第四十五話 彩芽くん、幼馴染みを泊める
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リンとなずなちゃんという、突然かつ意外な来客があったのだけど、どうも夕食は済ませているらしいので、僕達はお風呂と寝る場所を用意するだけでよかった。今はなずなちゃんとかえちゃんが一緒に入浴していて、次にリン、最後に僕が入る予定だ。
「悪いね、いきなり来た上泊めてって頼んでさ」
「別にいいよ。ところで、こんな時間にここにいるってことは、学校サボってまではるばる来たの?」
「違うよ。電車じゃなくて飛行機で来たから、この時間に来られたんだよ」
「すごいねリン。僕にはそこまでする行動力ないよ。それで、どうしてここに来たの?」
休日に遠くに遊びに行く。言葉にすれば簡単だが旅費を貯めるのも、そこに至るまでの手段を考えるのも決して楽ではない。それも連休じゃなくて普通の休みにそうしたのだ。特別な理由があってのことだろう。
「サクラちゃんの誕生日を祝いたかったから」
「ありがたいけどそれなら別に、メッセージとかプレゼントを宅配で送ってくれるだけでいいと思うんだけど」
ただ祝いたいという理由でここまでされたら、かえちゃんじゃなくても恐縮してしまうだろう。リンもそれは理解しているのか、本当の理由を語り始めた。
「前も言ったと思うけど、俺とアヤの関係が修復されたのはサクラちゃんがいたからだって思ってるんだ。だから、そんな恩人の誕生日を無視するなんて、俺には出来ないし恩返ししたかったから」
「そう。じゃあその理由、誕生日パーティーのときに本人に伝えてね。友達も呼んでるから」
「あのさ、サクラちゃんだけならまだしも、人前で話させるとか君には慈悲ってものがないのかい?」
「だってそうでもしないと、二人がここにいる理由を説明できないから」
往復数時間、それも旅費が五桁を超す道程は学生にとっては過酷なものだ。それを実行に移した動機は伝えるべきだと思うし、そうすることでリンとなずなちゃんの人間性が友達にも伝わるだろう。
「わかったよ。確かに俺となずなちゃんという異物が混ざってると、祝いに来た人達からは不審に思われるし、警戒されるか」
「そこまでは言ってないんだけど。というか二人のことは一応伝えてるから、抱かれるのは不信感よりは驚きの方だと思うよ」
「だといいけど」
リンが肩をすくめるのとときを同じくして、扉がノックされ短く「終わったから次はリンにい」と告げられた。
「おっ、なずなちゃん上がったみたいだから、行ってくるよ」
「いってらっしゃい。その間蒲団敷いて、正座して待ってるからね」
「勘弁してよ。君がすると似合いすぎだから」
そう言ってお風呂に行ったリンを見送ったのだけど、すぐになずなちゃんが訪ねてきた。
「なずなちゃん?」
「アヤにい、今日はどこで寝たらいいの?」
「あー、そういえば伝え忘れてたね。紅葉義母さんの蒲団を、かえちゃんの部屋に持っていかないとね。一緒に寝るんだよね?」
「むぅ」
そう伝えたのだけど、なずなちゃんはどこか不満そうだった。かえちゃんと一緒だったらなずなちゃんは喜びそうなんだけど。不機嫌なままなずなちゃんが問いかけてくる。
「アヤにい、明日は何の日かわかってる?」
「かえちゃんの誕生日だよね? それがどうかしたの?」
「それがわかってて、どうしてアヤにいはカエデちゃんと一緒に寝ないの?」
「どうしてって、友達が訪ねてきたのなら、積もる話もあるだろうから女の子同士で」
「アヤにい、女心わかってない。いつもなら正解だけど、今日に限っては不正解」
僕の発言を遮ってピシャリと言い放つなずなちゃん。
「突然泊めてとやって来たワタシ達に気を遣ってくれるのはありがたいと思う。でもアヤにい、明日誕生日の恋人以上に気遣う相手はいない。大好きな相手に一番におめでとうを言われる嬉しさを、どうかカエデちゃんにプレゼントしてあげて」
ここまで言われて、かえちゃんと一緒に寝ないという選択肢は選べなかった。それに元々、二人が来なかったら自分から行くつもりだったので、予定が元に戻っただけとも言える。ただ、抱いた想いの強さは今の方がずっと上だった。
「わかったよ、なずなちゃん」
「それでいい。それとアヤにい、万が一ワタシやリンにいが邪魔しないよう相互監視のため、同じ部屋に泊まっていい? ついでに蒲団は一組でいい?」
「構わないよ」
あれっ、なんかどさくさ紛れにとんでもないことを言われて、しかも許可を出したような気がする。まあいいか。
「これでリンにいと合法的に一緒に寝られる」
「何か言った?」
「アヤにいには関係ないから、気にしないで」
なんかなずなちゃんの目が妖しく光った気がするけど、僕とかえちゃんに関係ないならどうでもいい。意外となずなちゃんって、甘えっ子だったからね。
「アヤー、風呂上がったから行って――うわっ!」
「リンにい、今日は一緒に寝る」
「ちょっ、なずなちゃん! 一緒に寝るのはいいけどいきなり抱き付かないでよ」
リンに抱き付いていたなずなちゃんは、とても嬉しそうな顔をしていた。まるで、お預けをされていた犬が餌を食べるのを許されたときみたいだった。
「ねえ、なずなちゃんのこの喜びよう、何かあったの?」
「いやその、外泊の条件が別々の部屋を取るだったんだけど、ホテルが運悪く満室だったんだ。それでとりあえず君達の家に来たんだ」
あー、今日はお祭りだったからね。というか、親に別の部屋に泊まれって言われるの相当じゃない?
「節度は守ってるし一線は越えてない。抱き合いながらキスして寝てるの見られただけ」
「それのどこが一線越えてないって?」
「キス以上はしてない。父さんも母さんも疑りすぎ」
「その、抱き付かれてる俺が言っても説得力ないかもだけど、本当に一線は越えてないよ」
二人がやたらと否定するものだから、逆に疑わしく思いつつ僕はお風呂に向かったのだった。
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