、ありがとうございます。あと残り三話です。